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エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)24

「あった! 見つけたぞ」

 カーテンに隠れたところに狭い扉があった。

 中を覗くと……

「宝箱だ!」

 鍵を開けると、宝石と一緒に地図が見つかった。

「西側の地図だ」

 労せずに片側のマップを手に入れた。ほっとしたのはロメオ君だ。

「西は三枚だけみたいだ。三層構造みたいだね」


 見逃した部屋のなかから、結局三つの箱を発見して、七枚もの地図を手に入れた。

 今度は地図を塗りつぶしていく作業になった。

 建物の構造がほぼ白日の下に晒され、四択に別れていたコースがどう繋がっているのかも把握した。崖っぷちの祠の図面だけがなかった。

 だが、まだ地図は完成ではない。肝心な出口が見つからないのだ。

 結局、時間切れになった。攻略は建物のワンフロアー半分ほどに留まった。多層構造なので、全体で言うと八分の一程度だ。

 これだけ広くてもここは迷路の地下三階フロアーで、ここ以外にまだ二層もあるわけだ。呆れた入れ子構造である。

 まさに迷宮殿(ラビリンス)だ。これでカラクリ屋敷だったら最悪だった。罠がないのが救いである。

「地図のおかげで次はもっと早い攻略になるだろう」

「疲れたのです」

 さすがのリオナも疲れ果てたようだ。万能薬をぺろりと舐めた。

 僕たちは引き返して、朝来た場所から脱出した。最悪ショートカットのルートを残しておきたかったからだ。


 リオナたちはレストランに頼まれて、チーズを買ってから帰るらしい。

 レストランは開店してからもいろいろな産地から取り寄せたチーズを味比べしていた。だが結局、一番リーズナブルな迷宮産のチーズを店の味に選んだようである。そりゃそうだ。十数年物の熟成チーズが普通の値段で売られているんだから。問題は持ち帰りが大変なだけで、それも今日はイチゴがいるから苦にならない。


 僕はロザリアに明かり持ちを頼んで、ゴーレム狩りの延長戦である。何も言わなくてもヘモジとオクタヴィアが着いてきた。荷物持ちにチョビも召喚する。

 こんなときばかり呼び出して悪いね、チョビ。

 狩りは順調に、快適に進んだ。

 ロザリアがうまくオクタヴィアやヘモジを扇動して、うまくあしらってくれたおかげで、こっちは戦闘に集中できた。気持ちよく動かされていたふたりも、迷宮での鬱積した気分を晴らせて、ご機嫌である。

 本日のミスリル回収分は四つ。量としては過去最高であった。


 ロザリアが自室に戻った隙に、転移を重ねてミスリル以外の物資を我が家の宝物庫手前まで持って来たが、セキュリティーが高くてその先には行けなかった。

 結局、腹のなかに収めた。

 金塊の量が凄いことになっていた。

「今度金型を持ってきてやろう」

 振り返ると姉さんがいた。

 秘密にしていた蓄財がばれた。というよりここは姉さんも使うからな。

「金型って?」

「金の延べ棒のだ。でかい塊のままじゃ不便だし、どれだけあるか分からんだろ? 外部からの魔法でも変形しない特注製の王国財務局の印入りの金型だ。問題は精製純度だが、例のスキルの練習にもなるだろ」

「何しに来たわけ?」

「お前にお土産だ」

 すると、頭陀袋のなかから大きな宝石がゴロゴロと出てきた。

「できる限りでいい。精製してくれ」

「なんに使うのか聞いていい?」

「西部方面に配備する雷筒のコアにする」

「この大きさを?」

「火竜を一撃で倒せる新型の大筒だ。人が抱えて運ぶわけではないからな。砲弾は安く上げたいから筒の方に仕込むわけだが」

 姉は嬉しそうに一枚の紙をちらつかせた。

「何?」

 姉さんはもったいを付けてなかなか言わない。

「『お姉ちゃん、大好き』と言ってみ?」

「誰が言うか」

「言った方が身のためだぞ。念願の新型銃の使用許可証なんだからな」

「え?」

 僕は姉さんの手から紙を奪った。国王のサイン入りだ。

「所有が認められるのは、国王自らが認定した者のみ。近衛以外では今のところお前だけだ。いずれ我が国のA級以上の冒険者にも必要なら許可が下りるだろうが、当分は城壁配備だ」

