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オータン迷宮侵攻中(ピノ少年の冒険)7

 ヘモジは一撃でサブリーダーゴブリンを倒した。

 僕の相手はファイターでスピアーヘッド、切り込み隊長という名だった。巨大な斧を振り回すパワフルな奴だった。でも大振りして隙ができたところに突きを一撃食らわせたら、断末魔を上げることもなく地に伏した。

 調べたら斧がレア装備だった。付与はこの迷宮ではいい線いっているようだが、エルーダではゴミの域だ。

 転売決定!

 ピノはリーダー相手に果敢に攻めた。元々背の低いゴブリン相手だから、体格的に劣ると言うことはない。筋肉量は大分違うが、そこはスピードで翻弄していた。

 鎧の隙間を的確に攻めていく。

「あ」

 ピノが小さく声を上げた。

 脇の下を狙った切っ先が鎧の隙間に入って、折れてしまった。

 ピノは慌てて大きく間合いを取った。

「ナーナ!」

 サブリーダの落とした剣をヘモジがピノに投げつけた。

 ピノはすぐに投げられた剣に飛びつこうとして、目線を外した。

「駄目だ!」

 リーダーはチャンスとばかりに無防備になったピノに斬りかかった。ピノは距離的に余裕があると判断したのだろうが、それは間違いだ。

 リーダーは『ステップ』を挟んで『スラッシュ』を放ってきた。一気に間合いが縮まり、尚且つ早い突き攻撃がピノ目掛けて放たれようとしていた。

 僕は『ステップ』を踏んで、強引にコンボの狭間に身体を投じた。

 剣を跳ね上げ、その勢いのまますれ違った。

 剣を拾ったピノが僕の背後からリーダーの首目掛けて斬りかかった。


「ごめん、兄ちゃん」

「油断だぞ」

「うん」

「投げたヘモジも悪い」

「ナーナ」

「今回みたいなときほど慎重にな。あいつがもし飛び道具や魔法が使えたらどうするつもりだったんだ?」

「あっ」

 ピノが立ち止まった。どうやら考えになかったようだ。

 初級の迷宮で遊ばせておくのも問題だな。状況判断が甘くなる。

「以後、気を付けるように」

「はい」

「ナーナ」

「よし、改めて装備品の回収だ」

 余りよさそうな物はなかった。装備品はどの道着られないからいいとして、武器には期待したのだが。とりあえず、リーダーの持っていた剣ならピノの折れたものの代わりにはなるだろう。

 魔石と小物と大斧だけを回収して、僕たちは先を進んだ。


 その前に。

 宝箱発見!

 ピノたちを遠ざけ、結界を張り、尚且つ万能薬を口にくわえる。お守りがあることを確認してピッキング開始だ。

 カチッ。

「あれ?」

 あっさり開いた。鍵掛かってなかったか?

「なかに入っていたのは、宝石とお金とブレスレットが一つ」

「これっぽっち?」

 ふたりがなかを覗きに来た。ブレスレットは金製だか、物としての価値はない。僕はその場で鋳つぶして金塊に変えた。宝石を加工している間に、ふたりはお金を数える。銀貨、銅貨合わせて、銀貨十枚分だった。ふたりは大きな溜め息を付いた。苦労の割には報われない結果になった。


 街道の敵はほぼ僕たちが殲滅した。

 僕たちが出口に差し掛かる頃、ようやく入口の方に人影がちらほら現れだした。

「外に出て、少し休憩するか?」

「うん。喉渇いた」

「ナーナ」


 まだ、食堂の営業時間には早かったようで、露店でウーヴァジュースとマンダリノジュースを購入した。僕たちは木陰の切り株に腰掛けた。

 換金した額は、宝箱の分も合わせて金貨二十五枚ほどになった。半分はほぼ加工した宝石の代金だ。残りはレアな大斧で破格の金貨十枚になった。しかも、買い取られたそばから、売れていった。ここでは良品の部類だったようだ。

