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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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エルーダ迷宮快走中(ゴースト・オルトロス・闇蠍編)3

 僕たちは正規のルートに戻って、森のなかを進んだ。

 単発的にオルトロスの襲撃はあるが、既にルーティンになってしまって怖くはない。ゴーストはあれきりだし、本命の闇蠍ともまだ出会えていなかった。

 先行するパーティーでもいたのかと疑いたくなるほど魔物と遭遇することはなかった。勿論、いなかった保証もないのだが、こうして襲撃してくるオルトロスを故意に見逃して他だけを狩るというのも有り得ない話だ。

 轍のある小道をルート通りに攻略していると、日が沈んできて、森の半分までくる頃には辺りは真っ暗になっていた。

「まだ昼だというのにおかしな感じだな」

 現実なら野宿して夜明けを待つ所だが……


 迷宮は大概一定周期で時間が流れている。それは現実に沿ったものが大半で、冒険者によっては決めた時間に同じコースを攻略する人もいる。一方で、夜ばかりのフロアーとか、昼ばかりのフロアーも存在する。

 で、このフロアーだが、どうにも都合よく夜になったところを見ると、場所に連動しているものと考えられる。恐らく外に出て、出直してもまた同じ場所で夜を迎えることになるだろう。

 攻略するには野営などせず行軍するしかないわけだ。この辺りは永遠に夜の設定なのだろう。

 ここの魔物のスペックを考えるとえげつない演出である。

 そう。ゴーストやオルトロスが本領を発揮する時間帯であり、何より闇に紛れるあいつが徘徊するには持って来いの時間帯である。

 そして奴は来た。

「ゴーストは?」

「いない」

 オクタヴィアが答える。

「オルトロスは?」

「いないのです」

 リオナも双剣を構えて言った。

「てことはこれ全部、闇蠍か……」

 反応はざっと見て十個はある。

「急にやる気を出したようじゃな。計画通り、まず遠距離攻撃で減らせるだけ減らそうかの。闇の結界は触れただけでも状態異常じゃ。我らの装備なら大丈夫じゃろうが、お前はウロチョロするなよ。尻尾の毒は即死級じゃしの。全員万能薬を」

 オクタヴィアはご主人に脅かされて縮こまった。

 確かに一番危ないのはオクタヴィアだ。アイシャさんの抗毒の指輪を首から下げてはいるが、即死級の毒にどこまで対抗できるか分からない。最悪、お守りが守ってくれるだろうが、使わずに済むに越したことはない。

「若様と一緒にいる」

「いい選択だ」

 僕はオクタヴィアを肩に担ぎ上げると、近づいてくる毒蠍に銃口を向けた。

 そして、一番近い反応目掛けて『魔弾』を放った。

 闇夜に溶け込んでいた闇の塊に命中してそれは吹き飛んだ。

 空間の狭間から衝撃に悶える大きな蠍の姿が現れた。

 ユニコーンの森にいる奴らの倍は大きかった。冗談じゃなく、足長大蜘蛛クラスのどす黒い奴だった。

 亀裂が塞がりかけたとき、魔法が叩き込まれた。

 見事に隙間を抜けて、複眼のある頭を一撃で吹き飛ばした。

 結界は四散して亡骸だけが残った。

 さすがのコントロールはアイシャさんだ。


 夜の森が閃光で瞬いた。

 障壁が消し飛んで、こちらは悶えるどころか発狂していた。

 天敵の光だ。大きな鋏を振りながら暴れているところに、氷の槍が容赦なく突き刺さった。

 全身が凍り付いて、どす黒い外殻が霜で白くなった。

 動かなくなった頭を吹き飛ばしてこちらも勝負あった。

 ロザリアとロメオ君がハイタッチした。


 稲妻が闇を切り裂いた。強引に力業で結界を吹き飛ばしたところに銃弾が撃ち込まれた。

 ナガレとリオナだ。

「ユニコーンの天敵も大したことないわね」

 そう言いながら魔石の補充をしてる。相変わらずランニングコストを考えない奴らだ。まあ、石代はリオナ持ちだから好きにすればいいのだが。

 ヘモジが寂しそうに僕を振り返った。

「ナーナ」

「戦いたいって」

 オクタヴィアが通訳した。

「後ろを頼めるか?」

「ナァーナ!」

 ヘモジが森のなかを駆け出した。

「見えるのか?」

 ロザリアの作った光源が頭上に浮いているが、闇蠍は巧妙に姿を隠している。

 ミョルニルが振り下ろされると同時にヘモジが巨大化した。

「ナァアアァアア」

 ドオオンッ!

