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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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エルーダ迷宮快走中(ゴースト・オルトロス・闇蠍編)4

「結界……」

 ロメオ君が言い淀んだ。

「そう言えば…… ぶつかったね」

 あの宝箱のお友達はなんだったんだろ? 

 なぜすり抜けたのか? 

 お友達が変わっていたのか、倒した人食い宝箱が間抜けだったのか? 

 明日にならなければ出ない答えは置いておいて、僕たちは道なりに進んだ。

 丘を迂回することなく、真っ直ぐ貫いてできた谷間の入り口に差し掛かった。

 大した距離でもないのに、山を削る必要があったのか? これは兆候である。

「ゴースト!」

 当てずっぽうが当たった。ゴーストの集団が現れた。

 まるで関所の人間がすべて惨殺でもされて、助けを求めて漂っているかのようだった。

 谷の麓には屋根も抜けて、戸も朽ち果てたボロボロになった掘っ立て小屋が軒を連ねていた。

 ロザリアが『ヒーリングサークル』を唱えた。

 僕たちは誘い込むためにゴーストに向かって魔法を放った。

 こちらに気付いたゴーストは、ゆらゆらとこちらに詰め寄ってくる。

 ロザリアは、ギリギリまで接近してくるのを待って、一気に障壁の範囲を広げた。

 ゴーストは一匹残らず障壁の網に掛かり、光の粒になって呆気なく消えた。

 ロザリアが万能薬を口に含んだ。

 範囲を自在に変える辺り、学習の応用が利いている。

 それにしても闇属性と戦うエリアは魔力の減りがなぜか多くて困る。


 オルトロスがまた攻撃を仕掛けてきた。

 敵の攻撃は執拗で、僕たちは段々、差し込まれつつあった。

『慣れ』は、『飽き』に変わり、今は『苦痛』になりかけていた。

 明らかに対応が後手に回るようになってきた。

 集中力の欠如、精神的疲労という奴だ。

 今回の敵群には全員が索敵に参加しなければならない。だから、代わるということができない。口では「ふたり交替しながら」と言ってはいるが、全周囲をカバーしようと思うととてもひとりに任せることはできない。人は全周囲を満遍なく注視することはできない。おまけに暗闇とくれば、バックアップは常に稼働しておかなければならない。表をかき回す速い動きと、陰に潜む静かな動き。やりにくいことこの上なかった。

 ゴーストはリオナとオクタヴィア。闇蠍は僕とアイシャさん。オルトロスは残りのメンバーが重点的に探っている。

 探知の要、リオナとオクタヴィアがゴーストに掛かり切りになっているのが、正直痛い。

 おまけに闇夜の行軍と単調だが執拗に繰り返される襲撃が、戦力の消耗に見合う形でこちらに疲労をもたらしていた。じわじわと効いてくる。未だかつてこうも積極的な歓迎を受けたことはない。

 ここに肉体的な疲労が重なっていたらどうなっていたことだろう? 万能薬がなかったら、今頃攻略を諦めて、食堂で早めのランチでも食べていたのではないだろうか。

 道なりに進めば敵に遭わないのがこれまでの迷宮の常だったが、このフロアーではまるで敵の巣のなかを進んでいるかのような確率で攻撃を受けている。

 これで報酬が多少でもあるのなら気分も高揚するのだが、何も落とさないとなると、気を紛らすどころか、落ち込む一方だ。

 完全に心理戦になってしまっている。戦力はこちらが優位なはずなのに、敵に司令官がいるなら「あっぱれ」と評するしかない。

 また遠くでオルトロスが吠えている。

「少し休もう」

 僕は周囲に落とし穴を掘った。

「夜は明けるのかな?」

 ロメオ君がマップの確認をする。

「あともう少しで森を抜けるはずだよ」

 リオナの腹時計もたぶんもうすぐ鳴るはずだ。

「これってさ、本当に普通のルートなのかな?」

 ロメオ君から出た言葉は、全員の頭のなかに浮かびつつあった素朴な疑問だった。

「確かに襲撃が多すぎます」

「他のパーティーはどうやって攻略してるのか、知りたいところね」

 ロザリアとナガレがゴールの闇を見据えて言った。

「やっぱりあの子だよな」

「クエスト進行中ということかの?」

「ゴールはあと少しだし、気合い入れてがんばろう! 明日クエストをやるにしても、転移許可は手に入れておいた方が、気が楽になるから」

「確かに、ここをもう一度攻略するのはごめんだよ」

「明日も同じかもしれんしな」

「舐めてましたわね。闇蠍さえなんとかできれば楽勝だと思っていましたのに」

「もうあと少しよ、リオナ。ラストスパートなんだから」

 ナガレが励ました。

「お腹空いたのです。エンプティーになる前に敵を殲滅するのです」


 ゴールの朝日を拝んだのは、それから三十分ほどしてから、リオナの腹時計がちょうど鳴った時刻だった。


「こんなに疲れたのは久しぶりだよ」

 ロメオ君の言う通り、皆、食堂の椅子にどっかと腰を下ろした。

 その分食事はおいしく感じられるさ。

 ナガレとリオナ以外、日替わり定食を頼んだ。ナガレは魚定食、リオナは焼肉定食大盛りだ。追加でヘモジに野菜サラダ。全員にウーヴァジュースだ。

 店の座席はほぼ全席問題なく埋まっていった。

 閑古鳥が鳴いているらしいから心配したが、とりあえず店は大丈夫なようだ。食事を滞りなく済ませると、午後は迷宮探索再開初日ということで、自由行動にしようということになった。


 ロザリアとナガレはクヌムとメルセゲルの市場にアクセサリーと春物の衣服を探しに、ロメオ君は盾の性能を試してくると言って手始めにスケルトン先生の元に向かった。

 リオナは僕の行き先がどこであれ同伴することに決めていて、僕はここ二ヶ月で少なくなった手持ちの金子を補うべく、金策に向かうことにした。

 アイシャさんは午前の分を換金すると、オクタヴィアを置いて先に帰った。今読んでいる本の続きが読みたいらしい。因みに読んでいるのは魔導書ではなく、いがみ合う二つの家柄に生まれた恋人同士がお互いの家の追っ手を振り切りながら冒険を続ける、『ロメオとジュリエッタの大冒険』というべたな恋愛冒険小説だ。

 主人公と同じ名前のロメオ君は最近、女性の視線が多くなったと言って嘆いていた。

 そんなわけで、僕はリオナとヘモジとオクタヴィアを連れて、金策である。


 店を出ると僕たちはまず地下八階に向かった。

 逆走して、七階に戻って、火蟻女王をいつもの調子で瞬殺した。

 火の魔石(特大)を回収すると、一度外に出て、二十八階のワイバーンのフロアーに向かう。

 ショートジャンプを繰り返して、巣の宝箱を開けに行く。

 いつもなら『楽園』に放り込んで終わりだが、きょうはリオナたちがいるのでリュックのなかに放り込んで、残りを修道院に転送した。

 二つ目の宝箱も難なく回収して金銀財宝を転送すると、土産にコロコロを一匹仕留めて帰る。

 これでまた突発的に肉祭りをしても、酒屋や問屋への支払いが滞ることはないだろう。

 その後全員と合流すると、久しぶりのエルーダを後にした。

 明日は休日を返上して、ある意味本番である。

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