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エルーダ迷宮侵攻中(新型銃開発)27

 肝になるのは鏃。そこに書き込む術式に尽きる。

 そうだ。魔石を用意しないといけない。

 大事なのは射出に要する魔力と追尾に要する魔力、破壊力を増すための魔力、その総量と配分である。どこまでを弾丸、もとい鏃で賄うかということだ。

 後は火竜は火を吐くので燃えない素材を使うことだ。


 射出に要する魔力は弾丸の大きさで決まる。初級魔法『爆発』による効果がすべてであるから、後は威力の調整だ。銃の弾丸は小さかったので、微々たるものだったが、今回は当然重さに対して威力を増すことになる。それでも全力ということにはならないはずだ。

 筒の方で供給してもいいのだが、リオナやピノに使わせることを想定すると、連射させるのは気が引ける。いっそ、スイッチでも付けて切り替えられるようにするか? でもそれだと弾丸も一々魔力の配分を換えた物を用意しないといけない。

 ええい! ここは汎用性を取るか。魔石の方に入れることにする。筒の方は威力を増すなり、弾速を上げるなり、後で好きにして貰いましょう。

 追尾は射出後何秒必要だろうか? 実際、リオナたちの索敵距離から逆算すると相当な距離と時間を飛んでいて貰わないと困るわけだが、ちょっと保留する。

 破壊魔法を先に決めた方が早い。使う魔法は雷撃か? 氷魔法か? どちらも魔力の消費は大きい魔法だ。でも直撃しなくても効果がありそうなのは風魔法の破裂系の魔法なのだが。『爆発』をもう一度起こすというのはどうか? 魔力消費を考えたら、その方がいいんじゃないか?

『必中』発動、威力の違う『爆発』を二回。二回目は…… 発動のトリガーはどうする? 魔法の矢はどうしてるんだ?

 ちょっとアイシャさんに教えを請いに書庫に行く。

 アイシャさんは据え置きのメモ書きにスラスラと術式を書いていく。さすが、ハイエルフ。空で術式を書いた紙をちぎって渡された。よく見たら、全部の行程が書かれていた。

「誘導は十秒にしておいた。今日一日試して、設定を決めたらもう一度持って来るがいい。封印を施してやろう」

 セキュリティーを掛けて一気に魔法陣化するのか。姉さんといい、ほんと凄い。

 倉庫に眠っている風の魔石(中)を二十個ほど取り出してきて、鏃の形に成形した。後は術式を施せば完成である。

 筒は、船に積んである奴を参考に、お尻から弾、もとい鏃を補給できる遊底(ボルト)式を採用した。鏃の大きさから逆算して、口径を大体定めた。魔力伝達用のコアは以前、取り替えて余った物を持ち出した。

 手持ちの材料が金塊以外なかったので、基幹部品以外は現地調達することにした。

 軸も矢羽根もおまけだから今日のところはなくて構わないだろう。



 エルーダ迷宮は今日も盛況だった。

 まず向かった先は地下四階。スケルトン先生で材料集めである。装備や盾の鉄屑を回収しては『楽園』に放り込んでいった。

 その後、二十八階のワイバーンの巣に向かう。帰りに宝箱でも開けて帰るか。

 現地に着くと部品の製作を始める。基幹部はできているので筒をはめるだけだが。歪みなく作るのが意外に難しい。筒の内径の型をまず慎重に作り、後は一体成形である。

 強度も分からないので安全率も上げておく。

 念のため、最初の一発は船の部品の伝導ワイヤーで点火する。

 巣の近くでいつも威嚇する奴に照準を合わせ筒を地面に埋め、タイミングを見計らって魔力を込める。

 風を裂く音がして、三秒ほどして吹き飛んだ。

「ええっ?」

 ワイバーンの半身が……

 威力が大きすぎた。威力を落とし再実験だ。筒は異常なかったようなので回収して、土を落とす。

 ワイヤーを外して、どうやって持ち運ぶか考える。見た目は太めの棒切れだが重量がある。腰に吊せる重さではないから、ベルトで背負うか、肩に担ぐか、車輪でも付けて転がすかしかないだろう。今は『楽園』に放り込んでおけばいいが。ミスリルで軽くできないだろうか? 材質的にどうなんだろう? 魔法と衝撃に強いからいけるだろうか? 高く付くので自分たちの分だけの改造になるだろうが。ミスリル回収したら、やってみよう。

