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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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春祭り(レース日和)5

「そういや今日の褒美はどうなってる?」

 近くにいた獣人の少年に尋ねた。

「いつもと同じだよ」

「そうなの?」

「うん。しみったれてるよね。お祭りなんだから奮発すればいいのにさ」

「管理してるの長老だろ? 実行委員会じゃないよな?」

「庭ができてからユニコーンたちの食欲が半端ないんだって。爺ちゃんたちが言ってた」

 そうか、食料の需要が増えていたのか…… そりゃそうだな、走り回れば腹減るもんな。早急に対策を考えないといけないな。

 次々、第三走者がゴールする。

 蹄がラインを越えるや否や、入れ替わりに最終走者が飛び出して行く。生まれ持った動体視力と反射神経の良さが的確な一歩を踏み出させた。

 残された『日向』は闘志を秘めて、仲間の姿を見据える。

 そういう報告は遠慮しないで上げてほしいんだけどな。誰が悪いってもんじゃないんだし。

「ようし、じゃあ、今日は奮発してやるか」

『ほんと?』

 え?

『日向』と目が合った。走者で唯一残っている『日向』だけが僕の独り言を聞いていた。

 その目はうれしさでまん丸に見開かれていた。

 そんな目をされたら、冗談にできないんですけど……

「勝ったらな」

『頑張る!』

 あらぁ、なんか火付けちゃったかも。

『日向』が珍しく後ろ足で地面を蹴った。

 うわっ、やる気満々だ。

 第三走者が風のように僕の前を横切った。

 次の瞬間『日向』はもういなかった。遙か彼方にいた。

「はえーっ」

 近くにいた子供たちも舌を巻いている。て言うか、最終ゴールはあっちか? 

 人波が一斉に最終ゴール地点に移動を開始した。

 僕も遅れまいと早足で歩き始める。

 大歓声が遙か遠くで上がった。

「もうゴールしたのか?」

 一頭のユニコーンがこちらにやってくる。

 なんと『日向』だった。

 僕を見つけると一直線に飛んできた。

「どう――」

『勝った!』

 尋ねる前に答えが返ってきた。

『何くれるの?』

 ほんとに? あの劣勢を挽回したのか? 

