エルーダ迷宮快走中(オルトロス・闇蠍・土蟹編)11
全員が自分の攻め手を確認して、次の一匹に備えた。
「げっ、魔石(大)が出たよ!」
ロメオ君の手に土の魔石(大)が握られていた。
あれだけ切り刻んでもなお大サイズなのか? 障壁持ちだから魔力が高いのかも知れないな。だとしたら。
「これって特大もいけるんじゃないの?」
全員が頷いた。
意気込んでみたものの次にやって来たのはオルトロスだった。
報酬があるというのは嬉しいことである。先日の無情さに比べたら、オルトロスの襲来さえ、土蟹との再会へのステップのように思えた。
皆生き生きしていた。
オルトロスはおかげで瞬殺され、余韻すら残さず消えた。
「土蟹ってどれくらいいるのかな?」
ロメオ君が聞いてくるので探知で調べると、テリトリーなのだろう、一定間隔に一匹ずついる様子だった。マップの大きさを考えると大体二十匹程はいそうであった。
「間隔が広すぎません?」
ロザリアが地図を覗いて言った。
「ルート通りだと、会えるのは五、六匹ぐらいかな?」
「闇蠍見つけたです」
リオナとリオナの肩に乗ったオクタヴィアが同時に一方向を指差した。
僕は岩場にのぼり、反応のあった方向に銃口を向けた。
「いた!」
『一撃必殺』と『魔弾』で仕留めた。
ゴーストがいないだけで余裕の展開である。
みんなももう土蟹のことしか頭にないようだ。
最寄りの土蟹のテリトリーに入った。
図体がでかい分探し当てるのは容易だった。
ロメオ君が空から偵察するとすぐ見つかった。指し示された方角に進むと、そこに相変わらず悠然と構えた蟹がいた。
今回は部位欠損なしで討伐することが命題なので、アイシャさんに行って貰った。
アイシャさんはロメオ君の盾を使って蟹の背中に飛び乗った。
蟹はアイシャさんが飛び乗っても、気にする気配もない。悠然と森を徘徊している。
なんとなく馬車代わりというのが頷ける気がした。何かある度に動揺されては馬の代わりは務まらない。その点、この鈍臭さというか、肝の据わり方は見事だ。
奴の背中は抜群の安定感を示した。
アイシャさんが悠々と頭の辺りまで登り詰めた。
アイシャさんは腰を落として障壁を確認しているようだ。
リオナのときもそうだったが接触している足元に障壁が見えない……
明らかに反応タイプだ。
これだけ大きな身体だと常時展開は消耗が激しすぎるのだろうか?
ロメオ君とふたり、『魔獣大全』を開いた。
土蟹の障壁は常時展開タイプではなく、城壁と同じ反応タイプで、外力が働くと発動するタイプであるらしかった。本に載ってる土蟹への対処法は気付かれないように猛毒の一撃を加えろというものだった。さすがにこいつには刃も通らないので毒の入れ様もなさそうではあるが。
常時展開型とは闇蠍や火蟻女王のように生まれてこの方、無意識に障壁を作動し続けている連中のことを言う。別名、非思考タイプと言われる。
人のように自分の意思で切り替えられるタイプは思考タイプと言われる。
因みに古い都市の空の警戒網は常時展開型。結構な金食い虫だ。子供や家畜を空からさらう魔物から守るために、その手のサイズに反応するよう設計されている。
因みにスプレコーンの空の警戒網はハイブリッドである。センサーは常時展開。障壁自体は反応タイプになっている。姉さんの仕込みだが、これがまた大発明だったのだ。
姉さんは一生遊んで暮らせると思ったらしいが、僕の数々の発明と同様、機密扱いになってしまって売り上げに繋がらなかったらしい。当時、導入されたのは魔法の塔のある王都とヴィオネッティーの拠点リバタニアだけだったらしい。
理論上の話は随分昔からあったらしい。センサーと障壁のリンクにいくつか越えなければいけない課題があって、姉さんはそのハードルを越えて、ハイブリッドを実現したのである。
仕組みは元々簡単で、障壁をセンサー用とシールド用の二重構造にするというものだった。
