表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
509/1072

オータン迷宮侵攻中(フランチェスカの冒険)4

 僕はフランチェスカに詠唱の最初に「ムルトゥス」を付けてみるように言った。そして乾いた壁に水魔法でスペルを刻んだ。

 ピノは理解したようで、突っ込むのを我慢している。

 フランチェスカは言葉を噛みしめるようにして呪文を唱えた。

 定型は定型だが、本人の能力はかさ増しされる。魔法使いに上級、下級のランク付けがあるように、威力も又、詠唱する者の個の力に左右される。今の彼女は、以前の彼女じゃない。そこへ更に少しばかりエルフ語の恩恵を加える。今日まで真摯にやって来た彼女へのご褒美だ。

 詠唱を終えると、今までとは明らかに違う輝きを放つ炎がスケルトンリーダーに向けて撃ち出された。

 スケルトンリーダーはカチカチ言いながら盾を構え、迎え撃つ。

 命中する一瞬、盾が七色に光った!

「魔法盾だ!」

 ピノが飛び跳ねた! ようやく本日の稼ぎが出たようだ。

 ピノは尻尾をピンと立てて成り行きを見守る。

 魔法は四散したが、相殺するまでには至らなかった。盾が衝撃で持っていかれて肘の関節から腕が千切れ、吹き飛んだ。

 くすぶった火種が発火して肘から先に火が付いた。

 再詠唱の間の時間稼ぎにピノとヘモジが飛び出した。

 ヘモジが敵の斧を盾で防ぎ、その隙にピノが、片足を刎ねた。

「退いて、ピノ君!」

 フランチェスカの二撃目がリーダーの肋骨に命中した。

 リーダーは眩しく燃え上がった。

 斧を杖にして、片足で立ち上がろうと足掻くが、残る骨も自重に耐えきれず、砕けて、炎に巻かれてやがて動かなくなった。

「まだ周囲に敵がいるぞ!」

 剣を下ろしたピノに僕は叫んだ。

「兄ちゃん!」

「なんだ?」

「パス!」

「……」

 ゾンビか……

「お前、道場の実地訓練でもそんな楽してんのか? 爺さんに言いつけるぞ!」

「道場じゃ、ちゃんとやってるよ!」

「だったら手を抜くなよ」

「でも、あれは一種の拷問だよ! 獣人虐待だよ!」 

「わたし、やります」

 こちらの返事も待たずに、フランチェスカが杖を構える。

「悪いな」

「こんなに魔法が楽しいの、久しぶりだから」

 彼女の魔力量なら下駄を履かせたままで問題ないだろう。


 戦闘に気付いて遅ればせながら、足を引き摺りながらやって来たゾンビたちは彼女の魔法で次々火葬にされていった。

 手の空いたピノは後ろで床に転がっている装備アイテムを回収し始めた。

 ヘモジは万が一に備えて一歩手前で待機している。

 そろそろ彼女の顔が青くなってきたので、下がるように指示した。戻って来た彼女は晴れやかな、でもやや蒼白な矛盾した顔をしながら、下級の魔力回復薬を飲み干した。


 滞りなく、迷宮攻略は続いた。

 が、ピノもフランチェスカもそろそろ背中のリュックが満杯だった。

 ピノの野営用の荷物は僕のリュックに既に移したが、それでもドロップ品は装備品がほとんどなので嵩張らないわけにはいかなかった。

 この迷宮にはアイテム転送制度がなかった。小さな教会はあるが、人員は数人だけで、とても副業をやれる環境ではなかったのだ。

 僕はチョビを召喚した。

 手頃な大きさの背中に荷物を積むとロープで括り付けた。

「ナーナ」

 ヘモジは早速、チョビの頭に乗って、召喚獣同士、会話を始めた。恐らく状況説明でもしてるのだろう。

 僕たちはチョビを引き連れ歩を進めた。

 フランチェスカの午後の点呼の時間もあるので、調整しながらの移動である。


 外に出ると、狩りを終えた生徒たちで、出口はごった返していた。

 少し行った商業ギルドの買取窓口は芋洗い状態だった。

 チョビを見た生徒たちが騒ぎ出す。

 背中にどっさり、二束三文の装備品の山だ。エルーダでなら捨てていく代物だが、ここでは、こんな物でも混ぜなければ一日の稼ぎにはならない。

 せめて魔石が取れたらよかったのだが。

「あと三十分で、点呼ですから。その頃なら窓口も空くはずです」

「じゃ、時間でも潰すかな」

 僕は装備品から宝石だけを回収した袋を取りだした。

 そして『鉱石精製』を使って純度を上げる作業を、即席で作った椅子に腰掛けながら始めた。

「ワンランク上の宝石と評価されるだけでも、初級の迷宮では大儲けになるはずだ」

 一つ一つを太陽に照らしながら、不純物を抜いていき、尚且つ強度を上げていく。

「それも魔法なんですか?」

 フランチェスカが興味深げに覗き込んだ。

「魔法というより、スキルだね。魔力は消費するけど」

 僕は純度を上げた石を彼女に手渡した。

「こんなスキルもあるんですね」

「お金儲けには最適だ。それに装備アイテムを作るのにもね」

