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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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砂漠の竜(続ファイアードラゴン決着)9

 再びブレスを吐こうとしていた。

 ナガレがもう一度雷撃を放つが、待っていましたとばかりにすり抜けた。そして、ブレスを叩き込もうと咆哮を上げた。

「甘いな」

 アイシャさんが言った。

 雷壁がファイアードラゴンの目の前に展開された。槍のような稲妻が連続してドラゴンを襲う。

 慌てて回避するが既に囲まれていて、逃げ場はなかった。

 ドラゴンは必死に高度を下げた。

 結界が雷を弾いていくが、雷の猛襲は一向に収まらない。

 ロメオ君とアイシャさんが交互に攻めているのだ。

 さすがのドラゴンも逃げ場がなくなり、地上に追い込まれた。

 やる気を取り戻すべく万能薬をクイッと引っかけて、僕は落下地点に穴を掘った。

 慌てたドラゴンは羽ばたいたが、羽根や尻尾が雷に触れて、姿勢を崩した。

 やはり疲れが溜まっていたのだろうか、いくらか気分を持ち直した。

「捕まえた!」

 太くて鋭い棘を持った茨がドラゴンの尻尾に巻き付いた。

 砂で作った茨を使ってドラゴンの尻尾を穴のなかに引き止めた。

 ドラゴンは脱出しようと必死で抵抗する。

 だが、茨は障壁ごと巻き込んで締め上げていく。

 アイシャさんとロメオ君の攻撃で、外側の障壁が剥がれる度に、茨は内側にどんどん食い込んでいく。

 いくら再生しても密着したその部分だけは障壁を張ることができない。障壁に食い込んでいく茨の棘はやがて本体の皮膚に到達する。

 堅い鱗が棘を防ぐが、なかには鱗の隙間を傷つけたりもする。

 ドラゴンは痛みを覚えて慌てた。

 生まれてこの方、障壁を貫通されたことなどないのだろう。

 狂ったように必死に羽根をばたつかせて、茨をほどこうともがく。

 周囲の砂がじわじわとドラゴンの足元を埋めて行く。穴は益々深くなる。

 そうしてる間にドラゴンの遙か頭上に巨大な岩が。

 アースドラゴンを仕留めた岩石落としだ。

 だが、ファイアードラゴンはブレスを吐いた。

 頭上から降る大岩をこともなく粉砕した。が、その後ろにいるヘモジには気付いていなかった。

 ミョルニルが多重結界ごとドラゴンの頭を殴りつけた。

 だが多重結界が勝った。ヘモジははじき飛ばされた。

 が、ドラゴンの尻尾は僕が押さえているし、身体の半分はもう身動きが取れなくなっている。ドラゴンは踏めない地団駄を踏んだ。

 本来なら尻尾で追撃を掛けるところなのだろう。

 僕は更なる深みにドラゴンを引きずり込んだ。

 長い首をもってしても、溺れるまであとわずかであった。

 ヘモジの攻撃をもろに受けて首がしなった。

 頭上から大岩が振ってくる。

 今度は直撃である。

 アイシャさんは大岩を塵に帰した。

 ヘモジはすぐさま頭を粉砕すべく、連打する。

 ドラゴンは咆哮を上げた。

「まずい!」

 ヘモジとの距離はない。

 ヘモジが消えた。

 あれ?

「ナーナナー」

 声が聞こえてきそうだった。

 小さくなったヘモジは盾を構えている。

 僕はヘモジに魔力を注いでやった。

 ブレスが放たれた。

 奇しくもブレスに対する盾の実験が叶った。

 ヘモジは無傷だった。

「ナーナ」

 一瞬、勝ち誇ったドラゴンの顔面を再び巨大化したヘモジが、ミョルニルで横殴りにした。

 長い首が砂漠に倒れ込んで砂塵を巻き上げた。

 それでもドラゴンの障壁は健在だった。

 やはりしらふのドラゴンの結界はそう簡単には貫通しないのか。

 ヘモジの戦闘を妨害しないために遠距離攻撃も牽制程度になっていて、結果的に決め手を欠いていた。

 僕は銃を構えた。

『魔弾』と『千変万化』と『一撃必殺』を発動させた。

「ああ?」

 思わず奇声を上げてしまった。

 全員の視線を集めてしまった。

「あ、ちょと、驚いたもので」

 言い訳にならない言い訳をした。

『一撃必殺』が発動していたのだった。

 今まで結界を剥いでからしか使えなかったのに。

 僕は半信半疑で『魔弾』を発射しようとしたら反応が切れた。

 あれ? 不思議に思って、考えたら単に短銃の射程が切れただけだった。

 船はブレスを警戒してドラゴンから距離を取って旋回していた。

 僕は側にいたリオナから自分のライフルを回収すると薬室を空にした。

『一撃必殺』が復活した。

 ヘモジは頭を専門に殴りつけていたので、僕は照準を長い首の根元に合せた。

『一撃必殺』が、この位置でも発動している。

 なんだろう? 凄く怪しい感じがする。

 でも撃っちゃう!