「船に付けても?」

「所有は一枚に付き一つだけだ。個人的には運搬も設置も両方いける物を考案してくれると助かるんだが」

「それって、僕が作るの?」

「銃に毛が生えたようなもんだろ。早急に頼む」

「姉さん、ありがとう」

 不本意ではあるが、お礼に抱きついておいた。

「シャイな奴め、『お姉ちゃん、大好き』と変換しておいてやろう」

 勝手にしてくれ。

 許可証は昨日の夜、すこぶる機嫌よく館に現れたダンディー親父が置いていった物だそうだ。

 船の開発は一朝一夕にはできぬ故、新型の大筒の開発を先に依頼してきたと言う。取り敢えず、地上から火竜を倒すための装備投入でお茶を濁すらしい。

「アイデアなら、山ほどあるんだ」

 リオナが何か言ったことは確かだ。もしかすると、この大筒導入のアイデア自体、リオナの発案かも知れない。あの姉たちに似て、あれで意外に策士だからな。

 兎に角、特殊弾頭を奪われて以来の鬱積してきたものを吐き出す機会がようやく来たのである。

 注文は『バリスタ同等の破壊力と連射性、携行性と汎用性を持った物』ということらしい。

 

 バリスタの鏃に『必中』の付与が施してあることは意外に知られていない話である。それ故、ドラゴン退治の切り札として、長きに渡り城壁の守りの要とされ続けてきた。ドラゴンキラーとして、安価な部材で量産可能な質量兵器として文句ない代物だったのである。

 欠点は連射ができないことと、照準を合わせづらいこと、人員を多く要することと、ドラゴンの相手をするには燃えやすいことだった。

 今度の雷筒開発は長所を失うことなく、欠点をなくすことに尽きる。どの道ドラゴンの五層結界は一撃では破れないのだから、そこは連射性でカバーすればいい。

 うちの船の銃座のようなものをオプション装備すれば、力を使わず照準も付けられるし、破壊力は弾の方に魔石を仕込めばいいだろう。

「あれ? 弾丸の規制も解除されたの?」

「鏃なら規制はないわよ」

「ああ、だから大筒か……」

 いろいろ抜け道がありそうだ。

 王様の気が変わらないうちに、構想をヴァレンティーナ様に提出することにした。

 徹夜して、僕は三つの案を書き上げた。

 

 

 眠気を覚ますために風呂に入り、重い肩の疲れを取って、ガツガツ食った。

 万能薬を舐めてもまだ頭のなかは霞がかっていた。

 翌朝、それでも攻略再開である。

 振り子列車のなかで少し眠らせて貰った。


 迷路のなかでは敵も復活していたが、昨日通ったルートはほとんど通らないので余り損した気分にはならなかった。

 ミノタウロスが氷の槍を受け、標本のように壁に貼り付いた。横に飾られていた大きな陶磁の壺が転がり、大きな音を立てて割れた。

 手から離れた大きな斧がゴロンと床に落ちた。

 息を潜めて周囲を警戒した。大きな音に敵が気付いたも知れない。

 探知スキルを稼働するも敵が動く反応はなかった。広すぎるフロアーに感謝だ。

 ふと気になって転がっている大斧を『認識』スキルで確認した。

「見つけたッ!」

 魔法付与の入ったなかなかの一品だ。素材も悪くない。

「折れた斧の代わりにこれなら文句ないだろ」

 勿論、勝手にしてることなので、深く考える必要はない。今度ワカバが来たとき、持たせてやるだけだ。重すぎでワカバは嫌がるかも知れないが。

「迷宮で採れるサンプルとして提供してもいいしな」

 とりあえず、修道院に転送した。


 宝箱を探しながら、マップを埋めていく。

 構造の把握も容易くなったので妙な気負いはなくなった。ゴールが見えるまでが不安なのだ。見えてしまえば造作もない。まして時間制限などないのだから気楽なものだ。

「羊のミノタウロス発見!」

 報告と同時にナガレが殲滅した。

「またレプリカなのです……」

「そう簡単に本物が見つかるかよ」

 ナガレがレプリカの損傷具合を見比べている。どっちも同じだと思うんだが。

 隠し部屋に宝箱を見つけた。

 今度の隠し部屋はガラスの向こう側にあった。一見すると廊下が続いているように錯覚する通路の突き当たりである。

 最後のピースが嵌まった。


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