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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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春祭り(薪集め大会)6

 そして昼、メインストリートが一番の賑わいを見せるなか、『第二回薪集め大会』が始まろうとしていた。

 北門を抜け、石橋を渡った先の広場に大勢の人だかりができあがっていた。僕は城壁の上のいつものベストポジションに陣取った。ナガレとヘモジとオクタヴィアはまだあそこにいる。

「今年は観覧席も設けたのか?」

「二百席ほどね。あれだけでも随分運営費の足しになるのよ」

 振り返るとヴァレンティーナ様がいた。こんな時に珍しく剣を腰に下げていた。

「胴元の稼ぎも?」

「勿論よ」

「一割ぐらい?」

「失礼ね、五割は出してるわよ」

 利益の五割とは結構な出費だ。

「出店、盛況なようね」

「限界超えてますよ。作り置きができるとは言え、数が尋常じゃないんだから」

「ドラゴンの肉なんか使うからよ。まぁ、おいしかったけどね」

「食べたんですか?」

「ついさっき。館の使用人たちが五十食、まとめ買いしてたから一食貰ったのよ。時間がなかったから助かったわ。出店じゃなく、本格的にやったらどう?」

「そのためにドラゴン狩りなんてできませんよ。それより殿下たちは?」

 すると先ほどの観覧席を指差した。望遠鏡でよく見るとそこには殿下たちと、姉さんと警護の守備隊の面々が貼り付いていた。

「ここの方が見晴らしがいいと言ったんだけどね。いつも砂漠の檻のなかだから羽目を外したい気持ちは分かるけど」

「話し合いなんだったんですか?」

「ん? あなたたちへの報酬で悩んでたわよ。さすがにケバブの店だけでは申し訳ないって。砂漠にあなたたちが欲しがりそうな物でもあればいいのだけど」

「ミコーレって未開の地と接してましたっけ?」

「そうね、うちの南東エリアの先と接しているわね。山の向こうだから、わたしも見たことはないけど、やはり高い山脈で区切られているそうよ。好き好んで砂漠に下りてくる魔物もいないそうだから、ミコーレも見張り台を置いてあるだけだと言っていたわね。ドラゴンでさえ、あの熱砂のなかを飛ぶのを嫌がるくらいだもの。わざわざ餌の豊富な山向こうからやって来る酔狂な魔物はいないわね」

 カキン!

