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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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春祭り(薪集め大会)7

 まず、桟橋と横付けされた計測船の間に全員が持ち寄った薪の束を並べていった。

 そしてそれらの上からロッタたちが作った、今も作っている簾を被せて、アイシャさんとサエキさん以外の女性陣が上からしっかり枝を織り込んで固定していく。当然片荷になるので船がどんどん傾いていくが気にしない。

 余った束を傾いたままの簾の上を歩いて奥に乗せていく。

「なんで上に被せてるんだ? 下に敷かなきゃ土台にならないだろ?」

 オクタヴィアが大きく尻尾を揺らす。答えを知ってる優越感か?

 ロッタとオズローのお母さんは作業が終ったようで、最後の簾をリオナたちに預けている。

「なるほど、梃子を使うか。考えたものだな」

 ヴァレンティーナ様がオクタヴィアの背を撫でる。

 言っている意味が分からないので、僕は黙って見ていることにする。

 オズローとサエキさんが薪を荷車で持ち帰ってくると、一斉に傾いた床面に束を並べていく。傾いているから凹みが底になり、うまく収まるので、作業が流れるように進む。

 荷が空になるとお母さんとサエキさんを残して、リオナたち残りの女性陣はオズローの押す荷車に飛び乗った。

 ふたりは凹みを埋めては枝を渡して固定し、どんどん反対側へと積み増していく。船の縁を過ぎ、床が一段敷けると二段目を。

 二段目は一番高いその縁から少し内側に並べていく。それが済んだら、新たに外側にできた段差に会わせて船の縁を越えるように、一列はめ込んでいく。

 どうやら桟橋の反対側は他のチームと同じように段差を付けて伸ばしていくようだ。と思いきやまた同じように内側に一列、できた外側の凹みにまたはめるようして一列。作業がやりづらくなったら、足元に薪を敷き詰めて高くする。兎に角外へ外へと積んでいく。

 すると桟橋側にだらりと垂れていた簾に釣られた薪の束が持ち上がる。

 作業が進むほどに簾と一体になった薪の束は迫り上がって、互いを押しへし合いながらたわんで曲線を描いていく。

 次から次へと運ばれてくる薪の束を、目を見張るような速さで積んでいく。他のチームがバランスを気にしながらやっとの思いで積み上げている横で、ほとんど投げるように薪を並べていく。注意するのは薪を繋いでいく作業だけ。基礎はしっかり積んでいるからびくともしない。

