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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇

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春祭り(閉会)9

「ステファノ!」

 サリーさんが駆け寄る。

「お前がやったのか?」

 戦闘の痕跡があった。ふたりの亡骸が転がっていた。ひとりは上半身がなく、残りのひとりは全身を万力で締め上げられたかのようにねじれていた。

「いえ」

 ステファノと呼ばれる追跡隊の隊長は切っ先を茂みのなかに向けた。

「奴です」

 そこにいたのは千年大蛇の亡骸だった。

「敵のふたりはこいつがやったようです」

 僕が操ってここまで連れてきた奴だ。無闇やたらと切り付けられていた。

 どうやら敵の大物にも弱点はあるようだ。それは大きな魔物だ。あの装備では千年大蛇の急所を刺すことはできない。堅く分厚い皮膚と鱗が邪魔をする。苦労した痕跡がうかがえた。

 最後は仲間の剣がとどめを刺したようだ。

「……」

 剣は死体から取ったものじゃないな。剣は死体と共にある。

「残りは逃げおおせたか?」

 奴らが進もうとしていた茂みは開かれた様子がなかった。

「切り口が鮮やかすぎる……」

 死んだふたりの持つ剣ではああは切れないはずだ。

 突然、茂みから男が現れた。

「待て! 降参だ! 助けてくれ」

 賊の一人が手を上げて茂みから出てきた。

 しまった!

 一瞬の油断だった。頭上から反応があった。

 守備隊が一斉に反応した。

「違う!」

 オクタヴィアが僕にだけ聞こえるように呟いた。

 僕の剣は頭上のアサシンではなく、投降してきた男に向けられた。

 男の威勢はアサシンに気をそらされた全員の首を一薙ぎにするかのようだった。

 とても雑兵の動きではなかった。が、鎧を着ていないことをいいことに、ただの伝令か何かだと勘違いして、僕を殺害リストの最後に回したのがいけなかった。

 僕を無視した瞬間、男の両腕は宙に舞った。

 追跡隊のステファノ隊長も投降してきた男の片足を掬い上げるように薙いだ。

 男は驚愕の表情を僕に向けながら地に伏した。

 切り落とされた両腕が地面に転がり、握られていた剣が弾けた。

 アサシンはサリーさんをはじめ、凄腕の皆さんに串刺しにされていた。

 さすが凄腕。サリーさんの直近だ。

「オクタヴィア、なんだって?」

「なんでもない」

「よく気付いたな」

 ステファノ隊長が僕たちふたりに感心した。

「こいつの服きれいすぎ」

 オクタヴィアが言った。

 四人で行動しているように見えて、ひとりだけ楽をしていた証拠だ。返り血一つ浴びてない。

追跡隊相手に戦っている間も何もせずに頭目の登場を待っていたとは考えにくい。頭目の護衛に臆病者を人選に加えるというのも考えにくい。

 そう考えて当事者のステファノ隊長を見ると、やはり木の上より、早々に降参した哀れな雑兵に気が向いていた。自分の隊を追い込んだのが木の上のアサシンだったというのに!

