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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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エルーダ迷宮快走中(人食い宝箱クエスト編)7

 洞窟を抜けるまで、宝箱あさり三回、ゴーストとの遭遇二回、闇蠍戦一回を繰り返した。

 幸いなことに回復薬は効いた。実際、完全回復薬を使うだけの価値があるのか甚だ疑問ではあったが、こちらの心的疲労は軽減できた。

 マップで確認すると、僕たちは正規ルートを大幅に外れたルートを進んでいた。正規ルートに劣らない、細いが、しっかりした裏街道ができあがっていた。

 だから薮を切り開くような面倒をする必要はなかった。ただ、お友達を見失わないように追い掛けるだけで済んだ。

 足の速いオルトロスに対し、こちらが警戒しないで済むのは有り難かった。あれの献身的な行動こそが、このマップの攻略を難しくしているのだ。

 戦は物量なのだと、つくづく思った。人員然り、魔力然りだ。鉄壁のラヴァルが敗れたのはなぜか? 孤立無援になったからだ。今更ながら思い出された。

 そういや、あのおっさんが死んでそろそろ一周忌か。縁もゆかりもないが、一輪ぐらい花を供えてやるか。身内いないんだよな。

「闇蠍!」

 警告と共に条件反射で『魔弾』をぶち込んだ。

 開いた亀裂にロメオ君が氷の槍を放り込んだ。

 奇声と共に闇の殻が消滅して、大きな骸が地面に横たわった。

 空の闇も晴れかけていた。

 ゴールが近い。


 渓流がルート状に流れていた。

「流れが速いのです。気を付けるのです」

 遠距離からオルトロスを葬った。

 敵に気を取られていると、橋から足を滑らせることになる。

 オクタヴィアとヘモジが友達を追って丸太を並べただけの橋を通過した。

「ゴールはこの橋を渡った向こうよ。そこの茂みを越えたら、きのう辿り着いた出口があるわ」

 ナガレが橋の手前で言った。

 出口への入り口は裏手にあるらしい。

 走りに走ったな…… 狩り放題とどっちが楽だったか。

 で、お友達をどうすればいいんだ? 拘束して大丈夫なのか?

 あれ?

 どこ行った?

「あーっ!」

「ナーッ!」

 オクタヴィアとヘモジの叫び声がハモった。

「どうした!」

「あ、あ、あ、あれ…… あれッ!」

 ふたりの指差すその手がぷるぷる震えていた。

「ぎゃあああ」という声を皆が一斉に上げた。

「そ、そんな…… 馬鹿な……」

 ロメオ君が膝から地面に崩れ落ちた。

 ロザリアはめまいを起こして近くの木にしがみつき、アイシャさんは仁王立ちして大きく息を吐いた。

 地平線を僕たちは呆然と見つめた。

 夜明けのオレンジ色に染め上げられたきれいな景色のなか、猫と小人が佇んでいる。

 リオナが剣を一つ地面に落としたことで皆我に返った。

「失敗した……」

 クエスト失敗である。

 目標物は川を流され、どんぶらこどんぶらこと、こちらをあざ笑うかのように水面に揺られ遠ざかって行った。

「橋越えたろ? なんでだよ」

 無駄だった。

 このクエストをやること自体意味がなかった。ただ、出口に出る別ルートを開拓しただけだった。


 よくよくマップ情報を見ると、やけに地図の縁のエリア情報ばかりが揃っていることに気付く。

 具体的なルート表記をしないのはクエストが関わる情報だからだと窓口のマリアさんは言った。「ギルドがネタバレしちゃ不味いでしょ」というのが返答だったが、このクエストの結末に限り、それは当てはまらないんじゃないかと僕は愚痴った。


 僕たちの半日はこうして無駄に終った。クエストに正しい終わりがあったのかは知らない。これが正しい結果だったのかも知れない。

 でも、その成果は小さく、汚点とも呼べる代物であった。

「明日、もう一度やるぞ」

「もう一度やるの?」

 僕の一言に、ロメオ君も聞き返してきた。

「オクタヴィアの笛を使う。今日はクエストがどんなものか、普通に検証するために、あえて見逃してきたが、明日、『使役の笛』を使ってお友達を誘導し、少女に直接引き渡す! それでもまた逃がすようならもう知らん!」

