オータン迷宮侵攻中(ゆうげ)5
遅くなりました。m(_ _)m 睡魔に負けました。
「ひらっひゃい」
口に物を入れたままピノが出迎えた。
「あー、ピザか。食いたかったなぁ……」
ファイアーマンがピノの食いかけを見て言った。
「夕飯、食べてないの?」
「食べたけど、物足りなくてさ」
「あれだけ食べてよく言うわね」
「こんばんは、ピノ、エルネストさん」
扉代わりにぶら下げた布を捲り上げて、三人が顔を出す。
続いて入ってきた初対面の三人は一礼すると、ピノに勧められるまま用意した席に着いた。 僕の作った即席の土の宿を物珍しそうに見回している。
「ファイアーマン、ちょっと」
僕は彼にもう一度石を焼いて貰うことにした。その間に、ピザ生地とチーズを用意する。残りのベーコンも輪切りにした。
「全員分はないから、一人半分な」
「やった!」
三人は喜び、残りの三人は訳が分からずにいた。
「三人を紹介しますね」
全員テーブルに着くと、ビアンカが言った。
その声に反応して三人が起立した。
「ダンテ・コンコーネ、オリエッタ・クラッソ、ヴェロニカ・クラッソ。全員同級生で、同じクラスです。オリエッタとヴェロニカは見ての通り双子です」
なるほど女子ふたりは見分けが付かなかった。ふたり揃って同じ顔をして、長い三つ編みを王冠のように頭の上で巻いていた。
ダンテ少年は、今時珍しい、魔法使いのトレードマークの三角帽子を被っていた。黒髪のシャイな少年だった。視線が合うと、うつむいて帽子の縁で顔を隠してしまうような少年である。
今は食事中ということでファイアーマンに無理矢理取り上げられている。なかなかにハンサムな少年である。
三人は魔法学院のパスカル君の寮のご近所さんらしい。つまりそれなりの子弟ではあるが、一流どころではない連中だ。馬車通学のなかで知り合い、いつの間にかつるむようになったようだ。内職も手伝ってくれているらしい。
自己紹介が済んだところで更なる来客があった。
「フランチェスカ?」
お礼ということでシチューを持ってきてくれたのである。
「うおおお、ありがとう、姉ちゃん。姉ちゃんも上がっていってよ」
ピノが器をさらっていった。当然、人数分はない。
自己紹介が繰り返されている間に、僕はパンを用意する。明日の朝に取っておいた物だが、パンに付けて食べれば人数分賄えるだろう。ピザとパンでは食い合わせがいいとは余り言えないが。空腹は最高のスパイスということで。
「ちょっと失礼」
僕は即席で階段を作り、屋根に登る。
森のなかに気配を感じた。
銃を取ると、狙いを定めて僕は発砲した。
「ピノ、ヘモジ取ってきてくれるか?」
僕は口の周りをシチューでぎとぎとにしているふたりに頼んだ。
「肉だぞ」
ふたりは飛んで出て行った。
「どうしたんですか?」
パスカル君が僕を見上げて尋ねた。
「近くに獲物がいたから仕留めた」
闇夜に声が聞こえた。
「助けてぇ……」
「なんか助けを求めてますけど」
ビアンカが言った。
「重くて持てないよー」
「なんのために剣を持っていったんだよ」
「ピノ、何やってんだ! 解体して、必要な分だけ運べばいいだろ」
玄関口で僕は声を上げた。
「そんなことしたら他の魔物に取られちゃうよー」
「しょうがねえな」
ファイアーマンが助太刀に向かった。
「おーい、助けてくれーっ」
ファイアーマンの声だ。
「……」
「何やってんのよ……」
ビアンカが頭を抱えた。
「僕も行ってくる」
パスカル君が迎えに出た。
「ち、ちょっと、これ。駄目だ、運べないよーっ」
パスカル君も匙を投げた。
「ちょっと、エルネストさん。何倒したんですか?」
ビアンカが僕に視線を向ける。
「そんな大したものじゃないよ。ただの猪だ」
「兄ちゃん、チョビ出してーっ」
ピノの救援要請だ。
僕はチョビを大きめに召喚した。お客が驚いた。一度見ているフランチェスカでさえ、その大きさに驚いた。
「悪いな、チョビ。ヘモジを手伝ってきてくれ」
ノシノシと方向転換すると森のなかに消えた。バキバキと木の枝をへし折る音がする……
チョビが大きな鋏に挟んできたものはやはり猪だった。
「ウルスラグナ!」
ビアンカが呟いた。
「猪だろ? 違うのか?」
僕は聞き返した。
「鉄の皮膚を持つというレアな猪です」
「これが? わたし、初めて見ました」
フランチェスカが答えた。
「あの牙は高価な薬材になるんです」
鋭く長い牙が見て取れた。
シルエットはただの猪なのだが別物だったようだ。
ビアンカが回収させてくれと懇願してきた。さすが薬剤官の娘。
「でも、あれを剣で刻むのは無理ですよ。ほんとに外皮が硬いんですから」
ビアンカが言った。
チョビは獲物を壕の手前に下ろした。
「兄ちゃん、酷いよ……」
ピノが疲れ果てていた。
剣を叩きつけてもビクともしないことを実践して見せた。
「ウルスラグナだそうだ。知ってたか?」
突然、ピノが剣を落とした。そして周囲を見渡し始めた。
「兄ちゃん、早く隠して! 早く!」
急に焦りだした。
チョビが鋏でウルスラグナを摘まみ上げると、壕のこちら側に下ろした。というより落とした。
重そうな音と共に天井が崩落した。こりゃ、担げないわな。
埃を払い、再構築している間に全員が部屋のなかに戻ってきた。
チョビも小さくしたので今はヘモジと戯れている。
「兄ちゃん。早くこれなんとかしてよ」
ピノがそわそわしている。
「何焦ってるんだよ。ドラゴンの肉も平気な癖して」
僕は運びやすいように『無刃剣』で各部位を切断し始めた。
抵抗なく切れた。土蟹なんかより遙かに柔らかい。
「なんだ、切れるじゃないか」
「え?」
「ええっ?」
「はあ?」
全員が目を丸くした。
「ほら手分けして台所に運べ」
全員で切り分けたブロックを台所スペースに運んだ。
「やっぱり、エルネストさんは普通じゃないよ」
聞こえてるぞ、パスカル君。
「で、何、慌ててたんだ?」
ピノを見る。
「兄ちゃん、知らないのかよ」
「知らないから、こういう状況になってるのだと思うんだが」
「ウルスラグナの肉って、めちゃくちゃ高級品なんだよ。レア中のレアなんだ。ドラゴンの肉並みだよ」
「じゃ、いつもと同じということだな」
「冗談行ってる場合じゃないよ! 早く焼いてよ!」
まるでお漏らししそうな子供みたいだった。余程の希少品と見える。
「まさか、ここでも肉祭りか?」
ピノは大きく頷いた。
「お土産、分けておいてよ」
「よく分からんが、わかった」
周りにいたビアンカたちも喜んだ。