 全員分の宝石を磨き終わると、まとめて袋に収めた。

 ピノはヘモジと一緒に物珍しそうに宝石を明かりに透かして覗き込んでいた。


 時間が来たのでフランチェスカには宿営地に戻って貰った。

 テントの大体の位置を教えて貰って、後で分け前を届けることにした。まあ、ピノの鼻があれば一発で辿り着けるだろう。

 他の生徒たちも一斉に捌けて、一般の冒険者がチラホラ残るだけになった。

 一般の冒険者と目があって、お互い苦笑いをした。

 汗だくになりながら職員がチョビの背中の物を下ろす手伝いをしてくれる。

 やはり捨て値同然の値段が提示された。リーダーの装備と盾がそれなりの値段で売れただけだった。

 ピノは値段より、自分の持ち込んだアイテムが売れただけで充分嬉しいようだった。船のクルーとしての給料の方が多いくらいだものな。

 でも、事態はそこでは終らない。

 僕は宝石を売りに出した。

「金貨二百枚……」

 ううむ、もう少しいくと思ったんだが、元が粗悪だとこの程度が手一杯か。

「すげーっ」

 ピノの羨望の眼差しが心地いい。

「また金持ちになったな」

「これくらいじゃ何も装備買えないよ」

 生意気な。

 でも尻尾がしっかり揺れていた。


 さすがに野営地を歩くにはチョビは邪魔なので、解放して、僕たちは徒歩でフランチェスカのテントを探した。

 村はずれの森のなかには生徒たちが建てたテントが乱立していた。テントにはクラスの番号が記されてあったが、僕たちは三年生だということしか聞いていなかった。

「あっち」

 ピノの指す方角に進んでいくと、なんだかよくないエリアに差し掛かる。

 女子生徒専用のエリアらしい。

 僕は近くにいた生徒に「入って大丈夫か?」と尋ねた。

 すると親切なその生徒はフランチェスカのテントまで案内してくれた。

「姉ちゃん、換金してきたぞー」

 ピノが自慢げに、先走る。そしてひとつのテントの前で立ち止まる。

「わざわざすいません」

 夕食の準備を始めていたようだった。エプロン姿のフランチェスカがテントから出てきた。

 ピノの視線は彼女ではなく、火に掛けられたシチューの鍋に釘付けになっていた。

「僕たちもそろそろ野営する場所を決めないとな」

 ピノは大きく頷いた。

 僕は彼女に取り分を収めた袋を渡した。等分して、出た余りを切り上げて金貨七十九枚だ。

「こんなに?」

「宝石がそれなりに売れたからね」

「ありがとうございます。教えを頂いただけでなく、こんなことまでして頂いて……」

「報酬は均等払いが冒険者の鉄則だからな。気にすんなよ、姉ちゃん」

 ピノが偉そうだ。

「じゃ、僕たちも夕飯の準備があるから、これで」

 僕たちはその場を後にした。

 遠くでフランチェスカの友達が報酬額の多さに驚いて騒ぎ始めていた。

「森は荒らしたくないからな。平らな場所がいいんだが……」

 そんな場所は大概先客がいるものだ。

 少しはずれだが、小さな魔物が出そうなエリアに広めの土地を見つけた。

「ここにするか?」

「どこでもいいよ。お腹空いた」

 フランチェスカの前と随分違うじゃないか。

「ナーナ」

「パスカル君たちも尋ねてくるし、少し豪勢にいくかね」

 僕は土魔法で地面を削り、壁を作った。

 屋根も付けて立派な土の家を作った。全員がゴロ寝しても余り有る居間に椅子とテーブルを完備した。キッチンなど水回りを別室に作って、尚且つ寝床も作った。

 土砂を削ってできた穴は壕にして建物を囲んだ。出入り口だけあちら側と繋がっていた。

「相変わらず、容赦ねーな。兄ちゃんは」

 光の魔石を埋め込んでいる。

「いいんだよ、別に。どうせ後で更地に戻すんだから」

「それより夕飯の準備するぞ」

 食事と行っても『若様印のハンバーグ&チーズサンド』と非常用のクッキーだけだ。あとは野菜スティックと水だ。

「何か物足りないな」

 食堂や売店は小さなお客が大勢押し寄せて早くも完売、店じまいしていた。

「そうだ」

 僕はチーズを取りだした。それと非常用のピザ生地も用意した。

 窯がないので、石を赤くなるまで焼いて、その表面に生地を貼り付けた。

 いい感じに焼けたら、ひっくり返して、熱々の生地にチーズをたんまり載せる。

 保存用のベーコンをナイフで切って散らして、余熱で焼いて、即席ピザのできあがりである。

 ピノもヘモジもご満悦である。

「兄ちゃん、やっぱり天才だな」

 チーズをびにょーんと伸ばして、嬉しそうに笑う。

「全部アンジェラさんが用意してくれた非常食セットだ。礼なら帰ってからアンジェラさんに言うんだな」

「あーっ、遅かったか」

 突然、声がした。声がしたかと思ったら、パスカル君たちとその仲間たちだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