表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
528/1072

エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)16

 でも僕には原因が分かった。ふたりに明確な違いがあったのだ。

「ナガレ、もう一歩前に出て、しゃがんで射れば当たるぞ」

 安直なアドバイスで馬鹿にしてるんじゃないかと睨まれそうだが、僕の思い付きは恐らく正解であると思えた。

「試してみるのです」

 からかったり、悪気があって言っていることではないことは察してくれたのだろう。リオナがうまい具合にナガレの背中を押してくれた。

 このまま駄目でしたでは、ナガレは自信をなくしてしまう。普段の自信過剰ぐらいの彼女がちょうどいいのだ。

 ナガレが、ここだという立ち位置から一歩前で射てもらう。敵に見つかると警戒するが、実際、見つかることはなかった。ミノタウロスの部屋は明るく、通路は部屋に比べれば暗かった。

 真剣に射た矢はきれいに狙ったところに命中した。

 ミノタウロスは気付くことなく、頭を吹き飛ばされて床に倒れた。

「なんで?」

 ふたり揃ってぽかーんと口を開けている。

 こんな安直なこと、敵に矢が届かなかったら、まず最初にやるべき修正だ。勿論ナガレは修正を加えた。位置を変えたり、強く射たり、当然したはずである。

 ふたり揃ってすまなそうな顔をして、こちらを見るが、僕はこれが思慮の甘さの結果などとは思っていない。オクタヴィアじゃないんだから。

 オクタヴィアがくしゅんとくしゃみをした。

 答えは簡単であるが、理由はいくつかある。一つは目の錯覚だ。ナガレはミノタウロスの巨体を見て、近くにいると勘違いして、遠目から矢を放っていたのだ。鼻の効くリオナは敵との距離感を間違うことはない。だが、ナガレは弓を持ってわずか半日。目測を誤っていたのだ。しかも修正したつもりで、修正しきれていなかったのだ。何故なら通路の天井が低かったからだ。これが二つ目の理由。だからしゃがませた。ナガレの腕力で射るには本来描かなければいけない放物線が描けていなかったのだ。軌道の頂点を天井の高い部屋のなかに定めてやれば充分届くと考えた。恐らく後数本、矢を射ればそこまでは気が付いたはずだと確信する。「なんでー」と言いたくなるリオナの心境も分からないでもないが、元々腕力が有り余っているリオナに気付けというのが間違いの元だ。ロザリア辺りに師事したら違う結果になっていたかも知れない。が、最大の理由はまだ他にあった。

 僕は魔石を一つポケットから取り出し、土魔法で同じ大きさの石ころを作って、二つをリオナに渡した。

「投げてみな」

 僕は倒れたミノタウロスの方を指差した。

 リオナは言われた通り、二つを投げ比べた。

「あっ!」

 魔石を投げたとき、リオナは気付いた。普通の石より手前に落下したのだ。

「どういうこと?」

 避雷針の射程を調べていて気が付いた。これは一種の障壁であるから魔力消費も馬鹿にならないのではないかと。とすればオンオフを切り替えるスイッチがどこかにあるはずだと。

 避雷針は常時起動しているわけではなく、魔力を探知することで起動している。

 そうなると避雷針に探知する装置を付けていたのでは防御が間に合わない。事前に察知する装置をどこかに仕込んでいるはずだ。

 そして今、部屋の入口にそれを見つけた。

 なんらかの魔力が一線を越えたとき避雷針が起動する仕組みになっていた。

「一種の探知用の網になってるようだな」

 探知装置の辺りを念入りに調べると薄ら幕のような物がかすかに見える。通路からでは見ることのできない薄い膜だが。

 恐らく鏃の魔力がこれに作用したのだ。減速して、なお射程を縮めたのだ。

 余力があれが魔法であれなんであれ、難なく作用を打ち消せたのだろうが、たまたま引っかかってしまったのだ。

「考えなしにこんな物設置されたら堪んないわね」

 ナガレが元に戻った。理由が分かればどうと言うことはない。

 充分近づいて、鏃の付与に期待せず、矢の威力で倒すべく全力で射ることだ。


「また当たったぞ!」

 三連敗の後は三連勝だ。

 ミノタウロスの相手は、しばらくナガレに任せていいだろう。僕がゴーレムの相手をして、ロメオ君が殺人蜂を焼き払う。ロザリアが明かりを灯し、リオナとアイシャさんは周囲を警戒する。オクタヴィアとヘモジは宝箱を探して駆け回る。

