エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)18
「え?」
「ワンフロアー?」
扉を開けると思わず「馬鹿な」と言いたくなるような景色が広がっていた。
天井を支える柱が中央に並んでいるだけの、ドラゴンでも住んでるんじゃないかと思えるほど巨大な煉瓦倉庫だった。だが、そこにいたのはジュエルゴーレムの石像群だった。それは起動もせず、壁一面に貼り付くように並んでいた。
「恐らく接近したら動き出すんだろうな」と誰もが思うだろう。
「やるか?」
小声で誰とはなしに言った。
一斉に連鎖してあれが全部動き出したらとんでもないことになる。見てみたい気もするが、笑えない事態になるだろう。
手近な奴を『魔弾』で狙った。
急所があるからやはり彫像ではないようだ。
すぐ隣に立っていたゴーレム像が動き出した。するとその隣も動き出した。壁に並んでいるのは一ブロックに四体。連鎖は四体目で止まり、手前の空間を警戒し始めた。
「ここって、いい狩り場かもな」
糸玉を取ったら、ここに固定して、ミスリル集めをしたいところだ。もっとも、記録できるのは最後に転移した場所だけなので、迷宮攻略と一緒にはできないのではあるが。
ジュエルゴーレムの第一波を倒すと、僕たちは螺旋階段の小部屋から出た。
大きな部屋をぐるりとゴーレムの像が取り囲んでいる。柱を通り抜けるときに必ず、左右どちらかに迂回しなければならないのだが、それがちょうどゴーレムの索敵範囲に掛かるようになっているらしい。
次の四体を呼び込むために一体を攻撃する。
一体はその場に沈み、残り三体が動き出した。が、その場に沈み込んだゴーレムにつまずいて、ドミノ倒しになった。
「ええー?」
四体目が倒れまいと踏ん張って、おかしな動きをしたせいで、運悪く隣のブロックの警戒エリアに入ってしまった。新たな四体が…… のっそりと動き出した。
まずい!
そう判断した僕たちは分散して敵と対峙した。
ただ急所の位置の指定はしなければならない。と思ったら、すべて同じ位置にコアがあった。
「急所はみんな頭にあるぞ!」
僕は叫んだ。
倒れた奴らはもはや脅威ではないので、リオナとヘモジが起き上がる前にとどめを刺した。
新規の四体はアイシャさんとロメオ君、ブリューナクに持ち替えたナガレに仕留められた。
「一体何体いるんだ?」
ロメオ君とふたり、壁の支柱を数え始めた。ざっと見て十本、並んでいる所とそうでない所もあるから、片側に大体三十体ぐらいである。既に十二体仕留めてるので、後二十体ぐらいだ。
僕たちは起動させては倒し、起動させては倒しを繰り返した。
片側のゴーレム群を殲滅するのに時間はかからなかった。普通のパーティーだったら涙目だろう。まあ、こんな馬鹿げたマップに当たらないことを期待するしかないだろう。
「で、肝心の宝箱はどこだ?」
ロザリアだけの明かりでは隅々まで照らせないので、みんなで手分けした。
「あった、宝箱!」
オクタヴィアが突然、駆け出した。
「嗚呼ああっ、駄目だ! オクタヴィア!、戻ってこい!」
オクタヴィアは未だ眠っているゴーレムがいる柱の反対側にぐるりと回り込んで、影に隠れている宝箱の前に自慢げに座り込んだ。
ゴーレムが次々目を覚ました。
見事に警戒区域を横断してくれたものだから、一斉にゴーレムが起動した。
完全に動き出す前に、沈める!
全員駆け出した。
端から僕、リオナ、ヘモジ、アイシャさん、ナガレ、ロメオ君、ロザリアが並んで一斉に頭部を破壊し始めた。
オクタヴィアは振り向いたまま固まった。
リオナは『ソウルショット』の雨を降らせ、ヘモジはハンマーで頭部を横殴り。アイシャさんは『爆発』を一度に叩き込んで一瞬で四体を沈めた。ナガレはブリューナクの雷撃で同時に四体を仕留め、ロメオ君は岩より硬い氷の槍を叩き込んだ。
ロザリアは結界を張って、動きを封じている。手の空いたナガレとロメオ君が四体を沈めた。
リオナがすかさず召喚カードに魔力を補充した。
静寂が戻ると全員、溜め息をついた。
片側の半分を意図せず、片付けてしまった。
「それにしてもしけてるわね。これだけ広いのに宝箱一個だけだなんて!」
ナガレが言った。一番多く倒せてご機嫌なようだ。
一方、オクタヴィアは、できるだけ小さくなろうと背中を丸め、頭を下げて、ご主人のお叱りを待った。
「外を歩くときには首輪でもするか?」
どすの利いた声が氷のように突き刺さる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、こめんなさい、ごめんなさい!」
あれだな。知性のあるなしにかかわらず、「あれは猫なのだ」と諦めた方がいいな。まあ、「柱を回り込むとゴーレムが反応するぞ」と教えなかったこちらも悪いのだが。今はそれどころではない。ゴーレムが次々宝石に変わっていっているのだ。回収を急がねば。
ちょうど五十体ほど倒しただろうか。結構な数の宝石が手に入った。金塊が二つ、銀塊が四つ。肝心なミスリルは一つも出なかった。残っている奴らが持っているのかも……
そしていよいよ本命、宝箱である。
僕は罠を解除し、蓋を開けた。
「出た!」
「あった!」
「よかったのです」
「ナーナ!」
「これで帰れるの」
「……」
「大変でしたね」
「終ったわね」
終ってないぞ、ナガレ。糸玉はゴールじゃない。スタートだ。
落ち込んでるオクタヴィアを横目に、残った石像を見る。
「ミスリル出ないかな……」
「じゃ、倒して帰りましょ」
アイシャさんの賛同を得て、残りのゴーレムすべてにとどめを刺した。
「出た、ミスリル!」
四つも出た! 苦労が浮かばれた……
「糸玉より嬉しそうなのです」
リオナに突っ込まれた。
さすがに持ちきれないので、転送するのだが、金塊とミスリルは手数料が高く付くので、イチゴに頑張って貰うことにした。脱出ゲートに出て、そこから我が家まで一気に飛べば問題ないはずだ。
召喚したのがチョビじゃないのは、僕にはこれから修道院まで後始末に行く用事が残っていたからだ。
「帰りの脱出ポイントはここでいいかしらね?」
「いきなり殴られたらいやだから、階段部屋のなかの方がいいよ」
「転移したとき階段から落ちないかしら?」
ロザリアの言葉に全員が下を覗き込んだ。
「下の方がいいんじゃない?」
「荷物を背負ったイチゴにこの螺旋階段は無理だろ?」
幅が狭すぎるし、重量にも耐えられそうにない。
「転移して移動すればいいのです」
リオナのナイスアイデアで、僕たちは地下三階の踊り場まで転移した。
尖塔を出たところで、周囲を索敵して、敵がいないことを確認する。
「ここなら大丈夫だろう」ということで、糸玉を持ったアイシャさんが脱出用のゲートを開いた。
すっかり暗くなっていた。
「星がきれいだ……」
雨上がりの空には満天の星が輝いていた。