 発射形態はどうしょう? 重いので銃のようには構えられない。寝転んで撃つか? でもそれだと迎角に限界が。船の上からなら構わないが、地上から空を狙うにはちと厳しい。銃口を三脚か何かで持ち上げておいて……。丈夫な三脚がいりそうだ。

 銃身をこねくり回す。腰だめにして構えたり、脇に抱えたりする。地面に筒を立て掛けたまま傾けて使う。これだと、弾込は上からの方がいい。肩に担ぐ。

 しっくりくる。筒に即席で取っ手を付けるが、重くて銃身が支えられない。そうか、重心をもっと後ろに下げればいいのか。グリップをライフルよりもっと手前にして、銃身の方にまで持ってくればいいのか? こんな形態の武器、今まで見たことないかも。投げ槍を担いだような格好だ。

 僕は空を飛んでいる奴を狙った。

「発射!」

『必中』が効いているのか、弾、もとい鏃は弧を描いて飛んでいった。着弾まで三秒。

 ドンッ。空で空気が震えた。

 ワイバーンが墜落する。急いで落下地点に向かった。

 落下した場所は谷底の岩場で手の届かないところにあった。首から上がきれいに消し飛んでいた。どうやらうまくいったようだが……

 この調整作業は意外に難しいことに気が付いた。殲滅目的なら気にすることはないが、狩りが目的となると、使いどころが難しい。

 これで狩りをするのは取り敢えず僕たちだけだとは思うが。いずれ門戸を開放してもこのままでは冒険者は使いたがらないだろう。魔石狙いなら、瞬殺した方が実入りがいいケースもあるだろうが、そもそも魔石(中)を消費するからな。魔石(大)以上を狙うことになるだろう。

 各魔力量の比率を変えてみたり、筒の長さやグリップの位置を変えてみたり、照準器の調整をしてみたりして二十発の魔石を消費した。火竜相手と想定してワイバーンの二割増しぐらいにしておいた。火を纏っていなければ装甲の薄さではそうたいした違いはなかろう。これ以上の微調整は姉さんたちに任せてしまっていいだろう。

「まだまだ魔力量に余裕があるからな」

 どうにでもなる。

 これは思った以上にやれるのではないか? このとき僕はそう思っていたのだが、実はこれには大きな落とし穴があった。それは使った魔石の純度である。純度を上げて恩恵があるのは書き込む情報量だけではない。魔力の含有量も大幅に増えるのである。

 つまり、何気なく家から持ち出した魔石は自分の成形した魔石で、標準を越える魔力量を含有できたのである。

 このことに僕は気付かなかった。気付いたのは試作品をお披露目したとき、姉さんに指摘されてからだ。

 ドロップ品にも当たり外れはあるが、買い叩かれることなく標準的な値段で売買される魔石の場合、魔力量は限界ギリギリだったことが判明した。消費量ではなく、総量に対する歩合で量を調整していたため分からなかったのだ。

 裏を返せば、これは純度の調節でいくらでも威力を上げられると言うことである。

 僕は思わずほくそ笑んでしまった。

「ばれないようにしろよ」と、珍しくヴァレンティーナ様と姉さんに恩情を掛けられた。

 後で聞いたら、自分たちもそうするからだと言われた。

 標準的な風の魔石(中)を使った場合。追尾を途切れさせるわけにはいかないので『必中』は常時発動が必要だ。その後『爆発』魔法による射出。誘導時間は開始から最長で八秒。残りを破壊のため、すべてを二回目の『爆発』に充てる。これでほぼすっからかんだ。

 筒の方にも細工できれば、これに余裕が生まれるだろうとのこと。弾速を増すか、誘導時間を増すかして射程を伸ばすか、ストレートに破壊力を増すか。

 依頼は完了。僕は試作品を館において帰宅する。

 ミスリルを取ってきたら早速作ってみるとするか。


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