 心配は無用だった。

 一撃で闇の障壁を粉砕していた。そして二発目で押しつぶした。

 更に勢いのまま、振り回したミョルニルで隣の闇の塊も吹き飛ばした。

 衝撃一発でのびていた。

 そしていつものポージング。

「ヘモジだけでもよかったんじゃない?」

 ロメオ君が面白そうに笑った。

「そろそろ戻ってくるよ」

「ナーナナー」

 戻って来た。そして、巨人のまま飛び込んできた。

「んにゃぁああああ!」

 オクタヴィアが逃げた。ロメオ君も一瞬青ざめた。

 ポン! と変身して僕の腕のなかに収まった。

「ご苦労さん」

「ナーナ」

 僕はヘモジの代わりに万能薬を飲み干した。

 やはり、あの結界を物理的に打ち破るのは効率が悪かったか。二体やっただけなのにこっちの魔力を結構持って行かれた。

 ヘモジはそれきり闇蠍と戦うのを止めて、僕の肩の上に納まった。

 初めての相手と手合わせをして、力量を測りたかっただけのようだ。いざというとき役立たずにならないために。失敗で落ち込んでいても仕事は忘れない実直さはヘモジらしい。

 逃げたオクタヴィアもブツブツ言いながら戻ってきて、リュックのなかに収まった。

 闇蠍は先陣が倒されて、後ろの動きが慌ただしくなった。

 包囲網を一気に狭めて襲ってくる算段のようだ。

「オクタヴィア、笛だ!」

 ピッピ、ピッピ。

 僕が走って移動しているせいで、うまく吹けないようだった。

 すべての闇蠍に聞こえそうな位置まで移動して迎え撃つ。

 ピューイーッ。

「闇の障壁、張っている奴、敵。倒した方がいい。絶対」

 声の方は通っていないが、闇蠍は互いを襲い始めた。

「魔力が尽きるのを待ってとどめを刺す」

 魔力が尽きれば結界が消える。

 アイシャさんの作戦に皆、同意して機会を待った。

 周囲の木々が突然倒れたり、茂みが潰されたりした。時たま蠍の大きな鋏や、尻尾の針が見え隠れする。

 五匹いた闇蠍は四匹になり、三匹になり、やがて最後の大勝負となったところで二匹が尻尾の針を互いの腹に突き刺して、共倒れになった。

 毒は仲間内にも効くようだ。

 せっかくのでかい亡骸だが、売れるものは毒嚢ぐらいだった。魔石になっても闇属性では消滅して何も残らない。

「宝箱を発見する魔法が欲しいね」

「あの丘の向こうにあるね」

 ロメオ君が言った。

 僕が驚いてロメオ君を見ると、『エルーダ迷宮洞窟マップ・下巻』を掲げた。

 ああ、そういうことか。

 出現位置が固定している宝箱だ。

 岩場の陰にそれはあった。

「黒蠍十匹分の報酬は欲しいところだね」

 近づいたら、襲われた。

「うわっ!」

 完全に失念していた。結界に弾かれて人食い宝箱も僕もはじけ飛んだ。

 リュックに埋まっていたオクタヴィアが犠牲になった。

 僕は必死に転ぶのを持ちこたえたが、慌てて逃げたオクタヴィアがリュックの紐に足を絡ませて頭から地面に落ちた。

 襲いかかろうと身構えた人食い宝箱をナガレが仕留めた。

 黒焦げである。

 それでもまた宝石が手に入った。今度は黄色い石だった。

 宝箱と人食い宝箱、どちらが出現するかはランダムだ。要するにはずれである。


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