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エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)29

 午後も二階の攻略である。

 次第に退屈はどこかへ吹き飛んでいた。ミノタウロスの反応は奥へ進むほどエスカレートしていった。斧だけでなくその辺にある物をなんでも投げるようになった。

 椅子やテーブルは元より破壊した壁の瓦礫まで投げてくる。

 僕たちの戦闘はスリリングなものに変わっていった。ロメオ君も念のために盾を出した。こちらの戦闘は隠密性を上げての戦闘にシフトしていった。敵に発見される前に仕留めるスタイルに昇華されていった。

 一番簡単だったのはオクタヴィアの『使役の笛』を使っての戦闘だった。生憎、廊下からでは音が遮断されるのか、使役できなかったが、扉を少しだけ開けて潜入させてやれば、いつも通りである。障害物がないときはヘモジを護衛に付けた。

 ミノタウロス同士の壮絶なバトルのなか、高みの見物を決め込んでもいいのだが、それでは時間ばかりが過ぎて行くので、一斉に突入して彼らの終焉の時をわずかばかり短縮してやるのである。


 結局、この日も二階フロアーの完全攻略はならなかった。部屋割りが単純化していく一方で、戦闘がより高度なものになっていくのでプラマイゼロである。

「最後の敵なんて魔法を使ってきたのです。反則なのです!」

 ミノタウロススペリアとか言う名前だった。さすがに斧は持っていなかった。代わりに丸い水晶を持っていた。これが安物の水晶なのだが、結構な魔力を含んでいた。

「なんだろうな?」

「魔石でもなく、宝石でもない……」

「魔道具の一種じゃないのか?」

 でも術式は見当たらない。見えないほど深部に彫り込んであると言うのか?

「じゃあ、宝石なのです」

「こんなでかい、魔力を含んだ宝石なんかあるか?」

「ギミックじゃないの?」

「持ち帰ってマリーさんに聞くのが早いと思いますけど」

 僕は大きな丸い水晶をリュックに放り込んだ。

「これからは魔法対策もしないといけないのか」と溜め息が出た。


「それは『魔石モドキ』よ。魔力の高い魔物の……」

「何? 聞こえない」

 マリーさんが肝心な部分を小さな声で呟いた。周囲を見渡し、全員の額を集めて改めて呟いた。

「……よ」

 排泄物? えええ? やば、触っちゃったよ。

 僕が慌てふためくなか、リオナは淡々と話を進める。

「役にたつですか? 売れるですか?」

「売れるわよ。結構いい値段でね」

 そう言って、掲示板から依頼書を剥がしてきた。

「金貨十枚?」

 なんなのこれ?

「特殊な魔導具を使えば魔力を取り出せるのよ。出がらしみたいなものだから、大きさの割には微々たるものだけど」

「魔石みたいなものか?」

「迷宮のない地方ではね。これを集めて魔石の代わりをさせることもあるのよ。そういう国に持っていったら、この大きさは貴重ね」

「でも、それがあるってことは、敵の魔物の魔力は注意しないといけないわよ」

 そんなに強そうには見えなかったけど。

「因みにそれ、化石化するほど前のものだから汚くないわよ」

 いや、でも糞だから!

