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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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エルーダ迷宮快走中(ゴースト・オルトロス・闇蠍編)2

 僕たちは地下三十六階に移動した。

 そこは典型的な迷宮構造だった。情報では森林地帯だとあったのに。

 奥に進むとやがて外の明かりが見えてきた。

 転移した部屋は森のなかにそびえる壊れた遺跡の、少し奥まった場所にあった。

「なんだか、どこかで見たことがあるような」

 それはドナテッラ様と訪れたパータバーダラの神殿遺跡と同じような建物だった。

「地下に転移ゲートがあったりして」

 僕は探知スキルを働かせて地下を調べた。

「現実と一緒のはずないか……」

 空間があったとしても探知はできない。そこに敵がいなければ。

「ゴーストがいるのです!」

 リオナは建物の外に出ると右手に曲がり、建物と切り立った崖との間の隙間を進んだ。人ひとり通れるほどの隙間を行くと、建材やらが無造作に放置された行き止まりにぶち当たった。

 元々あった反対側に続く小路は瓦礫に埋まっていた。

「あっちなのです」

 建材の瓦礫の壁の先を、その隙間から覗いた。

「いるわね」

 ロザリアが光の矢を放り込んだ。

 ゴーストはあっという間に消滅した。

「ほんと何も落とさない奴だな」

「ある意味、冒険者の天敵だよね」

 ロメオ君がにこりと笑った。

 オクタヴィアとヘモジが壁の隙間を縫って、奥の様子を確かめに行った。

 奥で突然笛の音が響いた。

「オクタヴィア?」

「ナーナ」

 ヘモジが瓦礫の隙間から顔を出して手招きする。

 僕たちは瓦礫の壁を吹き飛ばして奥に進んだ。

「オクタヴィア、無事か!」

 オクタヴィアがちょこんと座り込んでいる先でオルトロス同士が四匹戦っていた。

 銃持ちが全員で駆除しようと構えたら、何かが足元をすり抜けていった。

「……」

 一同ぽかんと口を開けて光景を見守った。

 宝箱が乱戦に参入していったのだった。

「奥に偽物いた」

「ナーナ」

 オクタヴィアとヘモジが頭を掻いていた。

「あいつ、今、結界潜って行かなかったか?」

「普通に通り過ぎましたわね」

 僕とロザリアは宝箱の姿を目で追った。

「トラップ動いてんじゃん!」

 ロメオ君が突っ込んだ。

「あれ、魔物にカウントされないの?」

 ナガレもさすがに首を捻る。

「どう見ても魔物だよね。て言うか、あいつ聞こえてるんだ」

 ロメオ君……

「いや、それより問題は結界をいとも簡単に潜り抜けたことだから!」

「あの人食い宝箱、そろそろ完勝するのです。どうするですか?」

「所詮犬の牙に宝箱は堅すぎたようじゃな」

 アイシャさんまで。

「ほら、戦う相手がいなくなってこっち来たわよ。どうするんです?」

 ガシャン!

「ナーナ」

 ヘモジが一撃で粉砕した。

「あ~あ」

 事態の解明前に片づいてしまった。

「これの属性ってなんなのかな?」

「そもそも魔石に変わるのかしらね?」

 しばらく待っても魔石はできなかった。代わりに宝石が一つ出てきた。ゴーレムと同じ仕様のようだった。魔物というより人工物ということだろうか?

「赤い宝石だ。結構高く売れそう」

 ロザリアが日にかざした。


 ケルベロスの皮は高値で売れるが、オルトロスの皮はどうか? メルセゲルの城の中庭にいた連中は回収できなくて、確か屑石になっていたはずだ。

「売れるかな?」

 ロメオ君は首を振った。

 オルトロス程度の皮の代わりは幾らでもあるそうだ。石にしても屑石…… 本当のここは地下三十六階なのだろうか? 報酬が見合わない。少なすぎる!


 人食い宝箱が元々いた部屋には本物の宝箱があった。

 火で炙ってみたがピクリとも動かなかった。それどころか焦げ臭い。

 結界を張りながら慎重に近づくと迷宮の鍵が勝手に反応してカチリと開いた。

 思わず、息を飲んだ。

 宝箱自体は小さいものの中身は金銀財宝で一杯だった。

 ワイバーンの巣ほどではないが、これはこれで一日の稼ぎとしては充分過ぎた。

 それにしてもオクタヴィアとヘモジに掃討されるとは…… 他の冒険者が知ったら泣くな。

「階段見つけた」

 オクタヴィアが鼻に埃を付けて戻ってきた。

 ほんとにあったのか?

 僕たちは埃で斑になっている黒猫に付いていくと、猫一匹がやっと通れる程の穴が空いている壁にぶち当たった。地図情報には何もないただの行き止まりだ。

 僕は壁を土魔法で崩した。

 階段が現れた。

「行くのです!」

 待てよ、僕は一歩踏み出す前に考えた。

 これって前回のパターンに似てはいないか? いきなりメインルートから外れて、完全に地図情報のない方向に進んでいる。

「このまま進んだら、クエストがあるんじゃないか?」

 全員が足をピタリと止めた。

 そして全員が嫌そうな顔を僕に向けた。

「今回は静かに攻略したいよね」

 ロメオ君が言った。

「戻りましょうか?」

「平穏が一番よね」

「宝箱あった!」

 おーい。オクタヴィア、そんなに張り切らなくてもいいぞ。

 宝箱と言われりゃ、開けないわけにはいかない。

 僕たちは宝箱の部屋に入った。ロメオ君が火で炙って確かめた。

 どうやら本物のようだ。

「うわっ」

 前回同様、いい稼ぎになった。

「でもここまでのようじゃな」

 地下はこの部屋だけだった。

 ゲートはなかったか。

 僕たちは地上に引き返した。

 明るい日差しの元に出たらいきなり人がいた。

「うわっ!」

 みんな、ドキリとした。

 なんで探知に引っかからない! 今沸いたばかりか?

 そこにいたのはチコちゃんぐらいの幼い人族の女の子だった。

「あの~、この辺に動く宝箱はいませんでしたか?」

 え?

「知りませんか?」

 知ってる…… けど……

「何か?」

「わたしの友達なんです。いつもこの辺りにいるはずなんですけど」

 うっわぁー。殺しちゃったよ。

 ヘモジが無言で地面に崩れた。

「見なかったのです! 何かあったですか?」

 リオナーッ。

「そうですか? あの、もし見つけたら捕まえてくれませんか?」

「なぜじゃ、自分で探せばよいではないか?」

 いない奴を探せとはアイシャさんもひどいな。

「実は、最近避けられてるみたいで。わたしも探してはいるんですが……」

 これってクエストだよね? いつの間にか嵌まってないか?

「見つけたら、お嬢ちゃんに届ければいいのかな?」

 少女は頷いた。

 そして最後ににっこりと笑って、僕たちの心にとどめを刺した。

 少女は僕たちが来た隙間を通ってどこかに消えた。

「馬鹿な……」

「これってクエスト受けたことになるのかな?」

「どの道、今日は無理じゃろう。倒してしまったのだからの」

「ちょっとした行き違いなのです」

 クエストに行き違いがあっていいのか? 友達出てくんの早すぎだろ。て言うか笛の音に誘われて出てくんなよぉ。

「よいではないか。今日のところは普通に攻略して、次回改めてクエストを進めれば」

 当分来なくていいわ。まず普通に攻略したい。


 僕たちは正規のルートに戻って、森のなかを進んだ。


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