砂漠の竜(帰還)10
案の定、いつもの景色がキャビンに広がっていた。子供たちがお腹を出して転がっている。
「今襲われたら大変だな」
僕は、ソファーに座り、今回の一件の出費を計算していた。
全員が使用した万能薬は、合わせると大瓶一瓶ぐらいになった。全員が使用した分を予備の瓶で補充したら、ちょうど一瓶、空になった。
うちのパーティーだけで、これだからなかなか豪儀である。
内訳は、戦闘中の魔力補充、防壁作りや重傷者の治療、捜索中の結界や空気浄化などだ。必要なこととはいえ、余りの浪費振りに閉口してしまう。やりくりに苦労しているカミールさんが知ったらきっと泣くに違いない。
とりあえず、帰ったら忘れずに予備を作ることにする。
後は航行用の魔石のストックだ。今回ほぼ使い切ってしまったので、大幅に補充しなければならない。今後のことも考えて、予備の保管を今の倍に引き上げることにする。自分で揃えても構わないが、今回は商会に任せてしまった方がいいだろう。たぶん保管用のケースを付けてくれるに違いない。
食料は余裕がある。教会の補給物資があったから、こちらから供出することはなかった。
「魔石だけだな……」
僕の呟きをアイシャさんが聞いていた。
「子供たちの給金ははずんでやらんのか?」
普段お金のことなど頓着しないアイシャさんが珍しいことを言う。
「払いますよ。なんてったって今回はドラゴン討伐ですからね」
「大丈夫かの。大金を見て目を回さんじゃろうか?」
「それより、ドラゴンが弱いと勘違いしてる方が怖いですよ」
「普通、ああはいかんからな。妾としては最後の一撃が気になるのじゃがな」
やはり気付いていたか。
「新しいスキルだと思うんですけど、帰ったら確認しますよ」
ミコーレでお客の用事を済ませると、いよいよスプレコーンに向けて出発である。
子供たちは暢気に全員ソファーで居眠りを始めた。
騎士団の面々も疲れが溜まったのか、格納庫の床に敷いた毛布の上に転がって休んでいる。
僕は欠伸をしながら操縦桿を握る。
自動航行で街道に沿ってただ北を目指すだけだから尚更眠い。
隣のテトの席にはヘモジがいて、爆睡している。
ほんと、誰も信じないよな。こんな小さな奴がドラゴンを殴り倒すなんて。
「ヘモジ、ありがとな」
「ナーァ」
寝言で返した。
日暮れ時に無事ドックに到着すると、早速、出迎えが大勢現れた。
何せ、予定外のほぼ十日ぶりの帰還である。
棟梁は元より子供たちの親たちも駆けつけた。
カミールさんが僕に代わって、帰還が遅れたことを陳謝した。
親の心配を余所に、子供たちは兄妹たちとの久しぶりの再会に沸いていた。
「まだ本部に戻らねばならないから、我らはこれで」
騎士団が商会のゲートを使って、帰って行った。
「すいません、棟梁。魔石の補充お願いしていいですか? 予備まで使い切ってしまって」
「大変だったようだな。他に問題は?」
「火山の噴火に巻き込まれたので、細かいところに灰が溜まってるかも。それと」
「なんじゃ?」
「ファイアードラゴン、二匹狩ってきましたよ」
「おおっ! そりゃ、また凄いな。新造船はしばらくないと思っておったんだが」
「解体は姉さんの方に回すので、いつも通り――」
「分かった、買い付ける準備をしておこう」
「それと」
「例のおもちゃならできとるぞ。ありゃ、なかなか便利だ。運搬用にうちにも欲しいくらいだ」
「じゃ、残っている肺はお譲りしますよ」
「いいのか?」
「今回の討伐は予定外だったので。在庫がはけるまでは狩りを見送ろうかと思って」
「なるほどの。確かにここのところ景気がよすぎたからの。了解した。そういう理由なら遠慮なく使わせて貰おうかの」
整備の一切合切を任せて、僕たちは帰宅した。
いつもと変わらず、転移室前でエミリーが迎えてくれた。
「うるさいのがいなくて、骨休めできたかい?」
「はい、あ、いえ……」
「静かになりすぎて、かえって寂しくなっていけないね。お帰り、みんな無事かい?」
アンジェラさんまで出迎えに現れた。
「ただいま、アンジェラさん」
「ただいまー」
「ただいまなのです」
「ナーナ」
「火山の噴火に巻き込まれたと聞いたときには、思わず笑っちまったよ」
「酷い目にあったのです」
僕たちは途中、地下階段横に荷物を降ろして、ゾロゾロと居間に向かった。
「風呂に入りたい!」
子供たちが、家に連れ帰ろうとする親たちに待ったを掛けた。
「火山のなかを飛んできたんだぜ。いいだろ?」
ピノたちが大袈裟に主張する。
親たちは、仕方ないと諦め、とりあえず安心して戻って行った。
着替えは我が家に置いたままだし、ここまで来たら家も同然だし、まあ、いいだろう。
「じゃ、男連中は大浴場だな」
「おーっ」
「ナー」
大浴場に行くとロメオ君と親父さんがいた。
珍しいな、アイアンクロー親父がこの時間しらふだというのも。
「うおおりゃあああ」
「とおおりゃあああ」
ピノとピオトがお尻丸出しで駆け出した。
「走ると転ぶよ」
テトの言葉通り、ふたりは滑って転んでお尻をしたたかぶつけて、そのまま湯船まで滑っていった。
ゴン!
