エルーダの迷宮5
翌朝、まだ誰も起きてこない静かな朝。僕は狩りの準備を始めた。
所持金は四千ルプリ、夕飯と宿代で巾着のなかは空になる。
今日稼げなかったらどうしよう。
僕は運命の朝に緊張していた。いざとなったら回収した魔石を三つ売ればいい。頭ではわかっている。一個につき悪くても銀貨五十枚ぐらいにはなるはずだ。体制を整えて出直せばいい。その場合、今日をのぞいて依頼期限はあと四日になる。やれないことはない。
気を取りなおして在庫の確認をする。僕の全財産はすべて、棺桶半分ほどの大きさの木製革張りのトランクケースに収まっている。鎧一式と予備の剣を含めて剣が二本。着替えに、野営用のお泊まりセット。薬品関係に簡易錬金術セットだ。
調合は好きで小さな頃からやっている僕の趣味の一つだ。例の『異世界召喚物語』にはいくつか現代では失われたレシピが載っていて、それが僕のとっておきになっている。ちなみに回復薬も解毒薬も自作である。高価な材料さえあれば、高く売れる薬もできて、それなりに商売になるはずなのだが、今は先立つものがない。
そしてケースの隠しポケットには秘密のメモ帳。『異世界召喚物語』のなかに記されている様々な情報を逐一メモした個人的な機密資料である。さすがに三十巻も持ち歩くわけにはいかないから、必要と思える内容をピックアップして書き留めているのである。もちろんこのなかには秘密のレシピも含まれているので盗まれると大変不味いことになる。そのため鍵付き、魔法プロテクト付きの分厚い本に仕上がっているのだ。魔法は姉さんに頼んでかけてもらった。無理にこじ開けようとすると中身が消失する仕掛けになっている。鍵は僕の掌から発する微量な魔力。仕掛けは知らない。おそらくあの姉のことだから自分でものぞけるように細工しているに違いないのだが、それは別に構わないだろう。
剣に魔力を補充したら、魔石は残り一個半になった。補充はあと二回弱できる。『目くらまし香』はまだ六つ残っている。回復薬もまだまだある。
魔石が心許ないが、思ったよりは余裕がある。きのうは余程テンパっていたに違いない。
「脚を持ち帰ればなんとかなるんだ。きょうこそは」
そのためにはスタミナをどうにかしないといけない。スタミナ回復には元気薬だ。元気草さえあれば、手持ちの材料で作れるはずだ。
道具屋に行ったら「その辺に生えてるから勝手に持っていけ」と言われた。裏山に自生しているらしい。魔法ギルドもないので冒険者は勝手にそうしているらしい。
言われた通り、元気草を多めに回収すると、宿屋に戻って早速調合を始めた。
できあがった黄色いエキスが毒々しい。舐めるとスースーするのだが、正直湿布臭い。とりあえず蜂蜜を加えて、甘めに仕上げておく。
できあがった液体をすべて水筒に放り込むと、僕は朝食を済ませ、ギルドで荷車を借り受け、迷宮を目指した。