 先に縁のせり出しを仕上げてあるので船が水平に戻っても残りの積み込みに支障はない。

 ここまで考えていたのかと感心した。

 やがて船は完全に傾きを修正し、水平を取り戻した。

 歓声が沸き上がる。

 僕もその様子を食い入るように見つめていた。

 歪な形だがバランスは取れている。

 全員が戻ってきてラストスパートだ。

 だがその前に笛の音が。

 船の上にいたふたりが下船して、船底を覗き込んでいた。

 船の船尾に控えている計測係兼審判が青旗を高々と揚げていた。

 重量は既に満たされていたようだ。

 桟橋側の薪の束は地面の上に釣り上げられ、まるで鳥の翼のようなアーチを描いていた。

 そして反対側の縁は、他のチームと同様に、せり出すように積み上げられた段差になっていた。

 左右非対称。あえてバランスを崩しておく戦法は常人の発想じゃない。それにあのアーチ部分の仕掛け…… 

「あいつら……」

「あなたと一緒にいるとああいう荒唐無稽な発想ができるようになるのかしらね」

 ヴァレンティーナ様が笑った。

「空中庭園に大きな橋を架ける計画があったのだけれど、参考にさせて貰うわよ。いいものを見せて貰ったわ」

「僕はノータッチですよ」

「この町の未来は安泰ね」

「来年みんなマネしますよ」

「毎年レギュレーションを変えるのもいいかしらね。何かいい案はある?」

「もう次の話ですか?」

「『鉄は熱いうちに打て』と言うでしょ?」

「来年は、時間じゃなくて、量で勝負したらどうですか?」

「子供が不利ではないかしら?」

「うちの連中は大半が子供ですよ」

「そうね。子供には子供にしかできないことがあるわね。時間一杯、積載量勝負か。面白そうね」

「いっそ来年は大きな船でやりますか?」

「建造費をそなたが持つなら考えよう」

 芝居がかった言い方に僕たちは笑った。

「さあ、表彰式よ。行きましょうか」

 僕とナガレはヘモジたちを抱えて塔の螺旋階段を降りた。


 本年度の勝者、『エルリンチーム』のタイム、四十九分。

 二位は『守備隊男性チーム』。三位は『森の親父チーム』だった。『森の親父チーム』は我が獣人村の父親たちによって結成されたチームである。

 そして特別賞は今年から外部から参加したチームのトップに贈られることになった。『アルガス商店街主婦の会』が食い込んできた。

 賞品はほぼ去年と同様だった。ただ、時期的に火の魔石はいらなさそうなので、チーズの詰め合わせセットに変更した。

 そして、一位の景品授与が行なわれた。

 ドラゴンの肉と皮革とどちらを選択するかという緊張したシーンで、迷わず肉を選択した子供たちに観客たちから笑いが起こった。

「ほんとに肉が好きだな、あいつら」

「チームの名前を来年から『お肉大好きチーム』にしたらどうだ?」

 笑いが笑いを誘い、会は盛況のうちに終わりを告げた。


 そして、閉会式後、獣人村では『打ち上げ肉祭り』が始まった。

「結局こうなるのか?」

 姉さんが皇太子夫妻を連れてやって来て、いつもと変わらぬ大騒ぎに閉口していた。

「今回入賞したチームが挙って肉を選択して、持ち寄った結果ですから、食べなきゃ損ですよ」

「だから守備隊の連中も来ているのか」

「姉さんたちの方は終ったの?」

「ん? ああ、粗方片づいた。ちと、知りたいことがあったのでな、一部は糸を付けて泳がせているが、どこに泳いでいくのやら」

「それにしても、信じられないわね。ドラゴンの肉をこういう方法で提供するなんて」

「人族も続々と集まってくるな」

 夫妻は感心しきりだった。

「みんな何を持ってきてるんだね?」

「椅子ですね。座る場所がどうしても足りなくなりますから」

「まぁ、テーブルまで担いで……」

「こなれたものだな」

 壇上に着替えたリオナが上がった。

「みんな食べてるですかー? 今年もまたこの日がやって来たのです! 今回は『守備隊男性チーム』と『森の親父チーム』の計らいでドラゴンの肉が三倍なのです。でもお客様も三倍なのです。残念なのです」

 こら!

 笑いが起こった。

「だから心して食べるように! では、今年一年の、町の発展と豊穣を願って改めて乾杯なのです!」

「乾杯ッ!」

 地鳴りのような乾杯が行なわれた。

 鉄板の上の肉が、トングを使って次々行列に配られていく。餌を待つ犬のように皆、行儀よく並び、そしてはけていく。

 肉の焼ける匂いが漂ってきた。

「おまたせしました」

 僕たちのテーブルにも料理が運ばれてきた。夫妻の使用人たちが両手一杯に皿を抱えて戻って来た。

「こちらがドラゴンの肉だそうです。味付けはお好きなようにと言われましたが、とりあえず塩と胡椒で充分かと」

「こちらは屋台で購入した品です。味付けはバラバラですがよろしければ」

「上品なことなど言っておらずに、お前も食え。冷めるぞ」

「は、はい。ご相伴に与らせて頂きます」

 使用人たちも普段近づけない主人とお近づきになって、戸惑っているようだ。

「若様」

 チコだ。

「どした?」

「守備隊の人が襲われてる」

「大丈夫だ」

「違う。強い敵がいる。もう三人やられた」

 え?

「どこだ!」

 僕は腰を浮かした。

 チコは壁の遙か先を指し示した。

「ユニコーンが介入したから死んでない。けど、このままだと逃げられるの。ユニコーン隠れた敵見つけるのへただから」

「雑兵の集まりじゃなかったのか?」

 僕は姉さんを見た。

 姉さんの頬が赤く高揚していた。

「見つけたッ! 敵の首領だ。絶対逃がすな!」

 誰に言ってる?

「追いつけないよ?」

 チコも首を傾げる。

「姉さんは護衛があるし、僕しかいないか」

「お前が行かずとも、お前より凄腕はいる!」

「でも急がないと。後を付けるだけだから。応援を寄越してくれたら交替するよ」

 僕は心配そうなチコの頭を撫でた。

「ありがとな。チコ」

 僕は自宅経由で剣だけ持ってポータルに出た。


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