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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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砂漠の竜(聖騎士団VS闇竜)3

 二十名の騎士たちがフライングボードに乗って次々降下していった。

「壮観じゃな」

 呆れてものが言えない。いくら軽いミスリル製の鎧だと言っても、重装備で『グングニル』を抱えた状態でこの高度から飛び出すなんて、どれ程鍛錬をこなせば可能なのか? 伝統と格式の教会にあって、最新技術を導入することに躊躇がない。紛れもない戦闘のプロ集団。

 わざわざライフルを捨てて短銃に持ち替えている自分が情けなくなる。

 ミスリルの白銀色に輝く戦士たちが、前方から迫る闇竜目掛けて攻撃を開始した。

 闇竜は小物など眼中にないようで、一直線にこちらを目指して突っ込んでくる。

 雷が落ちて、闇竜の出鼻を挫いた。

 それを合図に聖騎士が一斉に攻撃を開始した。

『結界砕き』が全部で五発、微妙にタイミングをずらして命中すると、丸裸にされた闇竜にとどめの一撃が加えられた。

「『スティンガー』だ!」

 ピノが叫んだ。

「『スティンガー』?」

「槍持ちの必殺技だよ。どんな厚い装甲もぶち抜く貫通攻撃だよ」

 道場に『スティンガー』使いがいるのだろう。ピノは羨ましそうにその光景に見入った。

 確かに急所を一撃だ。『グングニル』の弱点属性の効果も相俟って、最高の威力を発揮していた。

 首が薄皮一枚で胴体と繋がっていた。

「見事なものだ」

 アイシャさんも感嘆している。

 だが、問題はあれから得るものが余りないことだ。毒も腐敗毒なので重宝しないし、毒持ちなので肉も敬遠される。あのレベルだと皮も他に丈夫なのがいるので見向きもされない。いいところなしである。

 何故教会が闇属性を敵にしているのか分からないが、冒険者にとっては都合のいい話である。


 それにしても、思い上がっていたのは僕の方だったらしい。僕たち以上にうまく狩れる人間などいないといつの間にか、思い込んでいた。

 世界屈指の騎士団のその精鋭だ。僕たちより、多くの敵を倒し、多くの情報を蓄積し、場数も踏んでいる。一流のなかの一流。

「いつもこんな無茶をしてるのかね?」と言ったカミールさんの言葉は賞賛ではなく、「こんなギリギリの戦い方をしているのかね?」という意味だったのだ。あのときは、確かに面倒臭かったので障壁任せの特攻攻撃をし掛けたが、今思えば、やはり思い上がっていたのかも知れない。障壁には絶対的な自信があったから、あれも作戦だと言えなくもないが、やはり、以前の僕ならもう少し慎重に事を構えていたに違いなかった。