「ん?」

 結界に何か当たった。床に転がったのは投擲用の短剣だった。

「悪いわね」

 ヴァレンティーナ様が言った。

 城壁の階段のはずれでサリーさんたち守備隊に男が拘束されていた。

「人気を避けるために来たんでしょ?」

「領主が襲われたとなれば祭りどころではなくなってしまうでしょ?」

「何者ですか?」

「始まるわよ」

 レギュレーションの変更などの説明が終り、対戦者たちが各々、所定の位置に付き始めた。

 なるほど、計測船も荷車も去年の半分の大きさだった。

 あれでどう戦うのか、見物である。

「裏道を好んで歩くような連中よ。とりあえず自分たちの威勢を示そうという所かしらね」

「なんだ。もうちょっとましな相手かと思ったのに」

「暗殺者集団のようなプロとは違うわ。アンジェラたちの店を狙ったのも案外そいつらかしらね。ただのならず者の集まりだけど、町のためにはならないわね」

「領主を襲った段階で駄目でしょ?」

「アルガス辺りに巣があるらしいんだけど。あそこの先代は何もしなかったからね」

「フェデリコ君も大変だ」

「その彼が頑張って追い出しにかかってるから、流れてきたのよ」

「協力要請でも来ました?」

「迷惑を掛けると言ってきたわよ。あの子もいい子よね」

「そういうことか。フェデリコ君のためなら、こっちも一肌脱ぐかな」

「やらなくていいわよ。こっちでするから」

「そうですか?」

「わたしが売られた喧嘩を誰かに譲ると思う?」

 そう言って短剣を拾い上げた。刃先が日の光を浴びて七色に光っていた。

「冗談じゃすまないですね」

「毒は不味いわね」

 守衛がやって来てヴァレンティーナ様から証拠品を受け取った。

 サリーさんは領主と目配せをすると捕まえた男を追って詰め所に降りて行った。

「とりあえず手っ取り早く話を聞こうと思ったのよ。言い逃れできないように現行犯逮捕でね」

「無茶しないでくださいよ」

「あなたがここにいることも想定内よ」

「だと思った」

「ドナテッラはどうしてる?」

「知ってるんでしょ?」

「あなたの意見を聞かせて頂戴」

「肩の荷が下りたみたいですよ。どこか張り詰めた感じがする人でしたけど、やり遂げた感一杯で、少し明るくなったかも」

「そう?」

「…… 寂しそうかな」

 人生を賭してのぞんで、死に損なって。振り返ってみたら、何も残っていなかった。そんな寂しさが漂っていた。だからアンジェラさんも今回の出店に誘ったのかも知れない。

「今回は不問に付すことになるわ」

「いいんですか?」

「アシャンが、責任を取って辞めると言い出してね。父と兄からクレームが入ったのよ。『実害がなかったのなら不問にせよ』ですって」

「それはそれで酷い話ですね? ヴァレンティーナ様はそれでいいんですか?」

「自己責任、自分の至らなさが原因だと思って黙って反省することにするわ。王女だからと言って魔物は道を避けてはくれないものね」

 試合は混戦模様を呈していた。昨年の入賞チームも満足に実力を発揮できずに接戦を演じていた。

「僕は楽しかったですよ。一緒に旅ができて」

「只無罪にはできないから、彼女には一応『災害認定』相当の罰が与えられるわよ」

「え?」

「行動に制限が掛かるけど、執行猶予が付いて事実上お咎めなし。でいいわよね?」

「寛大な処置、痛み入ります。で、姉さんは?」

「忘れてるみたいだから、ほっときましょう」

 振り向けばナガレが、オクタヴィアとヘモジを抱えてこちらの様子を伺っていた。

「もういいかしら?」

「ごめんなさいね。もう済んだわよ」

 ヴァレンティーナ様が僕の右側に移動した。

 ナガレが僕の左横に来るとヘモジは僕の肩に、オクタヴィアは狭間に飛び乗った。そうしてヴァレンティーナ様に軽い会釈をした。


 我が『エルリンチーム』は、ロッタとオズローの母が、調達してきた蔓草で編み物をしていた。長めの比較的真っ直ぐな枝同士を縛って長い簾を作っていた。

 リオナたちは他のチームが計画的に荷を積み上げているのと違い、荷をほどいて船倉に薪を敷き詰めていた。

「何やってるのかしらね?」

 順位はまだ横一線だった。今年も荷車一杯に積んではいるが、去年ほどのアドバンテージはスピード的にも量的にも余りなかった。

『エルリンチーム』は『守備隊男性チーム』と『中央広場主婦の会』に挟まれていた。『中央広場主婦の会』とは昨年の『中央広場美女軍団チーム』のことである。クレームがあったのか名前を変えてのエントリーである。

 早速二つのチームは荷造りした薪を積み上げるのに躊躇し始めた。明らかに前回大会では見られなかった行動であった。終盤ならいざ知らず、序盤から慎重になっていた。

 予選を通過してきたチームでさえこうなのだから、今回は厳し過ぎたようである。

 普通に積み上げたのでは、勿論目標の重さには達しないことは告知した通りであるが、問題はその程度である。

 周囲のチームが一気にスピードダウンした。

 彼らのチームは薪を束ねたまま、少しずつずらして逆三角形を作るように積み上げていく手法を取っていた。そのために束の厚みを薄くするチームも現れた。どのチームもある程度の床面積を確保できたら、一気に垂直に積み上げる算段のようだった。

 今年も参加した『森の王様子供チーム』は子供らしい型にはまらない方法を取った。

 薪を『エルリンチーム』のように船倉に敷き詰めて、同時に船倉の壁の傾斜に沿って薪を突き刺し始めたのだ。そうしてできた窪んだ空間にまた薪を入れ始めた。そうすることでこちらも床面積を稼ぎ出す公算なのである。

 だが、如何せんどれも重心が高くなってバランスが悪かった。

 だから荷積み作業も難しくなった。慎重になって、時間ばかりかかるようになるのである。

 それでも予選を通過してきたチームである。なんとか順調に積載を続けていた。

 身長の足りなくなったチームは薪の束を足場にして、薪を更に高い場所に持ち上げていた。

 そんななかリオナたちだけは異常な行動を取った。なんと、はなからバランスを無視しながら荷積みを始めたのである。それもおかしな方法で。


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