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エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)14

 ナガレが構えた。

 稲光が二体の上に落ちた。が、近くにあった、先の丸い、蝋燭立てのようなポールに稲妻がそれた。

「避雷針?」

 こちらに気付いたミノタウロスが吠えた。二頭が競うように突っ込んでくる。

 ロメオ君とナガレが応戦するが、避雷針が魔力をすべて吸収してしまう。

 対魔法用の魔具か!

「ヘモジッ!」

「ナーナ」

 ヘモジは僕の結界に体当たりして見事に反り返った二体目掛けてミョルニルを振るった。

 石壁の側面が陥没する勢いで叩き付けられた一体は即死、もう一体は角を折られはしたが、むっくと立ち上がった。

「まさかこんな小さな奴にやられたのか」と目玉をぎょろっと向けて睨み返すが、とぼけた顔が「ナー」とか言いながら見上げ返す。

 金属の擦れる嫌な音を響かせ、大斧がヘモジの頭上に振り下ろされた。さっきまでヘモジが立っていた石畳にガツンと鋭い刃が食い込んだ。

 ほんのわずか身をずらしたヘモジは二撃目を脳天に容赦なく叩き込んだ。

 グキッと嫌な音がした。

 残った角がポキリと折れて、重そうな頭がだらんと垂れ下がった。

 ズンッと巨体が床に倒れ込む。

「ナーナ」

 ヘモジは格好を付けて倒れた相手を足蹴にする。

「冷静さを失ったことが敗因だって」

 オクタヴィアが真顔で通訳する。

「失うだろ、普通」と心のなかで突っ込みを入れながら、僕は宝箱を開けに向かった。

 残念ながら目的の物は出なかった。

 なかから睡眠薬が出てきた。どうやらこのエリアのミノタウロスは寝かせてから倒せということらしい。でも薬を入れる入れ物がない。以前、『目くらまし香』を使ったときのあのボール状の器だ。

 まあ、使うことはないだろう。突進してきて勝手に昏倒してくれた方が有り難い。

 他には金貨が数枚と安っぽい短剣が一つ。

「はずれなのです」

 リオナが短剣をこねくり回す。

「そうだな」

 付与もない、ただの短剣だ。

 開け損なったら死ぬような高度な宝箱の報酬に慣れすぎているせいで、有り難みが沸かなかった。

 僕はどちらかというと、横にある避雷針の方が気になった。これと同じ物を飛空艇に装着できたら……

「吸収した力を逃がす場所がなければ付ける意味はないぞ」

 アイシャさんが言った。僕の考えてることが分かったらしい。

「でも、これは厄介ですね」

 ロメオ君が言った。

 するとアイシャさんは氷を作ってぶつけた。

「え?」

「あ?」

「頭は飾りではないぞ」

 いくら魔力を吸い取ると言っても物質化した物を即行で分解する力まではないようだ。

 魔石と装備を回収する。

「おかしいのです」

 リオナが言った。

「何が?」

「この魔石、火の魔石なのです」

「え?」

 今まで拾い集めていた石はどれも土属性だった。

 みんながリオナの持つ魔石を覗き込む。


『火の魔石(中)』

 

 確かに火の魔石だった。ということはこのミノタウロスは他のものと違う? 確認はしなかったが、違ったのかも知れない。次からは気を付けて見ることにしよう。


 通路を右に曲がり、左に曲がりするうちに階段が見つかった。

「降りる?」

「覗くだけ覗こうか?」

 下の階は結構広範囲に続いているようだった。

 小部屋がある程度なら攻略してから戻るのだが、僕たちは諦めて上の階に戻った。

 マップに階段位置だけを記入すると、未到達エリアを目指した。

 殺人蜂を燃やし、小部屋を見つける。

 中を覗くとミノタウロスがまた二体で宝箱を守っている。側には例の避雷針がある。

 僕は念入りに二体を見た。属性に違いが出たのはなんでだろうと?