「当たるなよ、ヘモジ」

 別段、何かが変わった様子はなかった。いつもと同じ一撃だ。

 だが抵抗なく首は吹き飛んだ。

 障壁をものともせず『魔弾』は首根っこを胴体から切り離した。

 ヘモジの一撃がドラゴンの頭蓋骨を粉砕して、地面にめり込んだ。

「ナ?」

 急に手応えがなくなったことにヘモジは首を捻った。


 僕はひとりボードで地上に降りた。

 ヘモジは砂漠を駆けてくると小さくなって僕の肩に飛び乗った。

「ナーナナー」

「ご苦労さん、ヘモジ」

「ナーナ」

 僕はドラゴンの屍に近づくと、名札を付けて転送する振りをした。

 あっ、少し持ち帰った方がいいか。

 僕は肉を少しだけ切り分けると残りを『楽園』に放り込んだ。

 肉祭り、十年はドラゴンの肉に不自由しないな。困ったもんだ。

「ナーナ?」

 ヘモジも最後の『魔弾』について疑問を持ったようだった。

「僕にも分からないよ。威力が上がったわけじゃなさそうなんだけど」

 まさか、ね。

 あの多重障壁を貫通するなんて、何があったのやら。

 スキルの確認をしようと集中するが相変わらず見えにくい。

 おまけに恒例のサンドワームも寄ってきた。

 確認は後だな。

 帰ったら冒険者ギルドに寄ることにしよう。

 僕は砂地に転がっているボードを拾うと船に帰投した。


「兄ちゃん、肉!」

 ピノが奪うようにして肉の塊を持っていった。

「にーく、にーく、にーく、にーく」

 お肉コールが始まった。

「お客様がいるのにはしたないですよ!」

 ロザリアが必死に止めるが、カミールさんが「我らもファイアードラゴンの肉を食してみたいものだ」と言うものだから、子供たちが図に乗って、甲板で肉祭りの用意を始めた。

 チッタが、嬉しそうに肉を切り分ける。

 チコはお皿を持ってウロウロしてる。

 心なしか聖騎士の皆さんも笑顔だ。

 船は町を遠ざかり、ミコーレを目指す。

「あの辺りは、噴火が止むまでファイアードラゴンの巣になるかもしれないな」

 カミールさんが隊長たちと話していた。

 どうやら特別警戒区域に指定して立ち入りを制限するようだ。まあ、区域が無法地帯でよかった。特別どこかの国が責任を負って討伐しなけれならないということはないのだから。もっともドラゴン目的で命知らずの冒険者の群れが動き出すかも知れないが。

 いい匂いがしてきた。

 念のために万能薬を傍らに置く。毒でもあったら大変だからな。

 最初の毒味は僕だ。スキル的に一番、毒に耐性があるからだが。子供たちが食い入るように見つめる。

 僕は恐る恐る見るからにジューシーな肉を口に運ぶ。

「うまい!」

 これはうまい。肉の柔らかさもジューシーさも、甘さも何もかもが絶妙に混ざり合った、最高の一品だ。

「いっただっきまーす!」

 許可を出してないのに、子供たちがフライングで食べ始めた。

 大人たちも、もう一つの網で食べ始めた。全員甲板には出られないので、団員の半分はキャビンで皿が運ばれてくるのを待っている。

 網の上には隙間なく肉が並んだ。

 そして焼けた肉は皿に山のように盛られてキャビンにどんどん運ばれた。

「兄ちゃんにちょうどいいってことは、柔らかいってことだよな」

 そう言ってピノが頬張る。

「でもこれも美味しいよ。凄く甘いし」

 ピオトが反論した。

『若様ー』

 泣きそうな声が聞こえてきた。テトももう辛抱できないらしい。

「おいで、代わろう」

 僕は自分の分を先に皿に分けて貰うと、パンとジュースを持って操縦室に向かった。

 凄い勢いでテトが飛んできた。

 もう半べそ状態だった。

 僕はテトのことを笑いながら操縦席のロメオ君と席を替わった。

「僕も早く食べたかったんだよ。これでドラゴン五種類制覇だもんね」

 ロメオ君も駆けていった。

「もっと肉、確保しておいた方がよかったかな」

 あの勢いだと今日中に食い切ってしまいそうだ。


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