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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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エルーダ迷宮快走中(チョビ編)20

 今回、僕たちの目標は、少女、もとい、老婆の引っ越した先の村だ。ロメオ君の両親から貰った情報ではその村で僕たちは彼女と再会するらしい。

 それ以上のことは教えて貰えなかったが、元々イベント用のクエストとなると、一抹の不安は隠しきれない。わずか一チームで対応するのはそもそも無茶な話である。

 それでもクエストの行方は見ておきたいのは、人の業というものだ。

 みんな、嬉々として街道を行く。が、大きな問題が発生した。

 それは今までいなかった他の冒険者パーティーがこのフロアーには多くいることだった。勿論、その大半が魔石狙いの土蟹狩りなのだが、これはどうしたものか?

 今までのクエストは専用空間への速やかな強制転移がなされて、他のパーティーを巻き込むことはなかった。でも今回はどうなるのだろうか? イベント用のクエストとなると、下手をしたらこのままここが戦場になる可能性がある。そうなると他の冒険者を巻き込んでしまうかもしれない。

 ロメオ君の両親はそのことに言及しなかったし、僕も他の冒険者の姿を見るまでは考えもしなかった。

 ここを狩り場にしている程の冒険者が巻き込まれたからといって、どうにかなるとも思わないが、声だけでも掛けておくべきか? でもこんな時に限って、五チームもいるのである。

 どうしようかと悩んでいたら、村が見えてきてしまった。

 そして、考える間もなく僕たちは巻き込まれるのである。

「助けてーっ!」

 それは幼い子供たちの声であった。

 街道をこちらに駆けてくる子供たちは、見えないものに追い掛けられていた。

 闇蠍かと思いきや、近づくに従って、殺人蜂の群れだと分かる。

 大体の当たりを付けて僕たちは火の玉を放り込んだ。そして残った敵はすれ違い様、リオナとヘモジが処分した。

 あ、そうか。こいつら狩っても屑石だ。今気付いた。

「ありがとうございます。冒険者様」

 子供たちが口々にお礼を述べた。なんとも嬉しい瞬間である。

 が、それがイベントに突入した合図だとは思っていなかった。

「あー、猫がいる!」

「小人もいる!」

「お兄ちゃんたち、おばあちゃんの知り合いの冒険者様?」

 そう言った女の子は、二フロアー前にいたあの少女に瓜二つであった。

「違う」と言ってしまえれば苦労はないのだろうが、根が正直にできているリオナはパーティーの総意として、間髪入れずに「そうなのです!」と答えた。

「やっぱり!」

 子供たちの瞳は輝いた。

 そして……

「大変なんです! 今、村が襲われているんです。助けてください!」

 血の気が引いて行くのである。

「ロメオ君の両親、こんな話はしてなかったよね?」

「でも、こうなることは分かってたんじゃないかな、きっと」

 子供に助けてと言われて、助けない冒険者がどこにいる?