問題はセンサーの反応に対して、どうしても障壁の展開が遅れてしまうことだった。
取りも直さず互いをどう繋ぐかっていう話である。
タイムラグの時間を補うためにセンサーとの距離を開けるとその分、今度は伝達速度が遅くなる。伝達速度を上げ、より広範囲をカバーしようとすれば、出力を上げざるを得なくなり、結果、本末転倒になる。あっちもこっちも鼬ごっこで、結局、常時展開が単純で明瞭という話に落ち着いて、今日まで使われ続けてきたのである。
姉さん曰く、解決方法はパッチワークだそうだ。
広大な空を一元管理するから時間がかかるわけで、エリアを数千、数万のブロックに分け、それを平面や、空間として処理するのではなく、一つの点として処理することで、伝達速度を大幅に短縮するのである。
構築様式が禁断のハイエルフの術式に通じるものがあって、背筋が冷たくなった。姉さんはやっぱり天才だった。
具体的にどうやったかは知らないが、結果的に従来より高速で省エネの空間障壁が完成したのだ。
アイシャさんは急所の位置を定めると甲羅に手を当て、『衝撃波』をぶち込んだ。撃ち込んだ方の甲羅は無傷だったが、腹の方が衝撃で吹き飛んだ。
「強すぎたか……」
まあ、あの程度の欠損なら大丈夫だろう。
結界が反応する暇も与えずか。というより衝撃を内部に直接叩き込んだのか?
土蟹は木々を押し倒しながら崩れ去った。
そしてワクワクタイムである。
「おおおっ! やったぁああ」
僕が『認識』スキルで変化したばかりの石を確認した。
紛れもなく『土の魔石(特大)』だった。
「出たのです…… 特大なのです! もう女王はいらないのです!」
確かにこっちの方が安全かもな。単発じゃないし。
道なりに進んでいると、ルーティーンがやって来た。オルトロスである。
「もう見てもなんとも思わなくなってきたな」
「もう百匹は仕留めたのです。苦手意識とかもって欲しいのです」
魔物がそんな意識持ってたら、狩りがしづらくて仕方がない。
最後の一匹をリオナが銃で吹き飛ばす。
リオナ…… お前オルトロスの動きに普通に付いていけてないか?
「よく当てられるよね」
ロメオ君も驚いている。
みんな必中があっても外しそうなのに。
「そろそろ家が見えてくるよ」
いよいよ少女の家か。どんな報酬が待っていることやら。
丘を越えて道を曲がると街道の先に見えてくる。
全員の足が止まる……
「嫌な予感がする」
「同感」
「でもあそこ通らないわけにはいかないよ」
「橋が架けられているのはあそこだけみたいだしな」
そこは滝から流れ落ちる渓流の側にある小さな集落だった。水車小屋のある小屋が立ち並ぶ、藁葺きの簡素な村だった。
道を塞ぐように傾斜地を横断する速い流れに、唯一架けられた石橋が町のなかを通っていた。
景色はいい場所なのだが。村は明らかに寂れていた。
「なんか出そう」
オクタヴィアも警戒して僕のリュックのなかに収まった。
情報ではその手のものは出ないはずだ。
僕たちは慎重に村に入った。
「人がいない……」
「あっちにいるのです!」
僕たちは入り組んだ坂道や階段を登って高台に向かった。
そこには探していたあの少女がいた。
お友達の宝箱は僕たちを見るとその場で動かなくなって擬態した。
「まあ、皆さん、ごきげんよう」
畑仕事をしていた彼女が手を止めて、笑顔で僕たちを迎えてくれた。
「あれ」
リオナが視線を向けた先の厩舎を見ると、馬ではなく蟹がいた!
あれは!
運搬用の土蟹だった。
「長旅でしたでしょう? どうぞこちらに。ゆっくりしていってください」
少女は僕たちを近くの自宅まで案内した。
「この度は誠にありがとうございました。これを」
全員がお茶を振る舞われ人心地付いた頃、少女はタンスの奥に仕舞い込んでいた一冊の本を取り出し、僕たちの前に差し出した。
僕は本を手に取った。
「『土蟹の飼い方』?」
それは手書きの土蟹の飼育マニュアルだった。