「クエストクリアー、もうしちゃってるかもよ」

 ナガレが口を挟む。

「それならそれで構わない」

「十分も掛からないのです」

「そうね、すぐ終るわ」

「そなたの気が済むなら好きにするといいじゃろ」

「頑張る!」

「ナーナ!」

 オクタヴィアもヘモジもやる気だ。

 明日、この一件を最後にもう一度チャレンジしてから、下の階に移動することを総意とした。


 地下三十七階は、ゴーストがいなくなり、土蟹(グランドクラブ)が増えて、オルトロス、闇蠍、土蟹の三態勢になる。

 情報によるとこの土蟹、遠方の国の山村などでは馬車代わりに運搬手段として用いられるほど、大人しい魔物なのだそうだ。ただ、怒らせると静める手段がないらしく、甲羅の堅さも相まって村ごと破壊されたケースも過去にはあったらしい。どこが大人しいんだか。

 怒らせる唯一の原因は子供を奪うことだ。それは自分の子供以外でも同様で、同族種の子供は軒並み危険だそうだ。

 そのせいで繁殖用以外の子蟹は見つけ次第殺されるという、本末転倒な皮肉な逆転現象が起きていた。

 遠くの話は兎も角、この国では土蟹は高値で取引される。

 蟹のなかでも肉は上級品で、贈答用に最適。甲羅も素材として需要のある、おいしい奴なのである。

 そんな奴が次のフロアーの住人であった。


 時間もあることだし、事務所に寄って、先の件も含めて情報収集を行なった。

 すると答えが返ってきた。

「残念ね。土蟹の依頼はあるのよ。でも……」

 マリアさんは二階フロアーを指差した。

 なるほど、ギルドランクが足りないわけだ。

 思えばこの事務所も大きくなったよな。最初二階なんてなかったもんな。

 不味いな…… ギルドランクが足を引っ張りだしたか…… このままだと、階層にあった依頼が何も受けられなくなる。

 ものぐさが過ぎたか。


 僕たちは緊急会議を開いて、効率のよさそうなポイント稼ぎを思案することに決めた。

 そしてクヌムの町を利用するのが一番だという結論に達した。

 魔石の交換が一番手っ取り早いと判断したのだ。

 

『依頼レベル、C。依頼品、火の魔石(大ランク)。数、一。期日、なし。場所、エルーダ迷宮洞窟。報酬依頼料、金貨四十五枚、全額後払い。依頼報告先、冒険者ギルドエルーダ出張所』


 冬も終わり、値崩れが始まり、最盛期には金貨五十枚で売れていたものが今では四十五枚にまで落ち込んでいた。それでも他の属性よりはまだ高かった。

 一番安い風か土の魔石をこちらで購入して、あちらで火の魔石に転売。こちらで依頼に掛けて売却すると……

 金貨四十枚で買って、町に行き、交換手数料を払って同額の火の魔石と交換する。

 クヌムの王子の命の恩人にされた僕たちはその交換手数料が掛からないから中抜きの計算はいらない。しかも依頼は魔石一個からだから、効率もいい取引と言えた。

 金貨五枚、丸々ボロ儲けと言いたいところだが、購入金額には当然のマージンが上乗せされているので差額を見ないといけない。依頼書の売値は変わらないので、購入金額を如何に抑えるかに掛かってくるわけだ。

 もっとも今回は儲けることではなく、回数をこなすことが目的なので、損さえしなければ構わないわけだ。

 すぐさま僕たちは商業ギルドの売り場に向かった。

 土の魔石が金貨四十一枚ちょうど。風の魔石が金貨三十九枚と銀貨五十枚で売りに出されていた。どちらも火の魔石の依頼報酬より安い。これなら問題ない。

 全員で買い取れるだけ買い取った。金額より、リュックのキャパシティーが問題になると思っていたが、ギルドの在庫は全員分のリュックを一度満たす分しか置いていなかった。

 閑古鳥が鳴いてるせいだ。いつもの半分の在庫もないそうだ。

 魔石(大)と言うからにはそれなりに大きなものだ。が、それでもリュックに二十個は収まる大きさだ。全員分のリュックに入れるために百個、風の魔石全部と、土の魔石を四十三個調達した。

 僕たちはそれをクヌムの町の外れにある交換屋に持ち込んだ。交換屋にしてみれば、等価値の石を交換するだけなので負うべきものは何もない。ただ、ただ働きさせられるだけだ。

 こちらとしては石一つに付き金貨一枚分の手数料ぐらいなら取って貰っても構わないのだが。相変わらず気のいい親父であった。

 火の魔石(大)百個と簡単に交換してくれた。因みに在庫はまだまだあるそうだ。そりゃお金として使っているのだから当然だろう。

 とりあえず、いつまでもただというのでは尻の据わりが悪い話なので、儲けたらその一割を払うことで了解して貰った。

 そして戻って僕たちは、百件分の依頼をこなした。


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