鈍い音がした。ピノが頭を抱えていた。
「相変わらず元気なチビどもだ」
ロメオ君の親父が言った。
「父さん、酒も飲まないで僕の帰りを待っててくれたみたいでさ」
ロメオ君がこっそり教えてくれた。
「なるほど」
ただのゴリラ親父じゃなかったか。
「生き返るー」
「極楽極楽。ふへー」
「はへー」
すっかりおっさんモードだよ。
「ナーナ」
ヘモジが湯船代わりの桶に浸かってほっとしていた。
「そうか、特別避難地域に指定するのか」
ギルドとしても火急を要する案件だった。
「ファイアードラゴンか。命知らず共が動くな」
無法地帯にも冒険者ギルドはある。だが今回は、ちょうどいい場所に支店がないのである。
どこの事務所が請け負うのか早急に決めなければならない。少なくともスプレコーンの支店じゃないことは確かだ。
「教会が臨時に作ったキャンプの位置はどの辺りだ?」
「さあ、僕たちもそこまでは。補給部隊と合流してすぐ帰ってきたので」
風呂を上がると、子供たちはヘモジに任せて、僕はロメオ君たちといっしょにギルドに寄ることにした。
「『認識計』借りるよ」
僕はいつもの使ってる隅っこの『認識計』に手を当てた。
レベルは七十五、相変わらず頭打ちだが、それでも三ほど上がっていた。
アクティブスキル…… 『兜割(五)』『鬼斬り(一)』『スラッシュ(三)』『連撃(五)』『雷神撃(二)』『装備破壊(四)』『ステップ(十二)』『シールドバッシュ(五)』『シールドアタック(二)』『認識(十)』『一撃必殺』『火魔法(八)』『水魔法(十一)』『風魔法(十二)』『土魔法(十二)』『氷魔法(十四)』『雷魔法(十)』『光魔法(二)』『無属性魔法(一)』『召喚魔法(十五)』『空間転移魔法(十一)』『強化魔法(一)』『竜の目(八)』『探索(二)』『鉱石精製(十)』
パッシブスキル…… 『腕力上昇(九)』『体力強化(八)』『片手剣(十四)』『両手剣(四)』『鎚(三)』『弓術(四)』『盾術(十一)』『スタミナ回復(七)』『二刀流(一)』『隠遁(一)』『アイテム効果上昇(八)』『採集(五)』『調合(十)』『毒学(四)』『革細工(五)』『鍛冶(二)』『細工(五)』『紋章学(二十)』『覚醒(十二)』『料理(三)』
ユニークスキル…… 『魔弾(十)』『楽園(八)』『完全なる断絶(十五)』『千変万化(八)』『憑依(三)』
称号…… 『蟹を従えるもの』『探索者』『探求者』『壁を砕きし者』『ユニコーンの盟友』『覚醒者』『ドラゴンを殺せしもの』
アクティブスキル『鉱石精製』と、五つ目のユニークスキル『憑依』が増えた。
称号、『蟹を狩るもの』が『蟹を従えるもの』に変化した。『探求者の弟子』から弟子が取れた。
そして新称号、『ドラゴンを殺せしもの』である。
『付与効果、ドラゴンと竜の固有結界を破壊する能力を有する場合に限り、無力化することが可能』
僕がファイアードラゴンにとどめを刺せたのはこれのせいだ。回りくどい説明だが、要は「ただ殴っただけでは結界は消えないよ。破壊するだけの能力が必要だよ」てことだ。
これは便利な能力を手に入れたものだ。あの厄介極まりない多重結界を破壊できるのは実に有り難い。
ただ、ドラゴンと竜にしか効果がないのが残念である。
アクティブスキル…… 『火魔法(七)』→『火魔法(八)』、『水魔法(十)』→『水魔法(十一)』、『風魔法(十)』→『風魔法(十二)』、『土魔法(九)』→『土魔法(十二)』、『氷魔法(十三)』→『氷魔法(十四)』、『雷魔法(六)』→『雷魔法(十)』、『光の魔法(一)』→『光の魔法(二)』、『召喚魔法(十三)』→『召喚魔法(十五)』、『空間転移魔法(十)』→『空間転移魔法(十一)』、『竜の目(七)』→『竜の目(八)』、『探索(二)』、『鉱石精製(十)』
パッシブスキル…… 『体力強化(七)』→『体力強化(八)』、『盾術(十)』→『盾術(十一)』、『スタミナ回復(三)』→『スタミナ回復(七)』、『アイテム効果上昇(七)』→『アイテム効果上昇(八)』、『革細工(四)』→『革細工(五)』、『紋章学(一五)』→『紋章学(二十)』
ユニークスキル…… 『魔弾(七)』→『魔弾(十)』、『楽園(七)』→『楽園(八)』、『完全なる断絶(十四)』→『完全なる断絶(十五)』
称号…… 『蟹を狩るもの』→『蟹を従えるもの』、『探求者の弟子』→『探求者』、『ドラゴンを殺せしもの』