 どう見てもミノタウロスはミノタウロスだった。二体に差らしい差はなかった。

 アイシャさんが氷の槍で一体の急所を貫通した。

 さすがだ。

 もう一体をロメオ君が仕留めた。

 宝箱はまたはずれ、一体がやはり火属性の魔石を落とした。

 装備に違いが? 残された装備を見るが属性のないただのプレートだ。

「少し長期戦をして見るかの」

 アイシャさんが長めに相手するように僕に言った。

 しばらくすると巡回中のミノタウロスを発見する。

 わざと見つかり、結界で押さえ付けずにいなして、近接戦闘に持ち込んだ。

 盾を装備しての戦いだ。リオナが隙を見て、敵を切り刻んでいく。僕は敵の注意が逸れる度にバッシュで注意を引いた。

 やがて、業を煮やしたミノタウロスが叫んだ。

 ンモオオオオオッ。

 衝撃が盾を貫通して身体の芯に響く。

「何が起きた?」

 目の色が、赤く変わった。

「バーサーカー?」

 ガンガンと盾を斧で叩く。

 涎を撒き散らしながら、強引に打ち付けてくる。

 結界が効いているから盾は無事だが、一般兵装の盾では今頃砕かれている。

「エルネスト!」

 アイシャさんの合図がきた。僕はいなして膝裏の腱を切り裂き、距離を取った。

 リオナが僕の盾の後ろに回り込んだ。

 アイシャさんとロメオ君の氷の槍がミノタウロスの頭蓋に「頭を冷やせ」とばかりに突き刺さった。

「いやー、凄い形相だったね」

「ほんと、盾が壊れるんじゃないかと思ったよ。素だったら腕持っていかれるよ」

「窮すると攻撃力が上がるとはこのことだったか」

「まさかバーサーカーになるなんて」

 魔石が変わるのを待ったが、石は普通の土の魔石(中)だった。

 しばらくミノタウロスとの遭遇はなく、ゴーレムと殺人蜂との戦いが続いた。

 一日の報酬としてはもう充分だった。色取り取りの宝石を回収した。道すがらランダムに沸いているであろう宝箱からも小銭を回収できている。

 マップも西側の半分を制覇した。見つけた階段は一つ。固定の宝箱部屋は二つだ。

 西南方向に進む道を探したが見当たらず、結局、スタートの階段まで戻って来てしまった。 仕方ないので東に進路を変えた。

 南に抜ける道を探しながら進んだが、一向に見つからなかった。入り組んだ迷路が進行を妨げる。

 部屋を見つけた。相変わらず二体のミノタウロスと避雷針だ。まず二体をじっくり見比べる。名前に違いはなく、レベルの違いもない。

「オクタヴィア、起きろ」

 リュックから頭だけ出して、うつらうつらしていたオクタヴィアを起こした。

「クッキーが全部ホタテになった……」

 まだ寝言を言っているので、一言ガツンと言ってやった。

「いや、ホタテがクッキーになったんじゃないか?」

 オクタヴィアは飛び起きた。そして一旦リュックに埋まるとクッキー缶を漁った。

 いそいそと僕の肩に這い出してきた。

「嘘つき……」

 また缶のなかにホタテを隠してたのか?

「ご主人にホタテ隠してることばらしてやろうか?」

「それは駄目! これ、がんばったご褒美」

 じゃあ、いらないんじゃないか。

「あの二匹を争わせられるか?」

「やってみる」

 ピーヒョロロロー。

「仲間、敵。やっつける」

「ブモオオオッ」

 ガツン。

 鎧同士がぶつかる音がした。

「ウンモオオオッ!」

 ガンガン! ガンガン!

 迫力のあるシーンが展開された、そしてお互いが傷つき事態は急変した。一体の身体が赤くなり出したのだ。そしてやがて全身からメラメラ炎が吹き出したのだ。

 もう一体はバーサーカーモードだから、そんなこと気にせず斧を叩き込む。

 燃えるミノタウロスは炎を口から吐き出しながら、応戦する。炎が相手の身体を焦がしていく。

 やがて我に返ったのかバーサーカーは暴れ出した。苦しみもがいて大きな斧を振り回し、壁に叩き付ける。

「ンモオオッ!」

 炎を纏ったミノタウロスは容赦なくバーサーカーの首を刎ねた。

 だが様子がおかしい。

 炎は収まるどころか更に激しく燃え始めた。やがて残ったミノタウロスが床に倒れ込んで、そのまま動かなくなった。

 僕たちは言葉を失った。

「何、これ?」

 消し炭になったミノタウロスが転がっている。

「『狂気の炎』じゃ」

 アイシャさんが呟いた。


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