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エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)30

「ちょっとスポーツにどうかなと思ってね。村でも弓の一番を毎年決めてるだろ? 子供たちも一番を決めてみたらどうかなと思ってね。長老が危険だと言ったら諦めるしかないけど」

「だったら、柔らか木の実がいいよ。当たっても痛くないよ」

 チコが言った。

「そんな木の実があるのか?」

「綿毛の木の実が破裂する前に摘み取って、表面にニスを塗って固めた奴だよ」

「痛くないのか?」

「直接当たったら痛いけど、服着てれば平気」

 なんだろう、なぜかみんな闘志を燃やしている。

「あ、あのな、スポーツと言っても、射的みたいな的当てゲーム――」

「デスマッチ…… 当たったら負け」

 チコがちっちゃな拳を握りしめる。

 え?

「チームバトル……」

 ええ? そっちなの?

 子供たちが不適に笑う。

「サバイバルやな! 負けへんでーっ!」

 えええ? 

「うちの村のみんなも参戦や!」

 ええええ? マルサラ村参戦?


「どうしよう。的当て競技にしたかったのに」

 食堂のテーブルに肘を着いた。

「いいんじゃないの? 獣人の子らしくて」

 アンジェラさんが笑いをこらえながら言った。

「怪我だけはしないようにして貰わないと」

「防具ならありますぞ。目を覆う道具も知っております」

 長老トビ爺さんのお出ましだ。

「柔らか木の実を使うのでしたら、大きいですし、スリットを切った眼鏡だけでも大丈夫ですじゃ」

 ホッケ婆ちゃんまで。

「まさか、スリングとは考えましたな」

 いや、考えてないから。

「皆賛成じゃ。この村には狩りにも連れて行って貰えん子が多いからの。本番までの練習にはなりましょうじゃ」

「別にそう言う意味で始めたわけじゃ」

「子供は笑顔が何よりですじゃ。遊具の購入リストにスリングの道具を入れておきますかな」

 もう勝手にしてくれ。


 その夜はスリングの話で持ちきりになった。例の鏃を新型銃の代わりに迷宮内で使うための手段を模索していただけなのに。

 子供たちは夕飯を食べ散らかしながらはしゃいでいた。「何人制?」「フィールドはどこにする?」「時間は?」

 危ないソリ遊びがなくなってほっとしてたのに……

「新型は意外に使えないわね」

 ロザリアが言った。

「使用条件が特殊だし、財布にも優しくないからね。バリスタを背負って迷宮に入らないのと同じさ」

 取り敢えず、圧縮した鏃を打ち出して使えるかだけ確認しよう。



 新型の鏃は使いどころがなく、結局二階攻略が終っても出番はなかった。

 敵は一部屋に付き一体のミノタウロススペリアが加わる編成になっていったが、こちらの戦術に影響はなかった。むしろ間髪入れずに斧が飛んでくる方が怖い。

『魔石モドキ』がドロップする機会が増えたが、金貨十枚が転がってると思えば回収しないわけにはいかなかった。自分は、リュックに収めるのは止めて頭陀袋に入れて運んでいる。

「広いだけだったわね」

 ロザリアが三階に上がる階段の踊り場で振り返る。

 使役が使えなかったら、あと幾日を要したことか。部屋をスルーして出口を目指せば敵は最小限で済んだのだろうが、扉という扉はすべて開けて回る方針だったので止むを得まい。その割りに羊の戦鎚は一本増えただけで踏んだり蹴ったりだったが。普通のパーティーならもう羊の件からは手を引く頃合いだろう。