 ゼンキチ爺さんが言ってたな。「強くなることは、驕りとの戦い」だって。

 この機会を退屈などと言ってはいけなかった。

 先人の最高の技術を学ぶいいチャンスだったのだ。

「そんな顔するな」

 アイシャさんが僕に微笑みかけた。

「我らは強い。あの闇竜とも皆、単独でやれるほどにの」

 確かに僕たちは強い。でも、日頃の絶え間ない努力に根ざしたものではない。

 己を鍛えるという点ではピノやリオナの方が何倍も真摯で真剣だった。

「立っているステージが違うのじゃ。あの程度に躊躇していては却って問題じゃ。憧れる気持ちも分からんではないが、お前の進むべき道ではない」

 聖騎士団の別部隊が二匹目を倒した。

「何がいいかなんて僕にはさっぱり」

「どんな戦いにも学ぶことはある。だが、我らの立つべき場所は、レジーナやあの領主の傍らだ。兵隊では務まらん」

「ただの冒険者なんですけどね」

「ただの冒険者がドラゴンを倒せるものか。それより出番があるかもしれんぞ。思った以上に数がいる。いつまでもこの調子で戦えはしないぞ」

 敵も馬鹿ではない。同じ手を食らえば戦い方を変えてくる。敵も、束になってし掛けてくるだろう。ドラゴン程とは言わないが、竜も又、狡猾な生き物なのだから。

「低空から接近ッ!」

 チッタが叫んだ。

「さすがに、ワイバーンとは違うな」

 上昇も苦にしない強い羽ばたきでこちらに迫ってくる影があった。

 だが、接近する闇竜は障壁に当たった瞬間、一瞬で粉砕された。

 ロザリアのただの聖結界だ。

「これが、我らの戦い方じゃ」

 アイシャさんが胸を張る。

「ロザリア姉ちゃん、すげーな」

 ピノやピオトがはしゃいでいる。

「そんなことどうでもいいから、さっさと自分の持ち場に行きなさいよ!」

「でも戦闘に参加しないんだろ?」

「あっちがし掛けてくるんだからしょうがないでしょ! 戦闘態勢! サッサと行く!」

 ロザリアのお冠に、ピノとピオトは渋々持ち場に向かった。

 一瞬、ゾクリと悪寒がした。

 それは僕だけでなく、ここにいるすべての者が感じた。

「なんだ?」

「周囲警戒! 密にして!」

 チッタが伝声管でピノたちに伝えた。

『今、何か感じた?』

 ピオトの声だ。

「感じたわ。何かしら? 毛がピリピリする」

 チッタが答えた。

『チッタ、あの山の向こう、探れない?』

 テトの声だ。

「硫黄の匂いで分かんないよ」

 チコが即答した。

「硫黄?」

 よく見ると不自然な雲が上空に棚引いていた。

「なんだ? 火山でもあるのか?」

 僕は、あの山の向こうに何かいると確信した。

「アイシャさん、ちょっと指揮変わってください」

 僕は上空を旋回する闇竜に目を付けた。

『憑依』する。

 僕は『竜の目』を使って闇竜を捕らえると、『憑依』を試みた。

 だが、抵抗が大きかった。

 竜に憑依するにはスキルレベルがまだ低いか。

 しょうがないので、前回の千年大蛇同様、強引にこじ開けるのではなく、誘導することにした。

『あの山に向かえ!』

 僕の誘導は猛烈な恐怖心によって弾かれた。

 怯えているのか? 

 やはり、あの山に何かある……

「オクタヴィア、あれを使役できないか?」

「遠すぎる」

 駄目か。

 否、やるしかない!

 僕はオクタヴィアを抱き抱えた。

「まさか……」

 猫の目が大きく見開かれた。

「そのまさか」

 僕は転移した。

 出口は先ほど目にしていた闇竜の背中の上だ。

「ンナァアアア、あれ?」

 暴れていた猫が落下していないことに気付いて我に返った。

 僕たちはいま闇竜の背中の上に立っている。

「死にたくなきゃ、早くこいつをコントロールしろ!」

 オクタヴィアは別の意味で驚き、声を潜めながら大いに慌てまくった。

 闇竜もこちらの存在に気付いたようで、慌てて身体を捻って振り落とそうとする。

 頭に衝撃波を撃ち込んで黙らせた。脳震盪の一歩手前だ。意識を刈り取る一歩手前だ。

 ピッポピューィー。

 オクタヴィアがようやく『使役の笛』を吹いた。

「あの山に向かわせろ!」

 オクタヴィアは頷いて命令した。

 闇竜が進路を変えたことを確認すると僕たちは船の甲板に飛んだ。

 今なら『憑依』できるか。

 オクタヴィアの精神支配が効いていて憑依は叶わなかったが、視覚に潜り込むことはできた。

「やったぞ」

 僕はその場に身体を固定した。

「ちょっと探索してくる」

「分かった」

 オクタヴィアが僕の腕のなかから這い出して、肩に乗った。

 いざとなったら起こしてくれるだろう。

 憑依した闇竜はあっという間に、谷を越えた。

 そして山の稜線を越えたとき、そこに広がっていたのは驚愕の景色だった。

 まさか……

 初めて見る圧倒的な迫力に僕は戸惑った。

 大地の亀裂から真っ赤な泥が湧き出していた。冷えて表面が固まった真っ黒な溶岩も内側から赤く燃え上がっていた。高温で焼かれた黄金色の溶岩が山の谷間を氷河のように流れていた。

 まさに地獄。あらゆるものを死滅させる灼熱地獄だ。

 もしかすると奴がいるかもしれないと思ったのだが、さすがにこの景色のなかでは奴も生きてはいられまい。最悪の敵、ファイアードラゴン。

 突然、闇竜の制御が効かなくなった。

 どうやら、余りの熱波に我に返ったらしい。

 僕は、オクタヴィアがびっくりしないように声を掛けると、立ち上がってキャビンのなかに戻った。


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