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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第三章 ユニコーン・シティー
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インターバル2

 翌日、全員一緒に例の砦があった場所に飛んだ。

 そしてヴァレンティーナ様たちは転移ゲートを、都を作る南方に運ぶため行軍を開始した。

 僕たちは姉さんとその場に残り、姉さんの指示通り周辺の探索を始めた。

 姉さんは街道整備の下地作りのために別行動である。

 僕とリオナは街道予定地の西側の森に入った。

 最近まで人間同士で争っていたせいだろうか。

 リオナの嗅覚を遺憾なく発揮しても魔物と接触することはなかった。

「なんでいないの?」

 リオナも首を傾げる。

「まさか、とんでもない魔物がいるんじゃないだろうな?」

 魔物のいない森にはよくあることだ。強力な魔物のせいで弱い魔物が寄りつかなくなることは。

「ん」

 リオナが何か感知したようだ。

「何か来る!」

 リオナは木に登り、言葉と同時に双剣銃を抜いた。僕はリオナの前に出て『完全なる断絶(偽)』の結界を這って弓を構えた。僕の銃はガタが来てしまったので新しいものを用意してもらっている最中である。

 ゴインッ!

 衝撃が結界に走った。リオナが銃口を向けた方角を僕はとっさに見た。

 巨大な蛇が僕を飲み込もうと大口を開けていた。

 どこにいたんだ?

 僕は弓を口のなかに射た。頭が突然吹っ飛んだ。

 リオナの赤い糸柄の銃が火を噴いたのだ。

「ほえーっ」

 ふたりして銃の威力のすごさに感心した。

 土色の、大木のような巨体がゴロンと地面に転がった。

 見たこともない魔物だった。

 僕は『認識』スキルを発動して遺体を確認した。

『?、レベル三十、メス』

 フェンリル級かよ。

「送る?」

 リオナが聞いてくる。

 収納鞄で転移させるにも、利用できる部位がわからないと送り損になる可能性がある。

 僕は信号弾代わりに魔法を空に向けて放った。

 適当に草木を燃やしのろしを上げながら姉の到着を待った。

「どうした? 何かあったのか?」

「あれなのです! なんだかわかるですか? でっかい蛇だったのです」

 リオナが姉さんを案内した。

「この辺りには他に魔物がいなかったからこの辺りの主だと思うんだけど?」

 僕が口を挟んだ。

千年大蛇(ミレニアムスネーク)だな。まさか森のこんな浅い所にいるとはな。新鮮な内に解体屋に送るぞ」

「へぇ? これ食えるの?」

「うまいぞ。夕飯の食材に確保しておくか?」

 そう言うと姉はうまそうな部分を回収して、僕のリュックに詰め込んだ。メモを(したた)め、投げナイフで遺体に貼り付けると、残りを解体屋に転送した。

「それにしてもよく気付いたな。こいつは森の暗殺者とも言われる魔物でな、隠密能力がやたらと高い。中堅の冒険者でも気を抜いていると食われるから気を付けろよ」

「確かに結界に触れるまで気づかなかった」

「こいつがいたんじゃ、周囲の探索は意味ないな。生態系が戻るまでわたしの手伝いでもして貰おうか」


 せっかく楽しみにしていた狩りは中止になった。僕は姉さんと一緒に土木作業。リオナは基準点の杭の上に立って哨戒任務に就いた。

「いい、見てなさい」

 姉さんが風の刃で茂みを切り刻み視界を開いていった。コンパスで方角を確認し、邪魔な木を見つけては根元を凍らせていった。あとは手で押してやれば、自重で木はメキメキと倒れていく。

「樹木の処理は後日、後続の部隊がするから気にしなくていいぞ」

 姉さんすご過ぎ。

 ちなみに僕の氷結魔法では根元を脆くするほど冷やすことはできなかった。却って表面が凍って堅くなるだけだった。

 駄目出しされた僕は姉さんの残した木の根っこを、土魔法で掘ったり、柔らかくしながら掘り返していった。

 きつい。『穴熊』二世になりそうだ。

 見晴らしのいい一本道がだいぶできた頃、汗を拭っていると、リオナが急に叫んだ。

「蛇が来るのです!」

 僕は結界を姉さんとリオナが収まる範囲まで広げて展開した。

 リオナが僕の元に駆けてくる。

 姉さんの真上に巨大な何かが覆い被さろうとしていた。

「『魔弾』ッ!」

 そうだ銃はなかったんだ!

 リオナが代わりに銃口を向けた。が、既にそれに首はなかった。

「こら、気付くの遅いぞ、ふたりとも」

 どうすりゃ、そんなに早く感知できるんだよ?

 姉さんの上に落ちてきたのは首を刎ねられた大蛇だった。

『千年大蛇、レベル三十一、オス』

「一匹いくらで売れるか知ってるか?」

「うーん、おっきいから百万ルプリ!」

 おっ、金貨十枚ですか。リオナさん奮発しますね。

 どうせ勘で言ってるんだろうけど。

 うまさによるな。蟹の脚は一本で銀貨十枚だろ。図体で五倍ぐらいだから、脚十本の五倍…… 金貨五枚。姉さんがうまいと言うんだから十枚と言ったところか。

「金貨十枚!」

 あれ? リオナの勘と一緒?

「一緒は駄目なのです」

 リオナから駄目出しがでた。

「じゃあ、五枚で」

「正解は金貨七十枚ッ! 近い方が勝ちだな」

 勘に負けた……

「やったーいっ」

 リオナが喜んで飛び跳ねている。

 どっちも不正解にしろよ。なんだよ。金貨七十枚って。

「肉だけだったらふたりともいい線だったぞ。でも収穫はそれだけじゃないだろ? 蛇革知らんのか? 血や肝も薬の材料になるぞ。ふたりとも冒険者なんだから、もっと勉強しないとな」

 怒られてしまった。

 リオナもしゅんとなった。

「さすがにもういないだろう」

 番だったのだろうな、きっと。


 姉さんが何気に周囲を見回している。

 何か探知系のスキルを使っているのか? 

「あんた『魔力探知』スキルは?」

 姉さんを気にしている僕を不審に思ったのか聞いてきた。

「持ってない」

「使えそうなのは?」

「『認識』スキルぐらい」

「何、あんたそんなの持ってんの?」

「最初に覚えた」

「のぞくなよ」

「のぞかないよ!」

 マナーぐらい知ってるよ。人によっては裸を見られるより恥ずかしいと言う人もいるんだ。まして女性相手に。敏感な人は使われたら気付くって言うし、その手の防御アクセサリーも普通に売られている。まして姉さん相手に。ばれたらどんな目に遭うか、わかったもんじゃない。

「他には?」

「ない」

「よくそれで生きてこれたな」

 悪かったね。

「明日、『魔力探知』スキルの特訓させるから。いいな。リオナには耳と鼻があるから、バランス的にも丁度いいだろ」

 午後からまたみっちり土木作業をして、夕暮れと共に僕たちは家路に就いた。


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