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エルーダ迷宮侵攻中(村娘がやって来る)9

 数日後、野性味溢れる一行が狩りの獲物をどっさり抱えて、北のポータルからワラワラと、ゾロゾロと長蛇の列を作って現れた。

 ゲートの見張り番も話は聞いていたが、これ程とは思わず、無意識に後ずさる。

 あちらの村に設置したのは自足型転移ポータルで、魔力源は魔石である。個人で持ち寄れればいいのだが、今回は預けた魔石(大)を使って集団移動してきたのである。

 帰りのゲート費用はうちの村が持つことになっているのだが、魔石(大)だってただではない。少しでも支払いの足しにと大量の手荷物となったわけだが、獣人村ではこれが大いに喜ばれた。人族の社会では手に入らない昔ながらの品々が大量に持ち込まれたからだ。

 一つ例えるなら貧相な狐の毛皮だ。人族には照りのない貧相な安物に見えるものが、獣人族には薫り高い木の実をたらふく食べた狐の、最高の芳香を放つ高級品だったりするのだ。それを家の壁に掛けたり、床に敷き詰めることがどんなに幸せなことか。

 余りの盛況振りに感激したうちの村長連中が秘蔵していた香木をワカバの親父に両手に持てないほど持たせて帰らせる程だった。

 人族に売りつけても価値が分からないような物は買い叩かれるから、その手の物は獣人同士の取引に留めるようにと、互いの村長が申し送りすることにも相成った。

 日頃、財布の紐が固い村の主婦連中も、このときとばかりに、臨時に開いた露店に群がった。

 余りの盛況振りに恐縮しきっていた村人たちも笑みを浮かべるようになる。


 さて、今回の目的は、実は肉祭りではない。

 勿論肉祭りもするのだが、一番の目的は町の意識調査である。

 強面連中がどう評価されるかという、壮大なる実験であった。ついでに、ドラゴンの肉をぺろっといけたら御の字ってもので。

 ところが、スプレコーンの町の人族は、予想に反して普通じゃなかった。

 元々が最強ギルドの団員とその家族が興した町だからだろうか。肝が据わっているのか誰も動揺しなかった。

 免疫が血の隅々まで行き渡っているようで、荒々しい風体の連中を見ても「あんたたち冒険者かい?」、「お、格好いいね。男前だね。長く逗留するのかい?」、「そっちのお姉さん、べっぴんだねー。まるで戦いの女神様だ」、「おや、坊やたちも可愛いね。これ食べるかい?」などと、否定する影すらなかった。

 これにはマルサラ村の連中も、僕自身も驚いた。

 たくましいにも程がある。

「どうせ、あれだろ? 若様関連だろ? また何か始めたのかい? 次から次へと飽きないねー」という声がチラホラ聞こえた。

「懲りないねー、若様も。今度は何しでかしたんだい?」と、マルサラ村の連中に聞き返す始末である。

 リオナが望遠鏡片手に、大笑いしている。

 僕たちは城の主塔の上で、彼らの登場を眺めていた。

「事前告知が効いているようだな」

 とぼける僕にテトやピノが冷たい視線を向ける。

「兄ちゃん、すっかり変人扱いだな」

 ピノが容赦なく嬉しそうに笑った。

「そんなにおかしなことしてるか?」

 テトに尋ねた。

「飛空艇とか、フライングボードとか、ドラゴンの肉とか、若様印とか」

 テトはあっさり指折り数えて見せた。

「みんな村に入ってきたのです。みんな迎えに行くですよ」

「おーっ」

 僕を置き去りにして、子供たちはさっさと主塔を降りて行った。


「本日は、マルサラ村の方々を交えての開催になります。マルサラ村にも自足型転移ポータルが設置され、近日中には街道整備も始まります。本日は、マルサラ村との交流の再開を祝う、めでたい席であります。ですから身内だけとは言わず、外部からの参加も特別許可いたしました。多少窮屈ではございますが、外部からのお客様も大いに楽しんで頂けたら幸いです。祭りは日暮れまで行ないますが、ただ一つ、くれぐれも敷地から外ではお騒ぎにならないようにお願い申し上げます。なお、本日はマルサラ村から、アンキロの肉など珍しい肉の提供もございますので、皆様、お楽しみください」

