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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第二章 カレイドスコープ
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鉄壁のラヴァル4

 僕は殿下の横に立った。

「僕のせいですよね。余計な情報持ってきたから」

 殿下が驚いた顔で僕を見る。


 くそぉ、自分もヴィオネッティーだと思い知らされる。むちゃくちゃな兄たちとこれじゃ一緒じゃないか!

 僕は銃の弾倉を地面に捨てた。薬室のなかにあった一発も銃を逆さにして振り落とした。

「何を……」

 殿下が僕の行動をいぶかしみながら見ていた。

 僕は薬室の蓋を閉じると銃口をラヴァルに向けた。

 そして、薬室に実弾を思い浮かべた。ライフリングを刻むだろう流線形の弾頭、本来必要のない薬莢部分。排莢のために爪がかかる薬莢の底についた溝。

 ありったけの魔素を放り込んでやる!

 僕の怒りを、全力の一撃を!



 目一杯詰め込んだ一発を僕は放った。

 実弾のときとは比べものにならない衝撃が僕の利き腕を襲った。

 と同時に、ラヴァルの『完全なる断絶』は打ち砕かれた。

 障壁は衝撃と共に大きく抉られていた。そしてラヴァルを大きく後退させ、膝を付かせた。

 ラヴァルは何が起きたのかわかっていない様子だった。

 僕は次弾を装填すると静かに構えた。

 ラヴァルは吠えた。落としたハルバートを拾い上げると大きく振り回して構えなおし、そして、より強固な障壁を自分の周りに展開した。

 落雷が再び頭上に落ちた。

 ばたばたと後続が倒れていった。ラヴァルの目は今まで以上に血走り、どこから攻撃が来たのか見定めようと必死に射手を探した。

 僕は容赦なく二発目を放った。

 可視化できるほど強化された『完全なる断絶』が今度もまた大きく抉られた。


 完全なる障壁こと、ユニークスキル『完全なる断絶』もまた、魔法によって形成されたひとつの現象に過ぎない。ならば、干渉することはできると『牢獄』のなかで僕は学んだ。どんなに強固な障壁もそれが魔法によって発現しているモノならば、同じ根源なる力で干渉が可能なのだ。

 要はテリトリーの奪い合いだ。

 障壁を突破するというのは相手の想念が支配する領域を奪い、自分のものにするということだ。

 ネタがわかっている手品に驚く価値はいない。

 続けざまに僕は『魔弾』を放つ。

『完全なる断絶』が魔法により具現化した現象に過ぎないのなら、恐れることはない。魔法には魔力が欠かせず、魔力には魔素が必要だ。そして僕は魔素を操る『魔弾』使いだ。


 奪ってやる! 根源なる力を。


『完全なる断絶』を構成する魔力を。魔力を発動させる魔素を。やつが影響を与えるテリトリーすべてを。


 食いちぎれぇえええッ!


『魔弾』が続けざまに『完全なる断絶』を襲う。

 ラヴァルは規格外のハルバートを振り回し『魔弾』をたたき落とそうとするが叶わない。

 障壁はもはや薄皮一枚のみ。

 ラヴァルは僕をにらんだ。憎しみのこもった目で、獲物を見定めた。

 ハルバートを水平に構えると、怒声を上げて一気に迫ってくる。

 僕はガタがきた銃を地面に突き刺し、抜刀した。そしてラヴァルをにらみ返した。

 僕はエルマン兄さんのように身体に力を巡らした。そして『完全なる断絶』を見よう見まねで模倣してみせた。

 同じでなくていい。攻撃を軽減してくれさえすれば。

 障壁をまとった僕はラヴァルの気迫に誘われるように駆けだした。

 誰かの手が僕の手を掴もうとした。ヴァレンティーナ様だった。

「ダメよ! やめなさいッ!」

 僕は跳躍し、丘を駆け下り、ラヴァルとの距離を一気に詰めた。

 僕は剣をやつの首めがけて振り抜いた。

 ラヴァルは障壁を復活させることで僕の剣をはじき、代わりにハルバートを僕の首めがけて振り下ろした。

 勝利を確信したラヴァルの顔が高揚するのがわかった。獲物を仕留めた瞬間の喜びにその顔は酔っていた。

 だが、彼のハルバートもまた僕の首を刎ねることはなかった。握りの先で折れたのだ。

 笑みは恐怖に変わった。

 僕は呟いた。

「『魔弾』…… 『鎧通し』ッ!」

「貴様、ヴィオネッティーかッ!」

『魔弾』は、身体をよじり回避しようと試みるラヴァルをプレートメイルごと打ち砕いた。鎧が陥没したのがわかった。

 男は赤い涙を流して事切れた。

 戦場に静けさが訪れた。

 生き残っている双方の兵士たちが僕とラヴァルの結末を刮目していた。

 やばい、『鎧通し』失敗した。腕折れた。どうしよう、みんな見てる。痛い。でも耐えられるのは今のうちだけだ。気が高揚している今だけだ。でもこのままじゃまずい。

 ラヴァルが崩れ落ちた横で僕はオロオロし始めた。

「あ、あの…… 僕、先に帰ります」

 近づいてきた兵士にそう言うと、僕は転移結晶を使ってその場から立ち去った。



 その後戦場で何があったのか、僕は知らない。

 戻って早々、マリアベーラ様とジョルジュ殿下に詰め寄られ、「骨を折った」と言った途端、リオナに泣かれたことと、血相を変えて戻ってきた姉さんに思い切り殴られたことは覚えている。

 万能薬をがぶ飲みしながら「ラヴァルを倒した」と言ったらジョルジュ殿下は驚き、マリアベーラ様は「血は争えぬな」と言って笑った。

 一時ほどしてヴァレンティーナ様も僕が忘れてきた銃を持って戻ってきた。

「王女に配達させるとはいい度胸だ」と言って、胸ぐらを掴み「命令は絶対だ。二度目は許さん」と言葉を添えて、僕を抱きしめた。

 リオナと姉さんが近くにいないことを慌てて確認してほっと胸を撫で下ろす。

「今度勝手なことをしたら…… わかるな?」

 ヴァレンティーナ様は僕の耳元で呟いた。

「冒険だけにしときます」

 背筋が凍った。

「賢明な判断だ」

 僕は理性と本能の入り交じった複雑な心境で銃を受け取ると部屋を後にした。

 あーあ、これもうダメだわ。

 強度不足。銃身広がってるし、あちこちガタが来てる。これじゃ実弾使ったら暴発するな…… 新調するしかないか。

 そういえば、任務が終わったらみんなどうするんだろう?

 僕は振り向いて、ヴァレンティーナ様の執務室の扉をじっと見つめた。


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