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エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)15

「妾も初めて見るが…… バーサーカーと同様、呪いの一種じゃ」

 身の毛がよだった。一度発火すると身を滅ぼすまで消えることがない。

「火の魔石の原因はこれか」

「ということは呪いを掛けてから倒すと属性が変わるのか?」

 新たな課題が生まれた。


 この件は姉さん経由で、魔法の塔に議題としてあげられ、検証が行なわれることになった。

 検証はまさに正鵠を射ており、後に協力金としてわずかばかりの金貨を頂いた。検証結果を論文にまとめた姉さんの後輩がこの年のベスト論文賞を受賞した。これによって、狙った魔石が回収できる見込みが出てきたのである。問題は呪いという物騒な物の扱いだが、その辺は僕たちには関係のないことだ。僕たちにはクヌムの村の魔石交換屋がある。


 ミノタウロスの呪いが覚醒する前に短期で倒す決意をして、僕たちは先を進んだ。

 相変わらず南半分に行く道は見当たらなかった。道はどんどん北にずれて行く。

 今何時だろう。

 結局、僕たちは半分も攻略できないまま、この日の狩りを終えた。ロメオ君が記していたマップだけが収穫だ。

 みんなには先に出て貰い、僕はヘモジと脱出部屋で、回収した宝石を精製してから出ることにした。

「お?」

 なんだか、レベルが上がった気がする。精製しているとなんとなく石の限界が見えてくるようになった。

 僕はギリギリまで魔力を加える。そして限界を超えてみる。するとパリッとひびが入る。

 どうやら、勘は当たるらしい。残りの石も限界一杯まで精製する。

 結構ギリギリまで精製したのにやはり高価な石は伸び代がでかい。駄目な石はやはり駄目だった。

 これが目が肥えるということなのか。なんとなく、漠然としていた石のランクみたいなものをはっきり感じ始めていた。

 換金するのも勿体ない石が数個出てきた。『紋章団』に持ち込むとやはりその石だけが弾かれて、オークション行きとなった。

「宝石商でもやったらどうだ?」と姉に馬鹿にされた。

 

 外に出ると予想に反してまだ日が高かった。

 少々早い帰還になったので、『マギーのお店』で時間を潰しながら、明日どうするか、話し合った。とりあえず糸玉を発見しようということになって、明日の休日を返上することに決めた。

 チーズタルトと紅茶を頂いた。オクタヴィアがクッキー缶に入れようとしたので、アイシャさんが横からかっさらって口に運んだ。涙を浮かべてご主人の動きを目で追う姿は哀れを誘った。堪えきれずに店員が「もうすぐ閉店ですし」と一個恵んでくれた。さすがのオクタヴィアも今度は取っておくなどとは考えなかった。おかげで夕食前に腹をパンパンに膨らませていた。

 ヘモジが万能薬を飲ませるべきか迷っていた。

 夕食の時間までまだ間があったので、店を出ると、各々明日の準備をすることになった。

 ロザリアは帰宅して呪い関連の書籍を引っ張り出して、『狂気の炎』の情報を調べ始めた。解呪と対抗魔法の確認。万が一のための札作りである。

 ロメオ君は氷魔法の命中精度を上げるためにアイシャさんと道場の地下に潜って調整に入った。

 これ以上精度上げなくてもいいのに。確かに今日のところはアイシャさんに遅れを取ったけど、それだって既にマスタークラスだ。

 リオナはナガレと避雷針対策を話し合っていた。雷属性はもろに避雷針の餌食であるから、対抗策を練らなければならない。互いの欠点を補い合うのがパーティーなのだが、イケイケのふたりには気に入らないらしい。ブリューナクを投げる算段までしていたが、それをするくらいなら周りに任せて欲しいと言いたいところだ。ブリューナクはミョルニル同様、投げれば百発百中の武器だが、ミョルニルと違って戻っては来ないのだから投げてしまっては無防備になってしまう。

「水の魔法じゃ駄目なのか?」

 水竜なのだから、その方がいいだろう?

