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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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エルーダ迷宮快走中(チョビ編・ちょっと休憩)19

「お前がただでドラゴンの肉を町の住人に振る舞ってるという噂が王都まで届いて来てだな」

「肉祭りのことですか?」

「名前なんてどうでもいい。問題は、南部の田舎者がドラゴンの肉を好き放題食べているのに、こちらに回ってこないのはどういうわけだと、北部の馬鹿共が騒ぎ始めたことだ。おまけに食べているのが、自分たちが見下している獣人ばかりだと聞いて、いても立ってもいられなくなったようでな。王の下には具申、嘆願の山だ。それで『どうなっているのか調べてこい。土産も忘れるなよ』ということになったわけだ」

「そんなことで?」

「食い物の恨みを甘く見るなよ、エルネスト」

「量も量だし、そうそう横流しできるとも思えんが……」

 横流し決定ですか? 

「目撃情報すらないわけだから、奪われたのは王都に入る前だろうな」

 なるほど、それもそうか。ある程度当たりを付けてなきゃ、国の重鎮がそろってここまで来やしないよな。フットワークの軽い宰相殿は兎も角、暇なし金なしの諜報担当が来るわけがない。

「分かった。俺は第二師団の運送経路から当たろう」

 ガウディーノ殿下が膝を叩いた。

「こちらが王都に献上品を運び入れるルートはどのように?」

 宰相殿がお茶のお代わりを貰いながら、ヴァレンティーナ様に尋ねた。

「同じ経路のはずよ。アルガスから北に抜けて二股で合流してるはずだから。うちの兵隊の半分は元々第二師団上がりだし、使い慣れたルートを通っているはずよ」

「その辺の確認からだな」

 どうやら一段落ついたようだ。

 これ以上、僕の出る幕はなさそうだ。却って内緒話の邪魔かな。

「じゃ、僕はこれで」

「悪かったわね、出前のマネをさせてしまって」

「姉さんの代わりですから、お気になさらずに、では――」


 部屋を出てから気が付いた。姉さんはなぜ、とんずらしたのか? という疑問に。


 後日、ヴァレンティーナ様から聞いた話では、ガウディーノ殿下からドラゴン狩りの誘いを受けていたらしい。殿下はたまたま、異国ではぐれドラゴンを見つけたそうで、これ幸いにと、姉さんの手を借りて、飛空艇の材料を狩りたかったようだ。

 姉さんはそれが面倒だったのか、飛空艇が手に入ると分かれば、殿下が手を引くと見越していたのか、兎も角、面倒ごとを回避したのである。


 僕が門を出ると、大事なことを思い出した。

「しまった! チョビを忘れてた。いい加減、再召喚してやらないと」

 僕はナガレたちの居場所を探った。

「怒ってるだろうな、ナガレ……」

 南門のそばで狩りをしているのを見つけた。が、なんだか様子が変だ。

 僕は現場に急いだ。すると稲光が見えた。

 あれはナガレの攻撃だ! それもかなり本気の一撃だ。

 南門で同じく異常を察知したリオナとバッタリあった。

「ナガレが危ないのです!」

 そう言いながら、ナガレのカードに魔力の補充をしていた。減りようが尋常ではないらしい。

 僕たちふたりは、ナガレを肉眼で捕らえた。

 周りにいたのは、千年大蛇だった。それもかなり大きい。チョビがおつまみ程度にしか感じられない程に大きな図体だった。

 僕はチョビが食べられる前に急いで回収した。

 ヘモジがこちらを見て、慌てている。オクタヴィアは見当たらない。

 今日は別行動か? レベル上げのときこそ、あれの『使役の笛』が役に立ちそうなものだが。

 リオナが突然、態勢を翻した。

 銃弾を空に乱射した。

 頭上の枝の上、木の葉のなかに一匹隠れていたようだ。結界に衝撃が来た。

 巨大な塊が僕の後方に落ちた。

「うわ、でかっ!」

 冬眠から覚めたばかりだろうに、何食ったらそんなにでかくなる?