 別の伏兵がいる! 木の上のアサシンは凄腕かもしれないがダミーだ。

 となればおのずと答えが見えてくる。

「大蛇を切り刻んだ傷跡が物語ってました。短剣の傷跡は動揺していたし、とどめを刺したのはアサシンの剣ではなかった」

 憑依して同情したからか、蛇の亡骸の確認をおざなりに済ませなかったのが功を奏したようだ。


 サリーさんたちは完全回復薬を使って即座に切り落とした男の手足をくっつけ再生させた。

「どうせ首を刎ねるんだろうに。大した偽善だ……」

 男は脂汗を流しながら投降してきた時とは別の声で罵った。

 余罪は数知れず、手に掛けた被害者の数は三桁を超える。結果は見えていた。

「判決が出るまでは自前の手で飯を食って貰わねばならんのでな。誰もお前の介護などしたくはあるまい?」

 そう言ってサリーさんは男の指を数本へし折った。

 男は呻いた。

「どうやらうまく付いたようだな」


 拾い上げられた剣は飾り一つない簡素な物だったが材質はどう見てもミスリルだった。ミスリル特有の光沢を消すためにわざわざ表面を何かで汚していた。

「毒をすり込ん跡だ。表面がすっかり変色している。一体どれ程すり込めばこうなるのか……」

 ステファノ隊長が言った。

「こいつのおかげで全員死にかけた。若様の万能薬がなかったら今頃あの世行きだ」

 そう言って笑った。


 帰りの道すがら目の前に人影が現れた。

「もう終ったですか?」

 リオナだった。

 リュックを背負い、双剣をぶら下げ、フライングボードを小脇に抱えて現れた。

「ナーナ」

 ヘモジも一緒だった。

「迎えに来たのか?」

「敵、弱かったですか?」

 すごーく残念そうな声だ。

「みんなが強かった」

「粘りが足りないのです!」

 あからさまに肩を落とした。

 どっちの味方だよ。

 千年大蛇の亡骸を回収しにわざわざ来た道を戻ったが、既に他の貪欲な獣たちの餌食になっていた。

 さすがに獣たちの食いかけは欲しくないので放置することにした。

「獣たちも肉祭りなのです」

「ナーナ」

「冗談言ってないで帰るぞ」

「むう……」

 既に守備隊の面々は転移結晶で帰還している。

 僕も転移結晶を発動させた。


 帰還して、肉祭りに戻ると拍手喝采で出迎えられた。

「よくやったぞ」

「さすが若様だ」

「うまい酒が飲めるぜ」

「僕は何もしてませんよ」

 みんな既にできあがりの兆候を見せていた。

「今夜は屍の山だな……」


 地平線に夕日が沈む頃、春祭りの主催者がとりあえずの閉会を宣言した。

 屋台は今夜一杯開かれているので、リオナたちは最後に大いに楽しみ、大いに散財した。まるで在庫を処分するかのような勢いで、美味しいと言われた物を買い漁った。

 出店の主人たちもさぞ喜んだことだろう。これだけ稼げれば来年もまた参加してくれるに違いない。


 さて、我が家の屋台はどうなったかと言うと……

 予約だけで一万四千食。当日分が二日で約一万食の売り上げを上げた。売上高で二百四十万。材料その他を引いても二百枚近い儲けが出ていた。

 当然、そのなかに肉代もチーズ代は含まれていないが。入れたら大赤字だ。

 とりあえずこの上ない大成功と言えた。

 お手伝いさんたちには、一律、日当で金貨一枚という破格の金額が支払われた。が、満員御礼で更にもう一枚支払われた。

 アンジェラさんとドナテッラ様は考えた末、自分たちの取り分をお手伝いさんたちの給金に毛が生えた程度だけ貰い、残りの半分を心付けに、材料費の足しにと僕に支払った。

 更にその残りの半分をドナテッラ様の城の修繕費に当て、後の半分を開店資金に充てることにした。

 なんとお城を改装して、ハンバーグ屋を始めることにしたらしい。城の改修ついでに観光客の受け入れも始めるらしい。

 店長は一応ドナテッラ様だが、運営は今回参加してくれたおば様有志一同でやるようだ。経営者のひとりとしてアンジェラさんにも利益の一部が回ってくるらしい。

 爺ちゃんも反対することはなかった。むしろ監獄のように寂れていた城が明るくなると喜んでいた。

 僕が貰った売り上げの半分は結局、チーム全員からのご祝儀という形でドナテッラ様に還元された。


「そうなるとぜひ白亜の大広間の見学もして貰いたい」ということになって、長年あの場に住み着いていた七人の『十二人委員会』には営業時間内だけでも退去して貰うことになった。

 結果的に、退屈だったのだろう七人の『十二人委員会』のメンバーは、頼まれもしないのに昔語りをする横柄な案内係へと変貌を遂げた。

 世の中、何が功を奏するか分からない。

 これが、爆発的な観光の目玉になったのである。昔語りを聞くために、世界中から歴史に興味を持つ観光客が押し寄せるようになるのである。

 当然、ハンバーグ屋も盛況で、町で有数の『務めたい就職先』ランキング上位に必ず選ばれる名店になる。


 ハンバーグ屋の名は『アシャン家の食卓』。ハンバーグだけでなく、ちょっとした食事も頂ける、雰囲気のある見晴らしのいいレストランである。

「知ってるか? あの店の女主人、すげーべっぴんなんだぜ。俺はあの人を拝みたくて毎日通ってんだ。お前も行かないか? 今日辺りいそうな気がするんだ」

 別の目的で訪れるお客様も多々いるようである。

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