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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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春の嵐(ジャックポット)11

 カンプの町を素通りして、オルジェに向かった。その間、目的の馬車に遭遇することはなかった。

 オルジェの町に付いたときには日も傾きかけていた。

 恐らく敵は強行軍だ。夜を徹しての走りになるだろう。

 僕たちには二つの選択肢があった。このまま追い掛けるか、ポータルを使って先回りするかである。

 僕たちはここで、二手に分れる決定を下した。

 アイシャさんとロメオ君にはこのまま街道を北上して貰い、馬車の足止めをして貰うことにした。途中ルートを変更される可能性もあるので、その対応も兼ねての人事だ。大きな馬車だと言うから轍を見逃すことはないだろう。オクタヴィアの耳と鼻にも期待する。

 僕とリオナはオルジェのポータルを使って、かつての王都トゥーストゥルクに先回りする。今でも暫定政権の主都なのだが。

 港に先回りして、守備隊に宰相の命を伝え、運送を請け負った船を押さえさせるのだ。万が一逃がしても、ナガレをリオナが召喚すれば、海上に逃げられたとしても仕留められるという二段構えの寸法だ。


 僕とリオナはオルジェの町のポータルからトゥーストゥルクまで一気に飛んだ。

「これが港町か」

 潮の香りがした。さすがにかつての王都だけあって活気のある町だった。

 僕たちは第一師団守備隊の詰め所を門番に尋ねた。内乱の折、治安維持で回された部隊が今も居座った格好になっている。傀儡政権ができ次第撤収する手はずになっているらしい。

 言われるまま僕たちは、港の一角にある詰め所にやって来た。


「責任者を。宰相閣下の書状をお持ちした」

「これはこれは、遠路遙々」

 そう言って現れたのは、どう見ても指揮官ではない、痩せぎすな男だった。さわやかさの欠片もない、人を見下すような視線と笑みを浮かべる奴だった。

「お預かりいたします」

「失礼ながら、宰相直々のお手のものを、誰これ構わず渡すわけには参りません」

「生憎、責任者は商会の会合に出ておりましてね」

「なら、すぐ呼び戻してください。緊急の用件です」

「いいから書状を渡しな!」

「伝令風情がごちゃごちゃうるさいんだよ!」

 数人の斜に構えた兵隊にすっかり囲まれた。

 他の兵士たちは状況が分からず立ち尽くしている。あるいは見て見ぬ振りをしている。こいつらの口ぶりからするに、恐らく身分が邪魔をしてるのだろう。

「こいつがどうなってもいいのか? 奴隷のくせにいい身なりしやがってよ」

 男はリオナのリュックの肩ベルトを強引に引っ張った。リオナが痛そうな顔をした。

 僕は男の腕を刎ねた。

「うがぁあああ!」

 男はうずくまった。

「言うことを聞けッ! これは宰相閣下は元より、ガウディーノ殿下直々の命であるぞ。邪魔立てする者は、反逆者として切り捨てるッ!」

「貴様こそ、ここが第一次師団の詰め所だと知っての狼藉かッ!」

 夜盗紛いの連中がいきり立って、腰の剣を抜いた。

「師団長も副隊長もよく知ってる。お前たちこそ、これ以上邪魔立てすると、今回の首謀者同様、断頭台送りになるぞ」

 一向に態度を変える様子がない。

 こりゃ、薮を突いたかも知れない……

「どうやら、第一師団の出がらし諸君がまだ残っていたようだな。案外ここが、盗品を売りさばく窓口だったりするのかな?」

「貴様ッ!」

 見る見る顔が赤くなっていく。

 どうやら図星のようだ!

「コスタンティーニ卿以下、窃盗に関わった貴族はすべて粛正対象だッ! 勿論、事件の首謀者である王都の馬鹿息子たちも既に牢のなかだ。因みに、コスタンティーニ卿は王女暗殺未遂までやらかしてくれたからな。もはや救いようがない。現在、所領にデメトリオ殿下麾下の第一師団が粛正に向かっている」

