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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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砂漠の竜(続ファイアードラゴン)8

 聞けば、伝統的なアースドラゴンの狩り方というのは僕がやった方法だったらしい。人手や、準備期間の違いはあるが、要は穴掘って埋めてしまうのだ。アースドラゴンは飛べないのでこれが一番安全な方法なのだそうだ。土砂の圧力で肺が縮まり、ブレス対策にもなるので一石二鳥でもあるようだ。が、穴に誘導するまでが困難極まりない作業であって、犠牲者は絶えないらしい。

 期せずして僕はファイアードラゴン相手ではあったが、同じ方法を試みたわけだ。確かに埋めるというのはいい案だが、やはり落とすまでが本来命がけの作業なのであろう。

 結界にぶつかって脳震盪だなんて、世界一間抜けなドラゴンでよかった。余程空腹だったんだろうと善意に解釈しておくことにする。


 すぐに船がやって来た。

 僕は甲板に降りると、仲間と対面した。

「ドラゴンはどこ行ったですか?」

 リオナをはじめ、みんなが僕に詰め寄り、周囲を見渡す。子供たちの耳がびくびくしてる。

「ごめん、もう倒しちゃった」

「はぁああ?」

 みんな驚きの声を上げた。

 アイシャさんも呆れて天を仰いだ。

「結界に勝手にぶつかって、落っこちて…… ヘモジがぶん殴って仕留めた」

 ヘモジが大いばりで胸を張った。が、オクタヴィアに肉球パンチを顔面に食らっていた。

 船のわずかな軋みと風鳴りだけが聞こえた。

「兄ちゃん、肉は?」

「早く回収しないと、ワームに食べられちゃうよ!」

「そうだったのです!」

「どこ?」

 チコまで一緒になって窓から砂漠を見下ろした。

 チコ落っこちるなよ。

「もう姉さん御用達の解体屋に送ったよ」

 勿論、いくら姉さん御用達の解体屋の転送距離でもこんなミコーレの果てから送れるものではなかった。

 アイシャさんはすぐに察してくれたが、ロザリア辺りは納得のいかなさそうな顔をしていた。

 でも『姉さんの――』と言えば、なんとなくありかなというコンセンサスができているので、

深い追求はされなかった。

 そろそろ、パーティーにだけは説明した方がいいのかもしれないな。アイシャさんと相談してみよう。

 子供たちは肉さえ無事なら、狩りの細かいことなど気にしない。ほっといて大丈夫だろう。

 パリスさん以下、応援に乗り込んできた聖騎士たちも、狐につままれたようにきょとんとしているだけで、本質に気付いていない。この際、知らんぷりを決め込もう。

『テト、船を戻せ。出直すぞ』

 町に戻り、出直すと僕たちはバルトゥシェクに向かった。


 往復二日の行程を繰り返しながら、被災した町の人々の命を繋いだ。

 陸路の救援が来る頃には町の脱出組が、新たな移動先に旅立った。政府の厄介になりたくないという人たちである。

 町に残った者たちはミコーレの管轄の元、新たな移住先を探すことになるらしい。ミコーレが負うべき責任ではないのだが、教会とのバーターで話が付いたようだ。

 僕たちはスプレコーンから来た一番艇と商会所有の二番艇、ガウディーノ殿下の船と合わせて三隻の応援の到着と共にお役御免になった。

「ガウディーノ殿下が何しに来たんです?」

 僕は一番艇の責任者のエンリエッタさんに聞いた。

「船が完成したものだから、どこかに行きたかったんだそうですよ」

 子供かよ!

「それで、お姉様に会いに行こうとしていたら、知らせがちょうど来まして。ついでに使われてる次第でして」

 殿下ではマリアベーラ様の口車には勝てないか。

 商会の船の責任者は知らない人だった。専属の船長さんらしく、以前は本当に海の上で商船の船長さんをしていたらしい。

 僕を見つけると寄ってきて、痛いほど強く手を握った。「よくぞ、こんなすばらしい乗り物を発明してくれた」と喜ばれた。

 名をオッタヴィアーノ・アモローソと言う。船乗りというより、宮廷にいそうな名前だった。

「空は男のロマンだ」

 ロメオ君にも勝るとも劣らない趣味に生きる人だった。『海猫亭』の主人とも知り合いらしかった。僕のことはそっち経由で知ったらしい。

「よお、エルネスト。とんだ目に合ったな」

 殿下である。こんな辺境によこされたというのに、いつになくご機嫌だ。

「ガウディーノ殿下はお元気そうで」

「まあな」

 マリアベーラ様相手に小遣いせびりに成功でもしたのかな? 


 町の人たちはアールハイト王国の四隻の飛空艇を目の当たりにして、王国の威勢をまざまざと見せつけられた。うち二艇はど派手な赤だから、どん引きしたのかも知れない。

 教会の命で、カミールさんたち第一陣には帰還命令が出された。火山から離れた場所にキャンプの設営も始まり、教会関係者も続々と集まっているらしい。

「あぶれた者同士帰るとするか」

 カミールさんもさすがに疲れたようだ。聖騎士団のみんなも帰れると聞いて喜んだ。

 魔石の調達を済ませて、僕たちは飛び立った。

「火山の向こう側が見たい」と言うご要望があったので、一回りして帰還することにした。

 だが、それが運の尽きだった。

 最近感じた嫌な気配が迫ってきていた。

「素直に帰ればよかった」

 子供の目だけが輝いていた。

 あれが肉に見えるなんて、心はすっかり勇者だな。

「大丈夫だよ、若様いるもん」

 チコがにっこり笑った。

「おまけだよ。帰りの駄賃に狩っていこうぜ」

 ピノまで気楽なもんだ。

 これ以上ドラゴンの肉はいらないから。というよりこっちが餌になりそうなんだが。

「逃げろ。ここで戦ったら町に被害が出る可能性がある」

『了解』

 正直やる気がおきない。

 召喚主の感情が伝播するのか、ヘモジもやる気なさそうにしている。

 モチベーションがなどと言ってる間に、敵は接近してくる。

 既にブレスの攻撃態勢に入った。

「不味いな」

 前回のドラゴンはやはり例外だったらしい。

 リオナとロザリアのライフルが炸裂した。

 通常弾など焼け石に水だが、それは分かっている。障壁を削っているのだ。

 ブレスが吐かれた瞬間、ナガレの雷撃が命中した。

 ブレスはあらぬ方向に逸れた。

 僕も見ているだけでは駄目だ。

 銃を構える。

 が、既に距離を取ってこちらの様子を伺っていた。

 雷撃のダメージから回復しようとしているようだ。

 あいつ…… 強敵だ。


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