春祭り(前夜祭)1
前夜祭は昼間と違って大人しめで始まった。
中央広場に築かれた焚き火を囲んで演奏会が催され、集まった人々は音楽を聴きながら、酒を食らい、談笑を楽しんでいた。広場の周りでは早々に屋台を出す所も現れた。
僕たちは広場の隅の冒険者ギルドの敷地に集まり、みんなの分も含めて立方体の砂を固めただけの椅子を出して火に当たっていた。
さすがにまだ夜は寒い。
前夜祭は執行部の主催だったが特に何も行なわれず、明日の注意点の確認や奮闘を誓い合っただけで終った。後は無礼講で、酒樽が差し入れされただけである。料理は自前で用意しろということらしい。
僕たちはロメオ君のお母さんが出してくれた豆料理のお相伴に与っていた。
うむ、家庭料理だ。お年寄りがいるから少し味薄めかな。
リオナたちは早速おっさんの屋台で腸詰めを大量購入して戻って来た。
オクタヴィアはホタテの大量買い。
ヘモジは豆料理が気に入ったようで料理のレシピをお母さんから貰ってきた。
それを僕に渡してどうしろと? 直接アンジェラさんかエミリーに渡せ。
さすがに魚料理は店先に並ばなかった。魚が食いたきゃ、その手の料理屋に行けと言うことのようだ。ナガレは仕方ないのでオクタヴィアのホタテの紐を食べていた。
我が家は今頃、ラストスパートに入っている頃だった。
仕込み大変そうだなぁ。結局エミリーとロッタは臨時のバイトとして採用されていた。ロザリアとアイシャさんも捕まったが、アイシャさんは魔法で何かしようとしたので追い出された。今は書庫に閉じ籠もっているか寝ていることだろう。
僕もリオナも帰れば、朝から働き尽くめで神経のおかしくなった大人ふたりに、拉致られるので帰るに帰れない。
我が家の保管庫に七千食も入るのかな?
どっちにしても我が家はハンバーグ&チーズサンドの匂いで一杯だろう。
案外子供たちが匂いに釣られて……
「拉致られろ!」
「なんの話ですか?」
「いや、こっちの話。子供たちはもう休んだのかな?」
「明日の戦いに備えてとっくに寝てるのです」
なんだ、つまらん。
「明日、大丈夫なのか?」
「接戦になるのです」
なんだ分かってんのか。
「緻密な計算がいるのです」
串から肉を引き抜いた。
「双六で鍛えた頭脳で頑張れ」
「今年は勝てる予感がしないのです。他のチームと違ってうちのチームはメンタルに問題ありなのです。ストイックさに欠けるのです」
「そんな大層なことか?」
「うちのチームは普段からドラゴンの肉を食べて贅沢になってるのです。軟弱になってるのです。他のチームのドラゴンの肉に賭ける思いとは雲泥の差なのです!」
「だったら、試合に負けたら当分ドラゴンの肉はなしな」
「ええええーっ」
「がんばれ、リオナッ!」
「エマージェンシーなのですッ! 緊急非常召集なのです」
口だけで動く気配がない。クスクス笑っている。
「本気にしてないな」
「エルリンは自分が気前のいい人間だと気付くべきなのです。大丈夫、負けないのです。予選さえ通れば、本番はいかさま上等なのです!」
「ロメオ君、なんか言ってるぞ」
「大丈夫、いかさまじゃないから。ただ、奇想天外な方法だよ。来年のレギュレーションに影響を与えることにはなると思うけど」
何もそんなギリギリを狙わなくてもいいのに。
「だから一度きりなのです。予選は実力で通過しないといけないのです」
両方とも実力使え。
「今年は何をしでかすか、楽しみね」
ロメオ君のお母さんがナガレのためにスルメを焼いてくれた。どうやらおっさんたちの酒の肴のついでのようだが。ナガレは喜んだ。
夜も更けてくると、音楽は止み、家々の窓は閉まり、明かりも消えていった。
「じゃ、僕たちもそろそろ」
リオナもオクタヴィアもヘモジも既にうとうとしている。
「碌なお構いもできませんで」
お母さんがお皿を下げに来た。
「気にすんな。冒険者なんぞ、落ちてるもんだってなんだって食うんだから。ガハハッ」
冒険者は犬かよ。
おっさんが千鳥足で事務所のなかに戻っていく。
つまずけ、アイアンクロー親父!
僕は冗談で念じた。
すると大きな物音がした。
入り口の階段でおっさんがスネをぶつけてうずくまった。
「ちょっと、大丈夫?」
お母さんが駆け寄る。
どうやらつまずかずに階段を踏み外したようだ。
一瞬『憑依』が効いたのかと思った。単純な人間や酩酊した人には効くのかもと一瞬考えてしまった。
「まただよ。もう外から酔って帰ると必ずあの段を踏み外すんだよ」
ロメオ君も呆れ顔だ。
「たぶん見えてないんだよ。明かりの位置を変えるとか、その段だけ目立つ色に色分けするとかしたらいいんじゃないかな?」
「酔っ払うほど飲まなきゃいいのよ。それにここでつまずいて、我に返って貰わないと、我が家には更に長い階段があるんだから」
なるほど、お母さんのいうことにも一理ある。
僕たちはロメオ君にお休みを言うと、僕はオクタヴィアとヘモジを肩に乗せて、ナガレはリオナの手を引いて帰路に就いた。