 リオナが、ちゃんと仕事をしていることに驚きつつも、全員が杯を掲げる。

「あ、お酒は領主様持ちだったです。言い忘れたのです。感謝して欲しいのです」

 笑いが起こる。

「スプレコーンとマルサラ村の発展を願って」

 乾杯が盛大に行なわれた。

 あとはお定まりの大騒ぎなのだが、来客が、半端ないことになった。

 勿論お目当てはマルサラ村ではなく、ドラゴンの肉なのだが、それがとんでもないことになった。

 マルサラ村とは関係のない人族が、強面の集団とかち合ったことで、面白い事態になったのである。

 中央以北の人族の多くは理性では分かっていても、潜在意識ではまだまだ獣人を見下す傾向にあった。これは、相手がどうのと言うことではなく、無意識だから責めようがないし、反省の仕様もないことだった。が、それは誘拐されるような弱い種族たちを見てきたせいであり、強面の連中の姿を見た途端、既存の意識は吹き飛んだのである。

 人族より頭二つ、三つ背が高く、合わせてがっちりと筋骨隆々な巨漢たち。女たちのプロポーションもアマゾネスを彷彿させる体付きと美しさで、人族を魅了した。

 実際、並ぶとオズローでさえ、子供に見えるのだからその凄さが分かるというものだ。

 人族が逆立ちしても手に入れられない戦闘種族の機能美がそこにあった。強ばっていた顔も酒が入り気心が知れてくると、やがて笑顔が溢れてくる。

 そこにあったものは妬みや嫉み、驕りや嘲りなどではなく、見知らぬ友人との新たな出会いであった。

 マルサラ村の名前は一躍、中央に知られることとなった。美しく気高い戦闘種族が住んでいると、凄い尾ひれがやがて付くのだが、今の当人たちにはどうでもいいことだった。それより、お互いがこんなに腹を割って過ごせることに驚いていた。

 とは言え、酒も入っているし、面白くないと感じてる者もいて、なかにはどうしようもなく場を乱す者も出るのだが、その手の輩は守備隊の手でひょいと敷地の外に追い出されるのである。

 たまたま獣人の守備隊員が活躍しているところを目にしたマルサラ村の連中は大いに驚き、大いに感銘を受けるのであった。トレド爺さんの言った平等な社会の実現が、目の前で起きているのである。

 そんなことはどうでもいいと、人族の子供たちと村の獣人族の子供たちが手を繋いで駆け回る。

 不幸な巡り合わせを経験してきた年輩の村人たちは思わず涙を浮かべた。


「若様、これとって来たの若様やと聞いたんやけど、ほんまけ?」

 ワカバが村の子供たちとやって来た。手には千年大蛇の肉の皿が載っていた。

「ん? 何か問題か?」

「これ、うめーな。うにゃうにゃしてて癖になるな」

 虎族の子供が絶賛すると、周りの子供たちが大きく頷いた。

「村でも食えただろ? この森にもいるから、たまには獲れただろ?」

「なんの肉だ?」

「なんの肉って、千年大蛇だろ?」

「えーっ、これが千年大蛇!」

 子供たちが驚いている。

 一体、なんだ?

「道理で教えてくれへんと思ったわ」

「いつもとうちゃんたち、『子供には毒や』言うててん」

「こういうことやったんやな」

「大人は嘘つきや。こないなうまいもん、内緒にするなんて!」

 大人たちの悪事が露呈したことはさておき、調理をしている場所に一緒に顔を出して、千年大蛇の肉を多めに並べて貰う交渉をした。

 マルサラ村の子供たちが皿を持って列を作った。

 傍らでドラゴンの肉が焼けているというのに見向きもしない。先入観のない無垢な姿というのは感動ものである。

「ドラゴンの肉はたくさんあるからなくならないって、リオナが言うとったさかい、まずはこっちから制覇したろうと踏んだまでのことや」

 打算的だった……


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