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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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春の嵐(到着)5

遅くなりました。m(_ _)m

「白い……」

 砂漠を飛んでいたはずなのに、目覚めたら外の景色は雪景色だった。

「冬また来た?」

 オクタヴィアが床の窓を覗き込んでいた。

 僕はお茶を啜りながら、ベーコンサンドを頬張る。

 隣りの椅子ではテトが爆睡している。

 船は雪をいただいた山の稜線をひたすら北上していた。

「なんかある」

「ナーナ」

 オクタヴィアとヘモジが進行方向に何かを見つけた。

「やっとか……」

 人工の建造物を見つけた。寄せ集めの瓦礫で作った砦と言うにはお粗末な建物だった。

 山の裾野を見下ろすに、麓からここまで延々登ってくる兵士の苦労が偲ばれた。

「ここの任務は半年交替らしい」

 ガッサンが起きてきた。

 僕は伝声管で全員を起こした。

「ポーターを何十人も雇って荷物を持ち込んで、数人の兵士だけを残して下りるんだ」

「何かあったときの伝達手段は?」

「灯りだ。投光器で山の下と連絡するんだ。あとは狼煙だな」

「やはりそうなるのか」

「だが、これからは人が直接行き来することができるようになる」

 マリアベーラ様が起きてきた。

 リオナも眠い目を擦りながら起きてきた。

「下と連絡を取りたい」

「ボードならあるけど、寒いから投光器にするか? ガッサン使えるか?」

「軍人の息子だぞ」

 僕はできないぞ。

 早速、投光器を持ってきて窓から見張り台に向けて通信を試みた。

『ミコーレより物資搬入。許可されたし。ジョルジュ・ブランジェ代理、マリアベーラ・カヴァリーニ』

 建物に隠れていたのだろう、五人ほどの兵隊が屋上に飛び出して手を振り始めた。

 僕は船の高度を下げた。

 だが、吹きすさぶ風が容赦なく船体を襲った。

 現状を維持しようと制御を繰り返していると魔力ばかりが消費された。

 久しぶりに錨を下ろすことにした。

「貨物庫にいる総員は至急待避」

 伝声管で伝える。

 船底が開いて落ちられでもしたら一大事だ。風も吹き込んでくるし。

 開閉部分には物を置くのを禁止しているのでハッチが開いて落ちる物はないと思うが。

「リオナ、念のために見てきてくれ」

 リオナが出て行こうとしたら扉が開いた。

「一階には誰もいません」

 息を切らせて知らせに来たのはエミリーだった。そういや、伝声管の使い方教えてなかったな。

 一応、錨の巻き取り機の方には誰も巻き込まれないように遠巻きにロメオ君が見張りに付いているそうだ。

「錨下ろすよ」

 錨が地面に落ちると雪煙が舞い上がった。

『駄目だ引き摺られる!』

 風が強すぎて錨ごと引き摺られている。

「ロメオ君、凍らせろッ!」

 船が流されるのがようやく止まった。

 船体が悲鳴を上げた。

「浮力カット。一、四、八、一二番!」

 ゆっくりとワイヤーを巻き取りながら高度を下げて行く。


 テトが眠れず起き出して、足元の様子を見下ろした。

「バンカーの方がよかったね。あれなら地面に刺さったよ」

 バンカー? 杭のことか?

「アームのオプション。ちっちゃいバリスタ。あれでも同じことができるよ」

「そんなもんいつ積んだ?」

「棟梁から聞いてなかったの? しょうがないなぁ。魔物を捕獲するときにも使えるように、実験用に積み込んだんだよ。ほら、僕たちが流されちゃったとき、いちいち獲物を回収するのに船を降ろすの、大変だったって報告したでしょ? だから釣り上げられるように造ったんだよ。アームのなかに専用の返しの付いた矢が仕込んであるんだ。弓は畳んであるから起こして、弦をセットしてやればすぐ使えるようになるよ」

