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エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)25

 最後の地図が見つかったところで、勢いを借りて一階をすべて攻略し尽くそうと意気込んだのであるが、ロメオ君から物言いが入った。

「この先の階段下は袋小路になってるよ。後で攻略するより、今しちゃった方がいいんじゃないかな?」と言うことだった。

 地図をみんなで見比べ、今日一日のノルマとしてどうなのか、他の日に回すとどうなるのかなど合わせて考えた。

 この広さなら昼までに掃討できそうだし、午後から一階を攻略した方が、取りこぼしができても次回が楽だと判断して、下の階の孤立したエリアの攻略をすることにした。


 下りた先は使用人か何かの居住区のようで、部屋割が細かく、敵も味方も立ち回りが難しくなっていた。ミノタウロスが闊歩できるのだから、小部屋と言っていいのかどうか、異論を挟む余地は多分にあるのだが、兎に角、彼らには窮屈なスペースだった。

 そんななか、気を吐いたのがリオナとヘモジである。

 ふたりは狭い空間において打って付けのアタッカーであった。大きな図体で斧も満足に振り回せないミノタウロスをあざ笑うかのように鋭いステップで翻弄した。敵もまさかこんな小さな尖兵が来るとは思っていないからたじたじである。

 筋骨隆々の胸板や腕の隙間から、頭を下に覗かせたらゲームセットだ。一生で最後の手痛い一撃を食らうことになる。

 時間は順調に過ぎていった。

 そして残すところ一部屋。ここだけは他の部屋と違って、若干広くなっていた。

 敵はいなかった。

 拍子抜けしつつも、扉を開け、警戒しながらなかに入った。

 これまでの窮屈な景色とは別の景色が広がっていた。バルコニーがあって日が差し込んでいた。風がそよいで淀んだ空気を押し流す。

 地下空間だと思っていたからみんな呆然と立ち尽くした。

 恐る恐る警戒しながらバルコニーに出ると、山の傾斜に沿ってでたらめに建て増しを繰り返した荒唐無稽な大宮殿が見渡せた。

「はあ……」

 思わず溜め息が漏れる。

 入手したマップ部分は、精々宮殿の門殿に詰める門番の厠程度の広さだった。

 上にも下にもどこまでも宮殿が続いていた。エルーダの迷宮がすっぽり収まりそうな広さだったが、そうではないことはこれまでの攻略でも明らかだ。どこまでもということはないのだ。

 絶景が拝めただけでもよしとするべきか。

 リオナとヘモジ、ナガレにロザリアがバルコニーと対面する壁の落書きに注目していた。

『羊が一匹…… 二匹…… 三匹……』

 寝不足の僕にはつらい呪文であった。

『十匹連れて、お宮参り』

 全員がじとーっと、ナガレの方を見る。

 ナガレもじとーっと自分の背中にある物に目をやる。

 羊のレリーフ入りの戦鎚である。

 僕とアイシャさんとロメオ君も遠目から更にじとーっと見つめる。

「一本どこやったですか?」

「さっき捨てたわよ。重いから」

「最後の隠し部屋の手前ですか?」

 参ったね。ここから転移して昼食といきたかったのだが、どうやら上に戻ってからになりそうだ。

「お宮参りって、やっぱりマップになかったあの祠だよね」

 ロメオ君が聞いてくる。

「恐らくね。羊が十匹ってのは、レプリカ十本ってことだろうね」

 先回りして答えておく。

「戻るの面倒臭いのです」

 どの道、戻らないと先には行けないのだから、文句を言っても仕方がない。昼食の前か後かの違いでしかないのだ。

 僕たちは急いで来た道を戻って、ナガレが捨てたレプリカを探した。


「消えたかな?」

 魔石や身体の部位ではないので、マップの更新時間までは残っているはずだ。

「あったのですッ!」

 リオナとオクタヴィアが見つけた。

「取り敢えず、二本だな」

 さて、これをどうするかということになった。一々家から持ち出していたのでは重くて叶わない。どこかに預けるか? 修道院に預けてはどうか? 十本集めると何かが起こるかもという情報提供にならないだろうか? 修道院預かりでナガレの趣味だと言い張るのも無理がある。

 考え込んでいると、アイシャさんが「わたしが預かろう」と言った。

 するとアイシャさんはミスリルで細工を施された真っ黒な生地の袋を取り出した。

「『魔法の袋』じゃ」

 え? 現存するの? 

 調べたい! 思わず身を乗り出す。

「調べるのはなしじゃ。エルフの秘宝じゃぞ。最近手に入れたから、まだうまく使えんのじゃ」

 こんな凄い魔道具を持っていたのか! もっと早く教えてくれればよかったのに。

「こら、何をしておる。早く仕舞わんか!」

 器用にピンポイントで消音結界を掛けながら小声で話し掛けてきた。

 え? もしかして嘘なの?

 僕はタイミングを合わせて『楽園』に放り込んだ。

「おーっ!」

 リオナたちが感動して拍手喝采した。袋を逆さまにして覗き込んだり、手を恐る恐る突っ込んでみたりしている。

 でも、そんななか、ただひとり騙されない奴がいた。

 ヘモジである。

 こいつだけは僕の魔力の増減に敏感なのだ。

「ナー……」

 じーっと、こちらを見つめる。

 ちょこちょこと寄ってきて、ズボンの裾をつんと引っ張る。

 しゃがんで顔を近づけると耳の側で囁いた。

「ナーナ」

『サラダ大盛り』

 ヘモジ…… 小さッ! いろんな意味で。

脱力しすぎて、頭が勝手に垂れた。


 斯くして下層袋小路エリアの攻略は予定をややオーバーしながらも、リオナの腹時計の合図を以て終了した。

 宝箱の数は十を超えたが、中身はいつも通り粗悪であった。

 遅くなったのでこの場で転移する。マップで出口が確認できているのでショートカットはお役御免である。

 だが、これで迷宮殿の地下部分の攻略はほぼ済んだ。後は上層の飛び地を繋ぐ地下通路のようなエリアだけだ。

 目的の出口は三階を登った先にある。上を目指す身としては、下層エリアが残っていては気が散るので終らせておいて正解だった。特に羊の件は土壺に嵌まる可能性があったので早めに分かって運がよかった。

 二階部分は一階部分の床面積とほぼ同等であるから、どの道まだ数日かかるはずである。午後からは一階の未到達エリアの攻略だが、今日中に終らなくても構わない。

 窓の外を見ると、対岸に渡された吊り橋が見える。対岸は絶壁、こちらの三階屋上部分と向こうの地上部分が繋がっている。

 たまにちらちらと監視の兵が垣間見えた。


 金額ベースではさしたる儲けはなさそうで、宝箱から出た宝石もそのまま処分予定だった。ただ、魔石が一袋分溜まった。

「一度精算しておこうか」ということになって、久しぶりに依頼書をこなした。

『魔法の袋』に入れておいて、後でという話にはならなかった。大事なものだから必要最小限にしか使わないとアイシャさんが釘を刺しておいたからだ。


『依頼レベル、C。依頼品、土の魔石(中ランク)。数、五。期日、火前月末日まで。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、金貨五枚、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』

『依頼レベル、C。依頼品、火の魔石(中ランク)。数、五。期日、火前月末日まで。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、金貨十枚、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』


 報酬をパーティー用の財布に放り込みながら、修道院のことを考えた。あっちに預けた分もそろそろ売却された頃だろうし、今日の帰りにでも顔を出さないとなと。

 二階の依頼書に何かないものだろうかと思いつつ、せっつくリオナに手を引かれて、ギルドを後にした。


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