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エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)17

 それから一時間ほどウロウロしながらマップの隙間を埋めていると、長い直線通路に辿り着いた。

 いやーな予感がした。マップの隅から隅までほぼ横断する距離だ。ミノタウロスの全速の突進を受けそうな場所だった。地図を書く身にも、目測が付かないという問題があった。一応歩幅や燭台同士の間隔で距離は見ているが、マップの中央がごっそり空くのは、後で帳尻が合わないと面倒なことになる。その前に階段が見つかればいいのだが、移動距離が無駄に長くなるのもいかがなものか。

 先頭はナガレ。その後ろにリオナと僕が続いた。僕の後ろにロザリアがいて、マッピングに専念するロメオ君と、殿のアイシャさんが続く。

 通路に敵はいない。突き当たりの角に一体いるだけだ。壁の向こう側に何体かいるようだが、壁の向こうなら問題ないだろう。

 僕たちは慎重に進んだ。ロメオ君は燭台の数を数えていた。

 突然、殺気を感じた。

 壁が崩れた!

 まさか! 破壊オブジェクト?

 ロメオ君の目の前の燭台が吹き飛んだ。結界がすべてを防いだが、隊列のど真ん中に敵が現れた。

 ロメオ君が頭を吹き飛ばし、リオナが斧を持つ手を切り落とした。ナガレは通路の正面を射た。アイシャさんは後方に氷の槍を放った。

 壁の向こうにいた敵が挟撃してきたのだ。

 遅れて壁をぶち抜いてきたミノタウロスは、全員の視線を浴びて総攻撃を受けた。完全な飽和攻撃で跡形も残らなかった。

「これって罠とは言わないのだろうか?」と思いながら、破壊オブジェクトの確認をした。

 フロアー全体の壁が壊れるようなら問題だ。想定が変わってしまう。

 さすがにそれはなかった。なかったのだが…… 疑念が湧いてしまった。それは一階の南側に面した壁のどこかが破壊できたのではないかという疑念だ。

 思わず溜め息が出た。

 このまま進むべきか、後戻りするべきか。

 通路の破壊オブジェクトはミノタウロスが破壊した四箇所だけだった。残りの壁は壊そうにも壊れなかった。

 隣には並行して走る通路があったが、通路はループしているだけで行き止まりだった。「明かりもないところで何してたんだ」と言いたくなる場所だ。

「宝箱の一つもあって欲しいもんだね」

 通常の壁に過剰な力を加えれば、『闇の信徒』の登場にもなりかねないし、一々、破壊できるか調べながら進むというのも無茶な話である。

 残されたオブジェクトと通常の壁の違いを、なんとか見分けられないかと見比べる。

 見て分かれば苦労はしないか。

 諦めて先を行く体裁を整える。

「とりあえず歩こう。見つからなかったときはその時だ」

 そう言うしかない。牛歩の如く、壁を一枚一枚叩きながらノロノロ進むなんて面倒すぎる。 ただ、壁の向こうに敵がいるときは注意が必要だ。

 敵の位置は分かる。トラップもない。ただ歩いていればいいのだから楽勝のはずなのだが、焦りが募る。

 今日ももうすぐ日が暮れる。ここでリタイヤしたら、またスタートからやり直しだ。確かにマリアさんは数日掛かるかもと言っていた。が、こちらは内心そうは掛からないだろうと高を括っていたのだ。

 南側の未到達エリアは先ほどの長い通路の南、抜かした中央部分の四分の一だ。

「急げば回れる」

 僕たちは自然と早足になった。通路を曲がると大きな広間に出た。広間のなかには四つの部屋があった。一つ目の扉を開けると宝箱を守る二体のミノタウロスがいた。

 時間が迫っていたので、早くけりを付けることにした。

 ナガレとリオナが二体を瞬殺した。宝箱の回収を後にして、扉を開けまくって、夜盗か何かのように部屋のなかの者を皆殺しにした。

 巡回するミノタウロスもいたが、そちらはロメオ君とヘモジが仕留めた。

 僕は鍵職人であるかのように順番に宝箱を開けていった。「全部開きましたぜ、お客さん」てな具合で、回収はこれからである。

 一部屋目の宝箱の中身を回収していると、亡骸が魔石に変わる。

 リオナが回収してこちらの回収袋のなかに放り込む。

 次の部屋に行くと既に回収袋のなかにすべて収められていて、それをまた一まとめにする。三部屋目、四部屋目と回収して回る。

 その間にロメオ君はロザリアに明かりを灯して貰いながらマップの作成をする。

 階段は未だに見つからない。

「こっちに通路があるよ」

 ロメオ君の声だ。

 回収袋が一杯になったので、これまでの分も合わせて、修道院の倉庫に送った。

 ロメオ君の見つけた通路の先には明かりがなかった。ロザリアが照らす明かりを頼りに僕たちは前進すると、ようやく目的の物を発見することができた。

 手摺りの付いた階段が地下に向かって伸びていた。

「下への階段?」

「上じゃなくて?」

 一瞬くらっときた。

 他の壁は行き止まりだった。となると道はこれしかない。

「南側でここだけまだ行ってない場所があるよ」

 地図で確認すると少し離れた場所に、未到達エリアが小島のように残っていた。下から上にあがる階段はもうここしかない。

 距離的に近いので、下に降りてすぐ行けそうなら、行って上階を確認する。行けなさそうなら今日の狩りはここまでだ。


「うわぁ、空がある」

 そこは高い壁に囲まれた箱庭の園だった。迷宮のなかにあって、こんな場所に辿り着くとは想像だにしていなかった。周囲を取り囲む壁も、石壁ではなく宮殿のような建物の壁面だった。

 僕たちは池に浮かぶ東屋にいた。周囲を池に囲まれ、橋が対岸に渡されている。

 僕たちは目的の階段を探した。

 橋を渡った対岸からは辿り着けない、反対側の岸にそれはあった。壁に沿って階段が斜めに伸び、回廊に続いていた。回廊は端で折曲がり建物のなかに消えていた。

 恐らくあれだ。

 しかし、ここから向こう岸に渡る術はない。ボートでも浮かんでいればいいのだが。そんな裏技もなさそうだ。

 僕たちは池を凍らせて渡ることにした。

 手慣れたもので僕たちは容易く池を乗り越えた。そして上に伸びる階段を上がった。

 普通に行ったらまた遠回りさせられるんだろうなと思いながら、階段を踏みしめる。

 それにしてもすっかり様相が変わっている。垣間見える景色は階層化された巨大建造物だ。階段を登り切ると蔦が絡まり、生活感漂う回廊があって、そこを進むと古びた尖塔の入口があった。入口を入ると絨毯の敷物が敷かれた床の先に螺旋階段が上下に伸びていた。

 地図を書くロメオ君が忙しい。

 待つ間、螺旋階段の上と下を覗き込む。

 下の階にミノタウロスがいた。どうせ明日になればまた沸くのだから、無理に狩る必要はない。

 ロメオ君の合図と共に僕たちは上を目指した。

 そして、地下二階部分に辿り着くが、出口はなかった。壁を掘っただけの四角い窓があるだけだ。ここが二階の未到達エリアの離れ小島のなかだ。

 窓から見下ろすと、僕たちが通ってきたであろう、第二層の小部屋が見えた。この窓の穴、広げられないだろうか。そうすれば明日ショートカットできるのだが。これではヘモジとオクタヴィアしか通れない。

 覗いていてもしょうがないので上を目指す。

 外に出る木の扉を見つけた。

 遂に僕たちは一階南側に到着したのだ。


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