「何がいい? チームで勝ったんだから、みんなで決めな」

 どんな末脚してるんだか。

『相談してくるっ!』

 また消えた。


 しばらくしてチームメイトの三頭を引き連れて戻って来た。

『なんでもいいの?』

 一歳児の女の子が擦り寄ってきた。

「僕にできることならね」

 僕は頭を撫でてやった。

『これって反則にならない?』

 二歳児が三歳児に尋ねた。

「今日参加したみんなにもご褒美あげれば構わないだろ?」

『ポポラの実、最近品薄なんだよね』

 三歳児が頭を撫でて欲そうに頭を柵の外に出してきたので、僕は柵に足を掛けて一段上って頭を掻いてやる。

『値上がりしてるんだって。リオナが教えてくれた』

『最近パタータ多いよね。嫌いじゃないけどさ。お得感ないのよね』

 女の子同士で頷き合う。

「里でもポポラの実を育ててるんだろ?」

『あれは大人たちの分だよ』

『ずるいんだよ。自分たちだけ好きに育ててさ。毎日採れ立てだよ』

 三歳児が不平を漏らした。

『僕たちだって自分で育てたいのにさ』

『子供は成長期だから、木に力をあげちゃいけないんだよ。自分が育たなくなっちゃうから』

 二歳児が三歳児を諭した。

「全員で一本ぐらいは駄目なのかな?」

『こら、表彰式があるのにこんなとこで何してるの! サッサと行きなさい!』

 大人の付き添い当番がやって来た。

『そうだった!』

『忘れてた!』

『急げ!』

 一斉に駆け出していった。

『四頭で一本の苗木程度でしたらいいかもしれません。やり過ぎに注意しないといけませんが』

 そう言って大人のユニコーンも後を追った。

「景品は苗木にしろってことか」

 それもいいかもな。みんなで育てれば楽しいだろう。ただ、やり過ぎは身体に毒のようだからルールは徹底させないといけないな。


 表彰式会場は盛況だった。

 リオナが表彰台の前で『日向』と喜びを分かち合っていた。

 僕は長老の姿を見つけると、褒美の件で口を挟んだ。

 今回の報酬を僕持ちで奮発することを伝えた。うちの保管庫にある備蓄を提供しよう。それと苗木の件も話しておいた。

 優勝賞品授与の段になって、目録でだがポポラの苗木の授与が行なわれると、ユニコーンの子供たちの間で驚きが巻き起こった。

「お前、今度は何をした?」

「ん?」

 胴元が現れた。

「何って?」

「あの『日向』の走りはなんだ!」

「なんだって言われても、あれがユニコーンの素の走りだよ」

「なわけあるか!」

 姉さんが言った。

「いや、『草風』もあれくらい速く走るけど? 姉さん昔ユニコーンと一緒だったんだろ? なんで知らないんだよ?」

「知らなかった……」

 珍しく凹んだ。

「ありゃ、『神歩』じゃよ」

 長老のホッケ婆ちゃんが言った。

「『神歩』?」

「あの歳でできるもんは少ないけんど、角が生えれば、みなできるようになるぞ。あやつらにとっちゃ、この森の端から端までだって日帰りコースじゃからの」

 実際は障害物があるからなかなかそうはいかないけどね。それでも恐ろしく速いのは間違いない。彼らの行動半径は人の想像を容易く超えるのだ。

「で、報酬はあれでよかったのかの?」

「いいんじゃないですか、無茶をさせなきゃ。木を育てる練習にもなるでしょ」


 ユニコーンの庭に一本のポポラの苗木が植えられた。

 その苗木は周囲の木々とは明らかに違う速度で成長していくことになる。

 最初は四人で持ち回りをしていたが、いつの間にか子供たちが好きなときに少しずつ力を注ぐようになる。「少しずつみんなで」を実践していたので健康被害もなかったと言う。

『お願いするのは三日一回。お願いはし過ぎないこと。木が嫌と言ったら止めること』等々、木の周りに看板が立てられたが、ユニコーンに看板の文字が読めるかは不明。

 さしたる問題もなく日々は過ぎ、やがて僕たちは人類史上最大、誰も見たことのない巨木に育ったポポラの木を見ることになる。

 そして夏場にはいい日陰を提供してくれることになるのだ。

 巨木と真っ白なユニコーンのコントラストがアールハイト王国の絶景スポットにも数えられるようになり、この町の観光にも大きく貢献することになる。

 この年の秋、僕たちはユニコーンの力の一端を覗くことになるのだが、それはまだ先の話である。


「配当は…… 万馬券?」

 馬と言うのはタブーだが、他に言いようがないので万馬券だ。僕の賭けた金貨一枚が百枚になって帰ってきた。

 他に大本命もいたし、いくら妹ちゃんが速いと言っても、やはり一歳馬二頭の組はあまり買わなかったらしい。儲けたのは子供たちと日頃縁のある連中だけだったようである。リオナも勝利にあやかれて喜んでいた。


 周回コースでは『草風』のレースが行なわれたが、こちらは本命ガチガチのレースになった。

『日向』との兄妹繋がりで賭けた連中も大勢いたが、こちらは日頃の序列通り、『草風』が圧勝した。

『俺にも豪華賞品をよこせ』と言うので「新品の鞍をやろうか?」と言ったら思いっきり頭をかじられた。冗談だって言うのに。

 僕は優勝賞品として周回コースにすり鉢状の傾斜、バンク? を付ける約束をした。これでユニコーンたちは更に速く、いつまでも馬車馬のように走れるようになるわけだ。


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