エルーダ迷宮侵攻中(村娘がやって来る)7
「エルリンはリオナの旦那様なのです! 村の大家さんなのです! 無礼は例え族長でも許さないのです!」
いや、族長じゃないから。族長はあっち。
「何が大家だい。後からやって来て、人の土地を勝手に盗んで、勝手にでかいもん建てただけじゃないか。勝手なのはどっちだい!」
真っ二つになったフライパンを振り回して応戦する。
「あの町はユニコーンにお断りして造ることが許されたのです。その証拠にあの町ではユニコーンと獣人は仲良しなのです」
「そんなわけあるかいな! 角も毛皮も売っぱらって、金に換えるに決まっとる!」
「そんな奴、エルリンが許さないのです!」
「かあちゃん、ほんまやで! あの町ではユニコーンの子と獣人の子が仲良く散歩しとるんや」
「人族の子はおったんか?」
「……」
「ほれ見。おらんかったやろ?」
「仕方ないのです。ユニコーンの面倒は獣人が見ることに決まっているのです! でも、人族と獣人の子供だって仲良しなのです。一緒にソリ遊びもしたのです。ユニコーンと人族だって仲よしなのです」
リオナの攻撃を壊れたフライパンですんでにかわす辺りはさすがと思われた。が、それは同時にリオナが加減しているということでもあった。言うなればじゃれているのである。
周りも口では止めるが、身を挺してとはいかないのはアニータの本意が見えないからだ。ワカバが「なんでや」を連発するのは、母が普段そういう言動をする人ではないからだろう。
「そんなこと信じられるかいな」
「ちょっと、ふたりとも、落ち着いて!」
ユキジさんが止めようと声を掛ける。
「アニータ、あの町は違うんだべさ。あの町じゃ、みんな平等なんだ。身分の違いはあっけど種族に違いはねえんだべさ」
「うちらみたいな強面が行ってもかい?」
なるほどこの村にいるのはそういう連中ばかりなのだと今になって気付いた。
熊や虎、狼などの猛獣系の連中なのだと。スプレコーンができた折り、そういった連中は寄る辺なくこの村に辿り着いたのかも知れない。確かに猫や犬や兎やらに比べたら抵抗はあるだろう。オズローの家族など、これまでは少数派だったから問題なかったのかも知れない。これが大量にとなると確かに考えなければならない。
この村の雰囲気を見た限りでは問題なさそうだが…… 正直、太鼓判は押せない。こればかりはやってみないことには。
「あたいら何か悪いことしたんか?」
ワカバが叫んだ。
「なんでや! あたいらだってあの町行きたいのに!」
「酷い目にあうかもしれへんで」
「大丈夫よ。アニータ。あの町の半分は獣人だから、誰もあなたたちを避けたりしないわ。確かに人族とは慣れる期間は必要だけど、だからこそ、今から少しずつでも交流を始めた方がいいのではなくて?」
「何かあったらどうする! お前たちはいいとして、人族が残忍であることに変わりない」
余程つらい目にあったのか、見てきたのか……
「とりあえず、遊びに来るといいべさ。若様の敷地のなかならなんも問題ねえから。な、そうすべ」
「そうすればいいのです。うちの敷地に来る人族は皆、獣人とは仲よしなのです」
「お前……」
親父さんはワカバの肩に手を掛けながら、妻に心配そうな視線を向ける。
「だったら、見せて貰おうかしらね」
アニータさんは旦那がテーブルに掛けた大斧を握ると、リオナではなく今度は僕に迫ってくる。リオナは視線を外されたせいで、躊躇した。
「おい、お前!」
「どこまでやれるのか……」
全員が部屋から追い出されるように玄関口から外に出る。
アニータは大斧を構える。
できれば僕もフライパンで相手して貰いたかったのだが。そうはいかないらしい。
「あんたが獣人のためにどこまでやれるか」
斧が飛んできた。
「だったら見せて頂戴!」
早い! でも、命中はしない。僕は身を翻して肘を打とうとしたが、既に次の一撃の動作が始まっていた。やはりリオナとはじゃれていたのだ。
僕は伸ばした手を引っ込めて、距離を置いた。間髪入れずに追撃が来た。
それは大斧だぞ。小型の手斧とは違うだろうに!
僕は結界を張りつつ、どうするか考えた。手っ取り早く、大斧を砕くことも考えたが、それだと斧の先が飛んでいって、周りに被害が出る危険があった。かと言って落とし穴でも掘ろうものなら、人族はやはり卑怯者だとレッテルを貼られなねない。
正面切ってやりあわないといけないのだが、リオナのようにじゃれるというレベルには収まりそうにない。
結界を張っているのでこのままかわし続けても構わないのだが、それではお互い収まりが付かない。力を見せろというのだから力を見せるべきなのだろうが、やり過ぎて脅迫紛いになってしまうのも気が引ける。
ふと心配そうにしているワカバとリオナの顔が目に入る。
そうだな。いつまでもあんな顔をさせるわけにはいかないな。
でも、どうすればいいのか分からず、結局、逃げ回る。
剣を抜けば、大斧を粉砕できるだろうが、破片がどこに飛ぶかも分からないし。かと言って魔法を使うべきなのか。求めている回答が違うような気がしてならない。
だったら、やはりここはがっぷり四つに組むのがよいのか。ヘモジがいれば盾で子供たちを守ることもできるのだが、飛空艇の番をしているテトの護衛を頼んでいるのでここにはいない。すぐそこの裏庭にいるから呼んでも構わないのだが。
攻撃が厳しくなってきたので、仕方なく僕は剣を抜いた。
一発で斧に刃こぼれができた。その気になればフライパンじゃないが、切り裂けそうだった。
獣人は魔力が少ないので魔法付与した装備は普段使わないから、付与した人族と帳尻が合うようになっているのだが、僕の装備は普通じゃない上に、剣はドラゴンの障壁も簡単に切り裂く、アダマンタイトの魔法剣だ。道具に差がありすぎて、鍔迫り合いも叶わない。
アニータは僕が攻撃を弾いたことに驚いている。勿論、付与が効いているからだが。でなければ熊族の一撃など受けきれるものではない。
そんな相手に斬りかかったリオナもリオナだが、振り回す方も大概だ。
二撃目を切り上げる。
相当、驚いている。加減が分からなくなってきているようだった。
万が一、僕を傷つけたときのことを心配して切っ先を鈍らせている。
それもまた彼女の感情だ。
それも含めて彼女は真剣に斧を振った。
心のなかの有耶無耶を吐き出すようにひたすら正攻法で、奇をてらうことなく打ち付けてくる。
勝ち負けではない何かを求めている。
できれば斧を粉砕する前に答えを出したいところではあるが、魔力をカットしても僕の剣の威力は大斧に勝っていた。
刃こぼれが二つほど増えたところで大斧に大きな亀裂が入った。
そこで親父がようやく仲裁に出てきて妻を止めた。




