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オータン迷宮侵攻中(ピノ少年の冒険)6

 僕は牙を解体すると、浄化して、そのまま保管袋に入れてビアンカに手渡した。

「いいんですか?」

「魔法の塔の薬剤官にはいつも世話になってるからな。気にしなくていいよ」

「兄ちゃん」

 ピノが催促する。

「焼き肉やりたきゃ、かまどを作れ。火の魔石ならあるからな」

「網も鉄板もないよ」

「石の板で我慢するしかないな」

 僕はさっきまで焼窯代わりに使っていた岩を輪切りにして薄い板を数枚作った。

 男連中は石を並べただけのかまどにそれを載せて火を入れた。

 女性陣は台所でブロック肉を手頃な厚さに切り分ける。

 肉だけでは寂しいので、付け合わせにヘモジ用の野菜スティックも並べた。


「うめーっ!」

 ピノが一口、ステーキ肉を口に運ぶとトロトロの顔になった。

「これはまた…… ドラゴンの肉とはひと味違う」

 ファイアーマンが言った。

「そりゃそうだよ。ドラゴンじゃないもん」

「ドラゴンって……」

 新参者たちの顔は引きつった。

「あれはうまかったな」

 ファイアーマンが吐露した。

「あれから、また増えたんだ。アースドラゴンとファイアードラゴン。今ならスプレコーンのレストランで『五種盛り合わせステーキセット』が食べられるよ」

「なんだってーっ! て、その話は昼間したろ?」

「あれ? そうだっけ?」

 ピノが首を傾げた。

「その話、わたしも聞いたわよ。『実践初級』担当の先生が実際に食べに行ったって言ってたわ」

 フランチェスカが言った。

 あぶれ組か? それとも魔法の塔の枠で祭りに参加できたのか?

「怒ってなかったか?」

「なんで? 喜んでたわよ。今度は家族も連れて行くとか言ってたわ」

「教師って、そんなに高給取りなのか?」

「魔導書を後輩に売って」

「そんなに高いのか?」

 ファイアーマンが肉にがっついてるピノに尋ねた。口のなかが一杯で答えられない。

「ナーナ」

 代わりに野菜をポリポリかじっていたヘモジが答えた。

「金貨一枚?」

「おい! 夏休みまで残ってるんだろうな、そのメニュー」

 ファイアーマンがヘモジに迫った。

 こっちに聞いた方が早いんじゃないかな?

「分かんないよ。限定メニューなんだから」

 ようやく口のなかが空になったようだ。

「祭り用のストックはまだ数年分あるから安心しろ。むしろさっさと消化して貰わないと、今は町の備蓄倉庫まで間借りしてるんだからな」

 盗まれていた献上品まで戻って来て、スプレコーンの備蓄倉庫には人に言うには憚られるほど大量の肉が溢れかえっていた。

 この先も『第二の肺』を手に入れるためには、どうしても他の部位が嵩張ってしまう。

 献上品は改めて新鮮な肉を、どれも保管庫に入れてあるので鮮度は変わらないのだが、送ったそうだ。国に収める今年度分の税金も、既に前納で戻って来た肉を割り当てている。今の中央なら、金さえ出せば、ドラゴンの肉は普通に食べられることだろう。