 きっぱりお断りして売り払った。魔力を取り出す魔導具もないしね。



「これ貰ってええんか?」

 家に帰ったらワカバと子供たちが遊びにきていたので、ドロップ品の大斧をワカバに渡した。

「凄い、ほんまもんや!」

 ほんまもんって…… あんた。

「ちょっと木、切ってきてええか?」

「外の木を勝手に切るとユニコーンに怒られるよ!」

 チコが警告する。

「そないなこと分かっとるがな。その辺の倒木でええんや。切れ味試すだけや」

「よっこいしょ」と、身の丈よりある大斧を担いだ。

 家具にぶつけないでくれよと願いながら玄関まで見送る。

 子供たちもゾロゾロ付いて行った。


「ワカバの奴、何しに来たんだ?」

「遊びに来ただけよ」

 アンジェラさんが子供たちが散らかした物を片付けながら言った。

「ワカバの友達は?」

「『お土産に『ハンバーグ&チーズサンド』を買って来て』だそうよ」

「友達の分の魔石は融通されなかったか」

「親としても余りあの年頃の子に遠出はさせたくないわね。増して女の子だし」

 子供たちがいない間に僕は地下に降りて、装備を下ろした。リュックは念を入れて浄化しておいた。

「僕だって、十四になってからだ」

 見慣れた装備の保管部屋を見回した。殴られることの少ない僕たちだが、装備はそれなりに痛んでいた。そういや、マリアベーラ様に頼んだドラゴンの装備はいつになったら来るんだ。なめす工程からだとしても、そろそろ何か言ってきてもいい頃合いだが。

 取り敢えず自分の装備を確認する。戦闘での傷は余りないが、日常生活においてはあっちをぶつけ、こっちをぶつけしているものだ。防具同士、決まった場所ばかり擦れてしまっていたりする。傷があればあったでその分愛着も湧くのだが、僕たちは成長のど真ん中にいる。リオナの装備ももうベルトに余裕がない。今の僕たちになら、同等の装備を買う金はある。でも貰えるものなら、新調する前に貰いたい。

 マリアベーラ様に何か言うと面倒が増えるような気がしないでもないのだが。ここはヴァレンティーナ様にやんわりと状況を尋ねて貰おうかな。

 上の階に出ると森でカンカンと木を切る音がした。

 おい、ワカバ。あんまり堅い木を叩いてると親父に渡す前に刃こぼれするぞ。

 そうだ。僕はあることを思い付いた。そして子供たちがいるうちの森のなかに入っていった。

 僕は堅い木の生えている場所の地面を探った。

「あった」

 僕は二叉に分かれた木の枝を手にした。押したり引いたりして確認する。これならいけるかな?

 子供たちが斧を痛めつけるのを止めて、いつの間にか僕を遠巻きに見ていた。

「兄ちゃん、何してんだ?」

 僕は二叉に分れた木の枝を振った。

「こういう枝を探してる」

「もしかしてパチンコか?」

 ワカバが嬉しそうに言った。

「パチンコ?」

 子供たちが聞き返す。

「スリングのことや」

「なんだ。スリングか」

「ワカバちゃんの村ではパチンコ言うの?」

 チッタにワカバの訛りが移った。

「そうや、うちの村じゃ、お洒落な言い方は通じんのや」

 そんなことないと思うが……

「でもそんなもんどうすんだ? 兄ちゃんには銃があるだろ?」

「お前らにはないだろ?」

「作ってくれるの?」

 チコが跳ねた。意外にもチコが一番嬉しそうだ。

「あくまでスリングは武器だからな」

「大人の言うことは聞くよ」

「怪我だけはするなよ」

「分かってるって」

「お前が一番心配なんだよ!」

「なんでだよ! 俺、剣だって持ってんだからな」

「あ、そうだ。剣しっくりきたか?」

 僕はピノに以前アガタの店で買った剣がどうだったか聞いた。

「店長が、ちゃんとしっくりくるまで調整してくれた」

「そっか、ならいい。折角だ。みんなの手のサイズに合う枝を選べ」

「だったら、若様、その木は駄目だよ。堅いけど折れやすいんだ」

 そう言ってピオトは「あっちの方がいい」と言ってみんなを扇動した。

「ピオトはこういうことに詳しいのか?」

「お父さんが木工職人だったんだよ」

 テトが言った。

「俺も今修行してんだ」

 知らなかった。ただピノたちと連んでるだけかと。そうか、親父の後を継ぐのか。

「がんばってんだな」

「当たり前だろ、俺だって負けらんねえからな」

 負けられないか……

「じゃ、スリングはピオトにたのもうかな」

「え?」

「師匠は誰だ?」

「以前、父ちゃんと一緒に仕事してたハリスさん」

「じゃ、そのハリスさんにできあがりの値段を決めて貰え。ここにいる全員と、うちの連中の分を依頼する。エミリーの分もな」

「いいの?」

「適当な物を作ってきたら、師匠に抗議するぞ」

「分かった! ありがとう、若様!」

「また変なこと考えてない?」

 僕にチッタが疑問形で聞いてくる。


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