「何があったのですか?」

 ロザリアが子供たちに目線を合わせるべくしゃがみ込んで、話を聞き始めた。ヘモジもオクタヴィアも子供たちを囲んでいた。

 僕とロメオ君も、諦めて輪に交ざることにした。


 村の名は森の里と言った。森の番人、森人の里らしい。森人が何かはこの際関係ない。兎に角、老人のいる里が襲撃を受けたらしい。

 襲ったのは山の里の土蟹使いだと言う。なぜ襲ったのかは定かではないが、子供たち曰く、おばあちゃんとも因縁浅からぬ相手らしい。

 そのおばあちゃんは、土蟹を駆って村を出て行ったそうだ。

 子供たちは助けを求めて逃げ回っていたところ、殺人蜂に襲われたらしい。

「なるほど、今度はあの老女に助太刀しろということか」

 最後まで付き合うしかなさそうだ。

 ここで終えたら、先が気になってしばらく夜は眠れなくなりそうだ。

 見回すと、全員が頷いた。全員参加決定だ。

 大きな塊の大移動が始まった。

 里を四方から囲むように土蟹が押し寄せてくる。

 肝心な老婆は子供たちの言った通り、敵の土蟹使いを倒しに出ていて、姿が見えない。

「なるほど、拠点防衛戦という奴じゃな」

 本来イベント参加組が成長した蟹を盾にして里を守るのが本クエストの趣旨のようだ。

「面白くなりそうだ」

 みんなやるべきことが分かると肩の荷が一つ下りたようで、気持ちが楽になった。

「そうと決まれば」

 僕たちは里に向かって駆け出した。

 里に辿り着くと僕たちは戦闘態勢を整えた。

「チョビ召喚!」

 チョビを召喚して、村の手前の森に配した。

 僕たちは視界を確保するためにチョビの背中に乗った。

「もう少し高さが欲しかったの」

 アイシャさんがそう言うと「無理言わないでよ。これだけ高ければ充分でしょ」とナガレが言い返した。

 でも、あと少し高ければ、森の木々に腹を擦らずに移動が速やかになったのは確かだ。

 敵がどんどん増えてきて、村を覆い始めた。

 その数の余りの多さに、思わず溜め息が出た。

「さすが、イベント仕様だね」

「手加減無用じゃな」

「『使役の笛』で敵の何匹かを味方に付けよう。里の周囲を守らせるんだ」

「分かった。オクタヴィア頑張る」


 最初に接近してきた三匹ほどをロメオ君のボードに乗ったオクタヴィアが使役して戻って来た。

「使役できる時間ってどうなのかな?」

「分かんない。でも解除されたことない」

 オクタヴィアが答えた。確かに解除されたことは今までなかった。

「この距離で寝返られると困るからな」

 敵がじわじわと迫ってくる。

 早速、寝返り組の出番である。最接近する敵に二匹をぶつけた。

 ロメオ君が飛び立った。先制攻撃を仕掛ける気だ。今回もヘモジが同行する。

 僕は森を掘り返して罠を張る。どうせ、無茶苦茶になるのだから手加減無用だ。

 穴を掘り、掘り返した土で足場を兼ねた防壁を作る。でかい図体を丸ごと穴に落せなくても、移動が制限できれば、こちらは攻めやすくなる。

 里を囲うことで、まず敗北条件をなくす。ついでにこちらの視界や、移動ルートを確保する。


 ロメオ君が敵の集団に攻撃を始めた。

 ヘモジも降下して巨大化して、ミョルニルを振り回す。

「凄いな」

 とどめを刺した蟹をこちらにどんどん投げつけるヘモジ。脚を持って振り回す。魔石の回収を考えてのことだが、余りにも豪快だった。土蟹のあの巨体が空を飛ぶ。

 目撃者がいると面倒かと思って周囲を見渡すと、先の懸案は無用であることが分かった。僕たちはクエスト専門エリアに飛ばされていたのだ。

「これなら思う存分戦える」

 敵の数は益々増える。ロメオ君とヘモジのエリアの掃討は進んだが、余所の方角はまだ手付かずだ。

「あの方角は妾がまとめて殲滅する故、放置して構わん」とアイシャさんが言うので、そのなかの一角は残しておく。

「チョビ借りるわよ」

 ナガレが動き出した。防御の要を前線に投入である。

 ナガレが稲妻を落とし、痺れているところを、一回りも二回りも小さいチョビがその硬い鋏を利用して、頭を粉砕して回る。

 そして倒した敵の近くに弾丸を地面に置いていく。

「匂いが付いてるのです」

 なるほど、考えたものだ。あれなら魔石の回収も問題ない。

 ナガレとチョビのペアも順調に突き進んでいた。

 ロメオ君の班が戻って来た。さすがに疲れたようだ。

 でも敵はもう増えそうもない。

 残された敵の進行方向は二つ。内一つはアイシャさんが予約済みだ。

「どうしようかね?」

 残りの一方向をどう攻略するか考えた。遠距離で仕留めると魔石の回収が面倒になるし。刻々と時は過ぎ、敵は迫ってくる。

 あれらを倒さないと魔石の回収もままならないか。

「行くのです!」

「そうするか」

 リオナとふたりで行くことにする。

 僕はリオナと共に転移魔法を使って、敵の頭上に飛んだ。

 久しぶりに氷結烈風を最大出力でお見舞いした。

 森ごと真っ白に固まった。

「ソウルショット!」

 足元の敵の頭を撃ち抜いて、僕たちはその背中に着地した。

 足元が凍るのを防ぐために結界を敷いた。

 辺り一面氷付けになった蟹の山だ。後はゆっくりとどめを刺していけばいい。

 衝撃と突風に襲われた。

 後方で衝撃波が放たれたようだ。

 頭上から地面に押さえつけ、潰した格好だ。

 ロメオ君のボードに乗ってアイシャさんが空に浮いていた。

「へー、乗れたんだ」

 ちょっと感心した。

 木々は薙ぎ倒され、地面に大きな陥没ができあがった。が、敵は一網打尽、中身はぐしゃぐしゃだろう。魔石の養分になる分には破壊レベルは関係ない。

 僕たちは、僕ひとりを見張りに残して魔石の回収に向かった。

 そして、作業を終えると僕たちはけりを付けるべく里に入った。


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