 予想だとこの上の三階にいる敵は更にグレードを増しているはずだった。『魔石モドキ』が示す強力な魔力持ちの存在も気になるところである。

 三階の気配が変わっていた。

「誰もいない?」

「ゴーレム」

 なんと、ゴーレムが守護するフロアーになっていた。ジュエルゴーレム。遂にサボタージュもここまで来たか。

 そして側には魔力を吸収するあの避雷針のポールだ。通路の要所を二体がペアで守っていた。

 戦闘スタイルを変更。雷を封印。遠距離からの銃並びに氷塊、土塊での物理遠距離攻撃だ。

 圧倒的物量で、殲滅していく。避雷針のスイッチは相変わらず部屋と廊下の変わり目に張り巡らされていた。

 堅い分ミノタウロスより厄介だが、動きづらそうにしている点は変わらない。どこにも回避できないゴーレムは格好の的だった。

 恐らく、他のパーティーにはよりやりづらい構成なのだろうが、こちらとしては却って与し易かった。事前に避雷針を調査しておいてよかった。中途半端な予測で動かずに済むので、気苦労もなかった。

 この分だと、元々半分ほどの床面積しかない三階は一日で攻略できそうだ。数ブロック進んで空き部屋を見て回り、僕たちは迷宮を脱出した。即行で『魔石モドキ』を現金化した。

 呆れたことに金貨二百枚にもなった。


 精製し終った宝石を『銀団』の窓口に持っていく。

「鑑定士が今留守なので預かり証を」と言われて、袋に付いた番号と同じ番号の入った紙切れを貰った。はて? この間まで目の前の同じ人物が精算してくれていたのに?

「あの……」

「このレベルの石の鑑定はわたしにはできません。わたしの師匠に鑑定を依頼しますので二、三日お待ちください」と言われた。

「それって、石のグレードが上がったってこと?」

「そうなります」

 どうやら、僕のスキルも成長しているようだった。

「次からは柔らかい布でくるんで、傷を付けないようにしてお持ち込みください」と言われた。

「ではそれ用に柔らかい布を」と言うと、リオナが売り払ったメルセゲルの布が出てきた。

 売り主の名札を見て、お互い苦笑いした。

 僕は購入を止めてギルド館を後にした。


「リオナ」

「どうしたですか?」

 僕はオクタヴィアとヘモジをおちょくっていたリオナに尋ねた。

「メルセゲルの布の切れ端とか余ってないかな」

「リオナは持ってないのです。エミリーに聞いて来るのです」

 夕飯の準備をしているアンジェラさんの代わりにフィデリオの相手をしているエミリーの所に消えた。

 リオナが一反持ってきた。

「うちにあるのは、今これだけなのです」

 内着にするためのまっさらな反物だった。

「こんなにいい物じゃなくてもいいんだけど。あのな、宝石を傷つけないように包むだけなんだよ」

「それだったらもう少し厚手の生地がいいのです。うちのストックの分も合わせて、明日買い溜めしてくるのです」

 そう言ってわざわざ出してきた反物をエミリーの所に戻しに行った。


「宝石を布で包むですか?」

 戻って来たリオナが聞いてきた。

「うん、傷が付かないようにね」

 リオナが突然、自室に戻ると自分が溜め込んだ石を残らず持ってきた。

 冒険の度に気に入った石だけ溜めてきたものだが、今となっては価値があるのかないのか…… 大きさも様々な低レベルの、だがリオナには思い出の石たちだ。

「傷ついてるですか?」

 僕は石を見た。正直安物だなとは思った。

「磨いておこうか?」

 磨くというより再精製だが。

 リオナがにっこり笑った。

「昔集めた宝石は安物だけど取っておくのか?」

 リオナは大きく頷いた。

 僕が宝石を磨いていくのを面白そうに見つめている。


「はい、これで終わり」

 リオナは表面が滑らかになった石を取って、匂いを嗅ぐ。

「布に巻くのです」

「布は?」

「む」

 エミリーのいる使用人部屋を一瞬見るが、自分の部屋に駆け込んで、古着を一枚持ってきた。

「明日買ってくるのです」

 そう言って、石同士が当たらないように、古着に小分けに包んで自分の部屋に持ち帰った。


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