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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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春の嵐(退散)16

 出席者はほぼ身内だけだった。王様とレオナルド殿下。宰相をはじめとする閣僚たちとその家族である。

 肉祭りにかこつけて、空いたポストをどうするかという話し合いの場になっていた。

 余り知りたくない掘り下げた情報が飛び交っていたので、僕は隅っこで、散会するのをヘモジと待った。ヴァレンティーナ様もなんとか自分の子飼いを押し込みたくて、宰相と一緒に奮戦している。

 ああいうやり取りを見ていると冒険者でよかったとつくづく思う。

「ナーナ」

「そうだな。こういう料理もいいよな。帰ったら試してみようか?」

 僕の懸案事項といったら肉料理の味付けぐらいだった。

「退屈なら帰っても大丈夫じゃぞ」

 目の前にいたのは爺ちゃんだった。どうやら今到着したようだ。

 傍らには欠伸したジーノさんもいた。

「政治の話はどうにも苦手で」

「ドラゴンの肉でも突かなきゃ、やってられないよな」

 そう言っていきなりグラスを飲み干すとジーノさんは参戦していった。

「アースドラゴンはどんな感じじゃった?」

「亀みたいだった。頑丈で、前脚の方が大きくて、でも尻尾は長くて」

「そうか、そうか。して、どうやって倒した?」

「アイシャさんとふたりで。正面切って戦うには相手が多すぎたから、不意打ちを――」

 爺ちゃんと話すのは好きだ。

 爺ちゃんはいつも笑顔でこっちが聞いて欲しいことを聞いてくれる。まるで子供が親に自慢話をするように、堰を切ったように自分の武勇伝を語っている。

「どれ、どんな味がするかの」

 アースドラゴンの肉の皿を取るとかぶりつく。

「か、堅いの……」

「歯ごたえあるけどいけるでしょ?」

「年寄りにはきついの。もっと柔らかくしてくれんと」

「じゃあ、あっちのローストした奴の方がいいよね」

「これ、エルネスト! わしもあっち側に行かにゃならん」

 そうだった。

 僕は自分が取ってきた肉を突いた。


「起きなさい、エルネスト。帰るわよ」

 目の前にヴァレンティーナ様がいた。

「あれ?」

「いくら退屈だからって、皿持ったまま寝ないのよ」

「ヘモジは?」

「そこに転がってるわよ」

 ワインの瓶を抱えて転がっていた。

 会場はもう人は疎らだった。使用人たちが後片付けに入っている。

「起こしてくれればいいのに」

「幸せそうに寝てるから、誰も手が出せなかったのよ」

 ヘモジが瓶のなかを覗いて、中身が残っているか調べた。そしてラッパ飲みして最後の確認。

「ナーナ」

「それは、ジュースじゃないぞ」

「ナナナ」

 気に入ったようだ。銘柄だけ確認して僕は瓶をテーブルに戻した。

 すっかりできあがった王様の代わりにレオナルド殿下と別れの挨拶をして、僕たちは退場した。


「あらぁ」

 相変わらずだな。

 まさかこのタイミングで肉祭りとは。

 ヴァレンティーナ様を館に送り届けると、僕は村を抜けて最短距離を歩いた。

「ナーナ」

「そうだな、こっちももうお開きだ」

 アースドラゴンの評価が聞きたかったのだが。

 裏口から自宅に入ると長い廊下を歩いた。

 空に月が昇っていた。

「こっちの肉祭りの方が楽しいよな」

 居間に入ると変わらぬ景色が飛び込んできた。

「なんだ、帰らなかったのか?」

 満腹の子供たちだ。コタツがなくなったので、みな毛布にくるまって転がっていた。


「うわっ!」

 部屋の前、廊下の闇のなかに名無しさんがいた。

「すっかりいいように使われてません?」

「お嬢様の護衛に任せればいいとは思うのですが、なぜかこちらに指令が来ましてね」

 僕はドアを開いた。

「どうぞ」

 部屋に消音結界を張った。

「まずは、これを」

 前回の霊水に関する契約書だ。

「ゼロが一杯ある……」

「年間金貨二百枚を五十年掛けて支払う契約です。金枝と神樹の代金を払ったら、今年の予算がなくなったそうで分割にしたいそうです」

「だから一括で払わなくてよかったのに」

「西方で騎士団が動けるようになれば、なんとかなりますよ。邪魔な北方貴族もいなくなりましたからね」

「そりゃよかった。それで、ご用件は?」

「アジ・ダハーカが南部に出現しました」

「え?」

「先日倒されたのとは別の一体かと思われます」

「どういうことでしょうか?」

「元々大型な魔物は個体数が少ない。それ故に引き付け合うものらしいですよ」

「あんなのが集まりだしたら困りますね。というか、アジ・ダハーカが複数いるとは思いませんでしたが」

「元々はただの闇竜ですよ。それが何かの拍子にキメラ化して不死性を手に入れ、凶悪化した。目撃情報からして、アジ・ダハーカではなく、闇竜だと思うのですが」

「僕たちに討伐依頼を?」

「いえ、現地に運んで貰えないかと」

「聖騎士団がやるんですか?」

「闇を狩るのは光の役目。教会にも矜持というものがありましてね。というか存在意義を示さないといけないわけでして。特に聖騎士団は西方遠征にも出られず、お預けを食らっていましたからね。信徒にも金を食うばかりの穀潰しかと、突き上げられる始末でしてね」

「名誉挽回ですか」

「失った覚えはないんですがね」

「行き先は?」

「ミコーレの南東。国境の先の未開拓地です。既に村が幾つか落とされたようですが、今は無政府状態で、教会が頼りの貧しい地域ですよ」

「余り乗れませんよ?」

「精鋭二十名では?」

「馬は無理だと思いますけど」

「フライングボードならどうですかね?」

「まさか……」

「砂漠では馬より役に立つかと思いましてね」

「抜け目ないですね」

「いろいろ参考にさせて頂いてます」

「依頼は指名で出しておいてください。明日、事務所に寄りますから」


 斯くして、再び砂漠を南下することになった。

 次から次へと厄介ごとが舞い込んでくるが、今回は単なる運搬だ。

 戦闘に参加する必要がないから、気が楽だ。

 翌朝、ギルドからの依頼を受けると、みんなを召集して、昼には出発準備を整えた。

 町の北の広場に降りて、聖騎士団精鋭二十人と補給物資を積み込んだ。


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