 一階の北側は計画通り、午前中で制覇した。結局、南に抜ける道はなかった。見つけた階段はなく、昨日見つけた階段が唯一階下に降りる道だった。

 糸玉が見つかるまでは、途中からスタートできないので、一旦退場して、食堂で昼にすることにした。

 いつもの定食に舌鼓を打ちながら、次の計画を立てる。やはり一階南側を目指すことになった。上階に上がる階段探しである。

 急に空が暗くなって。土砂降りになった。冒険者が次々店内に飛び込んでくる。

 ゲート広場から脱出してきた人たちが、雨を避けようと右往左往している姿が見えた。

 あっという間に濡れ鼠である。

 店主が、消していた暖炉に火を入れた。暖炉の手前に陣取っていたテーブルと椅子をずらして、距離を開けた。

 外から入ってきた連中が、早速暖を取りに来る。

 ただでさえ混む時間帯に大変なことになった。僕たちは早々に切り上げ、席を立った。

 会計を済ませ、振り向いたときにはもう既に僕たちのいたテーブルは埋まっていた。

 店の庇の下には入店待ちの列ができていた。

 僕たちは結界を張りながらゲートを目指した。傍目には異様な景色に見えたようだ。

 全員、雨など気にせず土砂降りのなかを歩いているのだ。ヘモジは僕の、オクタヴィアは主人の肩の上だ。

「出るときは注意せんとな」

 アイシャさんが入って早々、出るときの心配を口にした。

 僕たちは目的の階段を目指した。なるほど、昨日倒した相手も復活していた。宝箱は固定の物は開いたままになっていたが、ランダムなものはリポップしていた。

 宝箱のある部屋には警備のふたりもいなかった。その分巡回が増た気がする。

 階段を降りると、若干雰囲気が変わっていた。きのうは気付かなかったが、少し息苦しい気がした。それはどうやら天井が低いことが原因のようだった。

「このフロアーにはゴーレムがいないのかも」

 確かにゴーレムはいなかった。ミスリル狙いの自分としては残念でならなかった。

 その分ナガレは大活躍であった。段々手慣れてきて、爆風を当て込まなくても、敵を倒せそうな上達振りだった。巡回の相手は避雷針がないのだから、ブリューナクで雷撃でもいいのだが。

 小部屋の数が多かった。兵士の詰め所か、なかには宝箱や放置されたミノタウロスサイズの家具が転がっていた。ギミックなので持ち帰れはしないが、宝箱の中身は別だ。たまに殺人蜂がいたりするが、それは羽音で分かった。でも、扉を開けないわけにはいかなかった。マッピングのためには止むを得ない。扉の向こうに階段があって、やり過ごしでもしていたらと思うと手は抜けない。

 階段から南のエリアを探るが、一向に階段は現れなかった。恐らく四分の一程進んだところで、きのうとほぼ同時刻になった。少し休憩を取って、お茶にした。

「なんだか、精神的に参るわね。ゴールが見えないっていうのは」

 このまま戻れば、またスタートからやり直しだ。そのことがプレッシャーになってきていたのだった。このまま南側を攻略して階段が現れなかったとしたら、探索をやり直さなければいけなくなる。見逃しや隠し部屋を探しての第二ラウンドを始めなければいけない。抜けはないと思っていても、プレッシャーである。わざわざ通路の長さを測りながら進んでいるわけではない。どこにどんな未到達エリアがあるか分からない。

 残り数時間の攻略を再開した。わずかずつの更新だ。でもこれで次から来るときは小部屋を開けながらもたつくことはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