「ピノ」

「ん?」

「剣作ってやろうか?」

「んん?」

 ストローを加えたまま、目を丸くした。

「アガタにいいものを作って貰おう」

「いいの?」

「あの程度で折れてしまうようななまくらじゃ、命が幾つあっても足りないからな」

「ひどいよ、あれだって小遣い叩いて買ったのにッ!」

 ほっぺたを膨らませた。

「ミコーレからアースドラゴンの鎧もそのうち届くから、それに見合う剣を用意しよう」

「うん、ありがとう」

 尻尾をフリフリ、素直で可愛い奴である。

 突然、洞窟の入口の方で騒ぎが起きた。大勢の人が大声で怒鳴りあっている。

「なんだ?」

 僕たちは聞き耳を立てる。

「事故みたい」

「事故?」

「ナーナ?」

「混合魔法を使ったって」

「混合魔法? 合成魔法じゃないのか?」

「混合魔法だって。大勢でし掛ける魔法みたい」

「へー。そんなのあるんだ」

「なんだよ、兄ちゃん。魔法使いなのに知らないのか?」

「僕はひとり完結型の孤高の魔法使いだからな」

「どこがだよ。パーティーみんな魔法使いじゃんか」

「で、状況は?」

「一つのパーティーが魔法を強行して、天井が崩落したんだって。地下三十四階だって」

 三十五階がパスカル君たち、生徒たちの最高到達深度だ。その下の階となれば、魔法学院でもトップクラスのチームのはずだ。恐らく上級生だろう。

「被害は?」

 ピノが口籠もった。

 クソッ! 死人が出たのかよ。

「『闇の信徒』が出たんだって。崩落に巻き込まれたパーティーが逃げられなくなって。脱出用の結晶も使う暇なかったって。ふたり死んだって……」

 急にウーヴァジュースが苦くなった。

「エルネスト・ヴィオネッティー様でいらっしゃいますか?」

 ギルドの職員がやって来た。

「たった今、迷宮内にて『闇の信徒』が現れました。ご助力願えませんでしょうか?」

 冒険者のランクを上げたのが仇になったか。

 僕は立ち上がった。

「行くか?」

「うん」


 討伐に参加するのは全員が実践から遠ざかって久しい、B級止まりの事務員ばかりだった。魔法学院側からも引率の教師が既に潜っているらしく、すぐにも合流する運びとなった。

「教師がいるなら、僕はいらなさそうだな」

「亡くなった一人が先生だってさ」

 ピノがささやいた。

「とりあえず、急ごう」

「エルネストさん!」

 野次馬でごった返している転移ゲート広場にパスカル君たちがいた。

「大変なことになってしまって」

「まさか事件に噛んでないだろうな?」

「俺たちは三十六階を攻略中だったんだ。係員に呼び戻されたんだ」

 ファイアーマンが反論した。

「ちょっと行ってくる。ピノを見ていてくれるか?」

「俺も行くよ!」

「駄目だ」

「だったら私たちも参加します!」

 ビアンカが言った。

「ちょうどいい。行こうぜ」

 ファイアーマンが言った。

「あのなぁ、遊びじゃ――」

 ピノたちの目は真剣だった。

「俺たち『銀花の紋章団』だから!」

 違うだろ!

「分かった。邪魔するなよ」

「エルーダのときの『闇の信徒』ぐらい強いんですか?」

「行ってみなきゃ、分からないよ。大概そのフロアーに出現する魔物の高レベル体だ」

「三十四階はゴーレムだよ」

「ゴーレムね…… ゴーレムにもいろいろいるからな」

 砂漠のストーンゴーレムクラスだと…… 事前情報がないと厄介だな。

 パスカル君のパーティーは、係員に一度は止められるも、魔法学院のトップチームだということで、無理はしないことを条件に通らせて貰った。ピノは僕の荷物持ちとして、僕の責任で通らせた。ヘモジはパスカル君のリュックのなかに隠れてパーティーの身辺警護である。


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