「だったら送って下さいよ」

「ちょっと、あんた。厚かましいにもほどがあるわよ。いくらすると思ってんのよ」

 ビアンカがファイアーマンを責めた。

「だから金貨一枚だろ? 大丈夫、春の迷宮探索で稼いだ分がある」

「無料だよ。だって、僕たちが取ってきたんだもん」

「え?」

 ピノ君がファイアードラゴン戦のあらましを語り始めた。今、南の地で何が起きているか、聞かされていなかった子供たちは目を丸くしながらも、瞳を輝かせて聞いていた。


「ほんとに、あの船はドラゴンとやり合える船だったんだ……」

 パスカル君が感動している。

「お姉さんだけじゃなかったんですね」

 ビアンカは僕の顔を見つめた。

 あの魔女と同列にするなよ。姉さんとの間には、遙かに深い溝があるんだからな。

「やっぱ、アイシャさんはすげーなー」

 ファイアーマンは相変わらずエルフ師匠、ラブらしい。


「弟分から金取ったりしないよ。帰ったら送ってやるから、みんなで食え」

「やった!」

「ありがとうございます。エルネストさん」

「あの…… わたしも混ぜて貰っても…… できれば夏の合宿という奴にも参加させて頂きたいのですが…… 駄目でしょうか?」

「何言ってんだよ、姉ちゃん。同じ飯を食ったら、もう仲間だろ」

「お、いいこと言うぜ」

「ナーナ」

 獣人はシンプルでいいな。さすが愛すべき隣人だ。

「そうだ。スプレコーンじゃなくても、気兼ねなく、うちに遊びに来て下さいね。勿論、お肉が届いたら知らせますから」

 ビアンカがフランチェスカにクラスとパスカル君の寮の場所を教えていた。

 不安材料が片づくと、また肉を片手にピノの武勇伝に耳を傾けるのであった。

 

 夜も更けると、明朝の点呼もあるからと、解散することになった。

 ピノはすっかり満足した様子で、既に夢のなかだ。

 皆、起こさぬようにそっと出入口を出た。フランチェスカのテントはビアンカたちのテントに近かったので一緒に帰っていった。


「なんか疲れた」

 僕は床に穴を掘って残飯を埋め、寝台に毛布を敷いて眠りに就いた。



 翌朝、まだ誰も潜っていない時間帯に二十四階層に潜った。

「ここからが本番だな」

「うん!」

「魔法はなしだ。剣だけで行くぞ」

「ナーナ」

 地図を調べたところ、しばらくの間、数フロアーはゴブリンたちとの戦いに終始することがわかった。地下道ではなく、丘陵地帯が戦場だった。

 宝箱も彼らの陣地に落ちているのだが、この迷宮の鍵がないのでリスクを背負って開けることになる。一応、ピッキング道具はあるから、初級だし、開けてみてもいいかなと思う。まさか即死級の罠はあるまい。勿論、備えはするが。


 ゴブリンの巡回兵が道を塞いでいた。

「行くよ」

 ピノが飛び出した。ヘモジが続く。僕も「魔法なし」と言いながら結界だけは張りながら後に続く。

 先頭のゴブリンをピノは難なく剣を切り返して始末する。

 その後ろの一体をヘモジが力で葬り、更にその後ろの敵を、ピノが回り込んで仕留めた。

 なかなかいい線いってる。

 爺さんの教え通り、無駄な力は使っていない。鋭く急所に一撃だ。リオナもそうだったが、動体視力が恐ろしくいい。力任せにならず、振り抜くタイミングと武器の重さだけで急所を的確に切り裂いている。

 丘の向こうに別働隊が現れる。これは不可抗力だ。

 だが、幸いなことに弓兵はいない。剣を掲げながら、叫びながら傾斜を必死に駆けてくる。

 迷宮構造ではなく、丘陵地帯になっているのはゴブリンフロアーの定番か。どこかに本営があって、宝箱が待っているはずだ。

 本営は奥の高台の上にあった。街道の側なので落としてから先に進むことにした。

 順調にピノは戦い続けた。

 考えてみればまだ冒険者見習いの仮免中なのだ。

 それが熟練者のような動きでゴブリンの団体を次々仕留めていく。

 リオナ共々、末恐ろしい。

 爺さんもさぞ扱いに困っていることだろう。若すぎる才能という奴だ。

 増長する奴じゃないが、無理は禁物だ。

「ピノ、下がって、呼吸を整えろ」

「はい」

 万能薬を舐めて、深呼吸した。

 代わりに僕が前に出て、相手する。

 弱すぎてすべて一撃だ。武器ごと粉砕する。

 本営のリーダーと取り巻きがいた。

 弓持ちも多い。

 まずはあれからだ。

 銃を使いたいところだが、それもピノの仕事だ。

 自分の銃で狙いを定める。塹壕を駆け回り、仕留めていく。

「ひとりじゃ敵が多すぎるな」

「ヘモジ、少し敵を減らしてやろう」

「ナーナ」

 チョロダッシュしたヘモジが、ピノとは逆回りで砦の敵を始末していく。こちらは草むらを使って奇襲を楽しんでいる。

「ナーナ」

 粗方片づいた。残るは本営にいる恰幅のいい隊長格だけになった。

 敵は全部で三人だ。

 リーダーをピノに任せて、周りの副隊長は僕とヘモジが担当することにした。

 

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