「そうね……」

「試してみればよかったな」

「ブリューナクに頼りすぎてたわね」

 それもこれもリオナの魔力のなさが原因なのだ。魔力増加、回復付与のアイテムの製作が待ち遠しいな。完成すれば獣人のデメリットを気にしなくて済むようになる。ナガレも思う存分やれるだろう。

 でもそのためには石のランクをもう一つ上げたいのだが。

 ふたりが結論として出した答えは意外なことに弓だった。魔法の矢を使うことにしたのだ。弓でも充分に届く距離なので、威力制限のある銃より、弓を使おうということになった。

「ちょっと行ってくる」と言ってふたりは武器屋に向かった。何件か梯子して帰ってきたときには新しい弓と魔法の矢を結構な数買い込んできていた。武器庫にも以前使っていた弓があるのだが、既に役不足か。ピノにでもくれてやった方がいいかな。必中の矢は思い出もあるし、家宝にしようかと……

「必中の矢があるのです。ナガレ使うですか?」

 おい。リオナ!

「必中は邪魔だってあんたが言ったんじゃないの。要らないわよ。精密射撃で射貫いてみせるわ」

 僕は胸を撫で下ろす。

「ナガレは弓の名手だったですか?」

「なわけないでしょ。これから練習よ」

 というわけでふたりとも道場に消えた。

 残されたのは僕とヘモジとオクタヴィアだ。とりあえず、必中の矢を鍵のある僕専用の武器庫に放り込んでおくことにした。どうしても欲しければ新調すればいいだろう。

 地下の倉庫から戻ると、オクタヴィアとヘモジもいなくなっていた。

「あれ?」

「ふたりなら『修行に行く』て出て行きましたよ」

「どこに?」

「さあ、庭じゃないですか。夕飯になったら匂いで分かる範囲にいますよ」

 行き先ぐらい言ってから出ればいいのに。

 さて、ひとりになってしまったぞ。何しようかな。

「ううむ……」

 そうだ。非常用の補給物資の件があった。『楽園』に放り込んでおかないと。パンを買いだめしないと。それに茶葉も。

 僕は家を出た。まずはパン屋だ。今からじゃ、ドワーフのモチモチパンの発注は無理だが、他の総菜パンの発注ならできる。明日の朝受け取りで人数分、十日分のパンを注文した。最悪十日もあれば、いくらなんでも五層迷路の突破はできるだろう。

 茶葉と食材は保管庫にある物を持っていけばいい。



「見つけた!」

 ナガレが弓を引いた。ブンと弦が鳴って矢は山なりに飛んでミノタウロスの足元に落ちた。

 ボンと破裂した。

「ンモオオオオ!」

 戦闘態勢を取るミノタウロスにロメオ君がとどめを刺した。

 まあ、いいんだけどね。

「初撃なんだから、落ち着いていくのじゃ」

 既に三体目なのだが、どうにも当たらない。

 手を抜かずに真剣にやれと言われそうだが、当人は至って真面目だ。颯爽と射手デビューするはずが、すっかりお荷物になってしまって混乱している。

 指導したリオナも動揺している。「昨日の練習ではうまくいってたのです」とか今にも言い出しそうな顔だった。目もすっかり泳いでいる。

 普通にやっていてはルーティーンになってしまうので、多少のアクシデントは構わないのだが、ほどよい緊張感を通り越して、パニックを起こし掛けているのが二人もいては問題だ。

 さすがに傍観していたアイシャさんも声を掛ける。

 傍目に見てもナガレはうまく射れている。でも当たらないなら、そこには理由があるはずだ。

 弓のせいかもしれないので、リオナが替わって射てみることになった。

 次の敵にリオナが一撃を加えた。きちんと命中した。ナガレは自信喪失。人生で一番つまらない日を体験していた。


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