 そうか、狩った獲物の回収を飛びながらできるように…… そういやそんな話、以前したな。

 元々、そのための船底ハッチだったわけだし。

 まあ、今回はうまく言ったからよしとしよう。


 ロメオ君は巻き上げ作業を開始する。

 使われている歯車はなんと自動泡立て器を参考にしている。負荷が掛かるまでは簡単に巻き上げてくれる。負荷が掛かると出力が足りなくなるので人力を併用しなければならないが、そのときは歯車が機能してくれるので苦労はない。突然の負荷にも爪歯車が機能しているので反転して作業員が傷つくことはない。

 船が降下するタイミングに合わせてワイヤーを巻き上げれば、自動巻で充分巻き上げられるはずだ。

 現にロメオ君はハンドルを一度倒しただけで、手動で回すことはなかったようだ。

『ロック完了』

 船が軋む。山頂を通り過ぎる風は思いの外きつい。

 アイシャさんが防風壁を築いて、ようやく軋みも消えた。

『自足型転移ポータルを下ろすぞ』


 起動は専門家でなければできないのだが、取説を見たら僕にもできた。とりあえず専門家を呼び寄せて、セッティングを済ませられるように最寄りのポータルと連結する。誰これ構わず利用されては困るので、暗証コードを設定しておく。分かりやすくマリアベーラ様の名前にしておいた。僕がやったのは標準設定の初期起動までだ。後日、専門家がゲートからやって来て、続きをすればポータルの設置は完了するだろう。

 早速、魔石を使って、兵士のひとりが麓の最寄りの村に報告を兼ねて転移した。

 設置したばかりのポータルにいきなり、飛び込むのはさぞ怖かったに違いない。たぶん一番下っ端の兵士だったのだろう。マリアベーラ様が砦の責任者に「危険手当を給金に付けといてやれ」と指示していた。

 その間、他の食料物資などが運び込まれた。

 船の貨物室はこれでほぼ空になった。残っているのは僕たちがこれから消費する物資と、アンジェラさんたちの小部屋だけだ。

 しばらくすると、ポータルの技師がふたり飛んできた。

 僕は引き継ぎを済ませマリアベーラ様にいつでも出港できる旨を知らせた。


 飛空艇はすぐに飛び立った。技師の次に、いろいろ面倒な連中が来るかもしれないので、その前に消えることにした。

 アンカーも氷を溶かして無事回収した。ほんと、この船、唯一の弱点が停泊中の強風だなんてね。

 船は更に北上を続けた。

 テトは自分の寝台に向かった。ロメオ君ももう一度寝るようだ。次にふたりが目覚める頃には僕たちは目的地に着いていることだろう。

 僕たち以外は遅い朝食を取るためにキャビンに集まっている。

 フィデリオのせいで身動きの取れないヘモジたちはテトの椅子に座って、居眠りを始めた。


 遠くの尾根にどこか見覚えのある形状が現れた。

 あれは、いつもスプレコーンから東に進んだときに見えてくる雪山だった。

「あの山の向こうにあるのがエルフの隠れ里だな」

 正直ご近所さんにあまりなりたくない連中だ。

 幸い山の稜線は大きく東に切れていった。僕たちの進路は北東方面になった。

 このまま行けば第二師団の庭、最初のスノードラゴンを倒した山間部の裏手側に出ることになる。

「もっと秘境がいいんだけどな……」

 なんだか秘密基地にするにはすぐばれそうな場所だった。

 ガッサンが朝食を済ませて戻って来た。

「あれだ」

 ガッサンが僕たちに譲渡する土地の方を指差した。

 それは想定していたより南寄りで東だった。

 山間部のなかにあっても飛び切り高い山だった。

「ちょっ!」

 進行方向にワイバーンの群れ!

 ヘモジたちも飛び起きた。

 目的の山の麓に巣があった。

「こりゃあ…… まさに秘境の入口、秘密基地建造に理想的な場所だ」

 でも、ちょっと足元のあれは怖いね。

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