「殺さないで!」

 ナガレが叫んだ。

「餌にするんだから!」

 えええええ?

「まさかそのために戦ってたのか!」

「決まってるでしょ。本気出したらこんな奴ら一撃よ。それよりチョビを早く戻して!」

 僕は急いで再召喚した。

 するとなぜか僕たちの周りに日陰ができた。

 見上げるとそこには蟹が…… チョビがいた。

 巨大な鋏を盾にして、千年大蛇に挑みかかろうとしていた。

「ええー?」

 なんで、こんなに……

 僕は蛇の腹を木の枝や地面などの接地面と共に凍らせ、生きたまま拘束した。

 チョビの鋏が、千年大蛇の首を捕らえた。

 千年大蛇は命の終わりを察知して、もがきにもがいたが、凍り付いた身体では何もできなかった。

 チョビの怪力が圧倒した。

 千年大蛇も必死で最後の反抗を試みたが、チョビの頑強な甲羅の前には牙も通らなかった。

 チョビは残ったもう片方の鋏で大蛇の頭を叩きつけ、黙らせた。

「千年大蛇を絞め殺したです……」

 リオナも愕然と見上げた。

 リオナが殺し掛けた相手も、頭蓋を砕いて容易く勝利を収めた。

 チョビのレベルがまた上がったようだ。

 僕は改めて召喚し直すと、また更にでかくなっていた。レベルを調べたら、二十七まで上がっていた。

 もう地下蟹のレベルを超えていた。大きさだけなら更に倍だ。

 こりゃ、間違いなく土蟹クラスの大物になるな……

 それに、荷運び用の蟹にはもう見えない…… やる気が角張った分厚い甲羅に具現化している。鋏の先が尖ってるし。女の子なら残念賞だぞ、チョビ。

「お持ち帰りするのです」

 リオナが言った。

「皮は少し痛んだけど、お肉は新鮮だから、いい値で売れるのです」

 リオナは仕留めた二匹分の亡骸に名札を付けて、僕にすぐ近くにある解体屋に転送させた。


 僕たちはチョビの背中に乗って、すぐ近くの解体屋に向かった。

「思ったより安定してる」

「伊達に十本も脚があるわけじゃないわよ」

「大人しそうだな」

「かまととぶってんのよ」

「てことは雌なの?」

「怒るからそれ以上は言わない方が身のためよ」

 残念子ちゃんでしたか。

「格好いいのです。女重戦士なのです」

 僕が欲しいのは荷運びしてくれる運搬人だ。

「ナーナ」

「そうだな。お前の妹分だ。仲良くするといい」


 二匹で金貨百枚になった。

「あの蛇、いい値で売れるのね」

 ナガレが感動していた。

 リオナはいつぞや姉さんに聞かされたうんちくを自慢げに語って聞かせた。

 でも無傷な状態のものより四十枚も値切られた。やはり皮を傷つけたのは痛かった。

 それにしても、早々にレベル二十超えか。あと数日は掛かると思ったのにな。


 帰りにひとり、ギルドによってロメオ君に報告を入れた。

 たった一日でレベル二十を超えたことにロメオ君の両親も「どうやって育てたんだ」と驚きの声を上げた。

 出入口の柱は新しくなっていたが、壁にはチョビが足掻いた生々しい傷跡が残っていた。さすがに魔法で木材の再生はできないので、苦笑いをされつつ、黙って事務所を後にした。



 三十八階層はオルトロスがいなくなり、殺人蜂(キラービー)が登場する。

 殺人蜂一匹のレベルはたったの十だが、集団行動が原則で、十匹近い数で集団行動する。全部足すとレベル百とまではいかないが、五十程度の勢力にはなりそうだ。蜂と言えば毒だが、毒もレベルに比例して余り怖くない。ただ、繰り返し刺されるとやはりその限りではない。

 対抗手段は簡単で、ギルドのアイテム販売所で売っている『虫除け』を使えばいいのである。レベル十の昆虫型魔物を避けるには充分な代物である。

 そんなわけで、実質、闇蠍と土蟹が今回の相手である。


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