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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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春の嵐(待避)4

 上空を金色の鳥が通過した。

 巨大なサンダーバードだ!

 僕たちを追ってきたのは雷鳥、サンダーバードだったのだ。

「これなら問題ない」

 僕は転移した。そして直上まで来ると短銃の銃口を向けた。

「でかい図体どこかに当たる!」

 あっという間に通り過ぎる敵に僕は『魔弾』をぶち込んだ。

『魔弾』はかろうじて尾羽を撃ち抜いた。一番高値で売れる羽根だ。

「しくじった!」

 すぐさま転移をしようと虚空の一点を目標に定めた。

 するとサンダーバードは姿勢の制御ができなくなったのか、ふらつきながら高度を落とし始めた。

 稲妻が飛んできた。

 僕は結界で雷撃をかわした。

 最後の悪あがきだった。

「もう追い掛けては来られまい」

 サンダーバードが高度を下げながら離れていく。

 僕は浮力の付く高さまで降下すると、太陽を見返し、進路を変えた。

 そして転移と飛行を繰り返しながら船を探した。


 船は停泊して待っていてくれた。

 僕がサンダーバードを追いやったことに気付いたようだ。

 僕は高度を取るための最後の転移をして甲板に降り立った。

 目が眩んだ。

 急いで万能薬の小瓶を飲み干した。

 そして何食わぬ顔でキャビンに戻った。

「警戒解除。敵は排除した」

 船は再び加速し始めた。

「サンダーバードだったよ」

 キャビンにいるみんなはほっと胸を撫で下ろした。

「もっと早く仕留めればよかったです。雑魚だったのです」

「そう言うなよ。もっと強い敵だったかも知れないんだから」

「それは困るのです」

『自動航行に移行します』

「雑魚? サンダーバードだぞ?」

 ガッサンが呟いた。

「現にひとりで相手して、戻って来ておろうが」

 アイシャさんが突っ込んだ。


 やがて日も暮れ、外の風も涼しくなってきた。

 甲板で焼き肉パーティーが始まった。

 フィデリオはすっかり疲れて眠り込んでいる。

 ようやく解放されたヘモジは見捨てたオクタヴィアに猛烈に抗議していた。

 オクタヴィアはオクタヴィアで過去自分の大事な尻尾がどうなったかを語り、自分の行為の正当性を主張した。

 マリアベーラ様の威光に萎縮していた子供たちもこのときとばかりに生き返った。

「うまっ、うまっ」

「やっぱりおいしいよね。ケバブ」

「うんうん」

「野菜もちゃんと取りなさいよ」

「ドラゴンの肉持ってくるの忘れたのです」

 何、言ってやがる。その肉のせいで、こういう事態になってんじゃないか。

 ひとりぽつねんとガッサンが置いてきぼりを食らっている。

「ガッサン食ってるか?」

「ああ、空の上で食べる料理は格別だな」

「なぜか見晴らしのいい場所で食う食事はうまいんだよな」

「なあ、飛空艇っていくらぐらいするものなんだ? 俺でも買えるか?」

「ドラゴン一匹分だな」

「それっていくらだ?」

「具体的には僕にも分からないな。僕が知ってるのは肉の値段ぐらいだ」

「リオナも知ってるのです。ステーキ一枚で金貨一枚なのです」

「でも一枚じゃ足りないよな」

「美味しいから何枚でも食べれちゃうよね」

「俺、この間、九枚食べた。十枚食べようとしたら、調理してるおばちゃんに『次からは安い肉で腹膨らませてから来い』て怒られた」

 そりゃ、言われるよ、ピオト。加減ってものがあるだろ?

「チコもいっぱい食べられるよ。こないだ二枚も食べた」

「ピオトのマネしたら太るからね。木にも登れない猫族なんて恥ずかしいんだから」

「まだ登れるよ!」

「一年後は分かんないでしょ?」

「俺、生まれてこの方、ドラゴンの肉なんか食ったことないぞ。九枚ってなんだ?」

 ガッサンが言った。

「いやぁ、うちじゃリオナが定期的に肉祭りをしててさ、たまたま」

「なんで、今日、持ってこないんだよぉ!」

「いやー、積み込むの忘れちゃって」

「なんで忘れるんだよー」

「同行者がガッサンだって知らなかったんだから、しょうがないだろ?」

「ドラゴン出てこないかなぁ。食べたことがないのがいいなぁ」

 ピオトが闇夜を望みながら、何も考えずに言った。

 不吉なこと言うなよ! お前らドラゴン舐めてんだろ!

「今度、送るよ」

 ガッサンに言った。

「絶対だぞ!」と真剣に念を押された。

 僕は転移ポータルを使った直通速達便、受け取りから受け渡しまで配達人が一括でやってくれる配達サービスで帰ったらすぐ送ると誓った。


 網付きコンロに火が残ってる間に僕はロメオ君と操縦を変わった。

 自動航行システムは順調に機能していた。速度も高度も変わることなく設定通りに機能していた。

 でも、目の前に障害物が現れたとき止まってくれるわけではない。

 山岳地帯に向かっているこの船が注意すべきは、山の麓に到着する深夜までの四時間、プラスマイナス一時間、その間に現れるはずの山の峻坂だ。

 魔石の残量を確認するとほぼ満タン状態だった。ロメオ君が既に交換してくれたようだ。

 やることもないので、椅子に沈み込んで周囲の探索に意識を集中する。

 周囲に大きな脅威もなさそうだ。退屈この上ない状況だった。


 食事会が終ったようでみんなが撤収してきた。テトとロメオ君とガッサンとヘモジが戻って来た。

「みんなもう寝るみたいですけど、マリアベーラ様はどこに?」

「リオナと一緒にこっちの操縦士用のベッドを使って貰え。ガッサンは僕のベッドだ。僕はヘモジたちのベッドで寝るよ」

「ナーナ」

「俺はどこでも――」

「大した寝台じゃないよ。ゴロ寝と同じさ」

 操縦室の当直は山裾まではこのまま僕がやる。ロメオ君とテトには深夜の山間部の移動を任せることにした。


「ごめんなさいね。ベッド取ってしまって」

 マリアベーラ様とリオナがやって来た。

「いえ、お気になさらず。貴賓室の一つもあればよかったんですけど」

「いいのよ。無理に乗り込んだのはこっちなんだから」

「お先にお休みなさいなのです」

「お休み」


 操縦席には僕とヘモジだけになった。ヘモジは頑として先に寝ることを拒否した。どうやら一緒に寝たいらしい。

 僕はヘモジとカードゲームをして遊んで時間を潰した。

 やがて、目的の山影が星空を隠す形で地平線に浮かび上がってきた。

 進路を変える前にふたりに起きて貰うべく、ヘモジを寝室に向かわせた。

 ふたりが揃う頃には、船は自動航行を切って、山の斜面を上っていた。

 僕たちはガッサンが持ち込んできた地図を見ながら進路を確認すると、操縦を替わった。


 寝室では一番下の寝台でオクタヴィアが座ったまま眠っていた。どうやらヘモジの帰りを待っていたようだ。

 喧嘩していたくせに本当に仲がいい。

「ナーナ」

 ヘモジがオクタヴィアを寝かしつけた。オクタヴィアが「ニャァ」と小さく鳴いて、寝ぼけたまま毛布にくるまった。

 僕はオクタヴィアを起こさないように位置をずらすと、隙間に寝そべって毛布にくるまった。

 ヘモジが毛布の間から顔を出す。

「ナーナ」

「おやすみ」

 三人額を合わせるようにして眠った。


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