「なんだと!」

 後ろから声がした。

 振り返ると隊長装備を着た男が立っていた。

「ここの責任者か? それとも窃盗団の仲間か?」

「窃盗団? まさか! 貴様たち……」

 どうやら、責任者殿は蚊帳の外だったようだ。

「まいったな、ばれちまったぜ」

 先ほどの男がにやけて言った。

「新しい商売、考えねーといけねーな」

「お前らの扱った商品は国王陛下への献上品だぞ。意味が分かっているのか?」

「分かってねーのはお前だよ、この糞が!」

 男が剣を向けた。

「ガキの癖に、しゃしゃり出てきやがって。ここには宰相の手紙は届かなかったし、お前らみたいなガキも来なかった」

 別の取り巻きも斬りかからんと身を乗り出した。

「ダニロッ、貴様! 何を言っているのか分かってるのか!」

「隊長殿にはいずれ、すべての責任をかぶってもらう予定だったんだがな。まあ、いい。不幸な役回りは次に赴任してくる隊長殿におっかぶせることにして、隊長殿には少々早いが人生の幕引きという奴を――」

「不愉快なガキね」

 ナガレの声だ。

「誰だッ!」

 リオナがナガレを逃走ルートを塞ぐ位置に召喚した。

「んだとぁお、このガキ。どこから出てきやがった!」

「ナーナ」

「はあぁ? なんじゃこりゃ?」

 僕もヘモジを出した。

「てめーら俺たちをおちょくってんのか!」

「もう一度言う。これは宰相閣下の命である。窃盗に荷担した者は諦めて大人しく縛に就け。もうすぐここにも第一師団の精鋭がやってくる。逃げるだけ無駄だ」

「そんなもの、やってみなきゃ、分かんねーんだよ」

「分かるのです」

 リオナが消えた。そして、自分を囲んでいた二、三人の腕を容赦なく切り落とした。

「うがかああっ」

 叫び声が詰め所の壁に反響した。

「レジーナ姉ちゃんと子供たちの敵なのです!」

「なんだ、このガキ! 恐ろしく早えェ……」

「脳味噌使いなさいよ。宰相の使いが素人の訳ないでしょ。ばっかじゃないの」

 いいぞ、ナガレ。もっと言ってやれ。

「馬鹿だから、自分の立場を客観視できないのです」

 リオナが追い打ちを掛けた。

 男たちも子供に言われちゃ立つ瀬がない。

「俺たちゃあ、上級貴族だぞ! 逆らう奴は容赦しねぇ! 後で吠え面かくなよ、このチビが!」

「後なんかないんだよ!」

 僕は『無刃剣』で周囲の取り巻き連中の腕を切り落とした。

 叫び声が上がった。

「とりあえず姉さんの敵だ」

 腕の二、三本で泣き叫ぶなよ。チンピラ貴族が。

 あっという間に地獄の様相を呈した。

「な、何をした?」

 ようやく目の前にいるガキが、ただのガキではないことに気付いたようだ。

「あの程度の動きも見えないなんて、ほんとに第一師団なのかしらね? レベル差激しくない?」

 王子や隊長みたいな化け物もいれば、酒場のゴロツキと変わらぬ奴もいる。これなら僕も入隊できたかも。

「選べ、今すぐに! 投降か、然もなくば死を!」

 馬鹿貴族の小倅共は救急キットから回復薬を取り出して、切り落とした腕を繋げるのに必死だった。人の話を聞くどころではない。

 その薬の出所を知ってるか?

 僕は詰め所に据え付けになってる救急セットを一つ残らず凍らせた。

「な、何しやがるッ!」

 腕の繋がっていない連中が叫ぶ。

 繋がった連中は馬鹿の一つ覚えのように剣の柄に手を掛ける。

「早く選べ。こっちの本命がやって来るかも知れないんだから、のんびりできないんだよ」

 小倅共はわずかな希望を耳にした。

 仲間と合流すれば助かるんじゃないかと、わずかな希望が彼らの脳裏に去来した。


 誰が、貴様たちに希望など与えるものか。


 僕は容赦なく、再生した腕を切り落とした。何も知らされず死んでいった子供たちを思えば、貴様らは死ぬことが分かっているだけ増しというものだ。

「うがぁああああッ!」

「だ、誰か、そいつらを殺せ!」

 他力本願。

「く、薬、薬をよこせッ!」

 自己中心的。

「あんたたちみたいな下衆に回復薬なんて勿体ないわ。これだけあれば充分よ」

 ナガレが一瓶だけ苦しむ連中のなかに『完全回復薬』を投げ込んだ。


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