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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第九章 遅日と砂漠の蛇
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遅日と砂漠の蛇(侵入)4

 一番艇も随分模様替えしたようだった。サロンと倉庫をひっくり返すようなことはしなかったが、既に自動航行システムが採用されていた。そして強力なオプションが……

 推進力強化ユニット。

 僕の船が大きすぎたので、こちらにいきなり装着された第一世代用追加ユニット。要は僕の船と同等の推力を持たせるためのオプション装備だが、船体が軽い分、最大速度は僕の船を凌駕する。商会はこれでもう一儲けである。もっともそれなりに魔力消費も増えるのだけれど。


 僕たちがミコーレ到着までに要した時間より短時間で、一番艇はミコーレを通過した。

 そして、二つの国の国境にあるミコーレ側の要塞都市バルトゥシェクに、夜明け前ギリギリに到着した。

 僕たちふたりを砂漠に置き去りにすると船は闇に紛れた。

 僕はライフルを始め、万能薬、武器や金目の物など、すべて『楽園』に放り込んできた。

 ドナテッラ様も何か方法があるのだろう。装備一式をどこかに隠している。

 もしかしてドナテッラ様も爺ちゃんの系譜なのか? それとも何か似たようなユニークスキルをもっているのか。爺ちゃんの長男と結婚するくらいなのだから、ドナテッラ様も相応のスキルを持っているはずなのだ。

 本人曰く、「内緒」だそうだ。

 僕の武器は一見安物に見えるが、超圧縮して作った剛剣と、いつも懐に忍ばせている短銃だ。剣は魔法攻撃力プラス百、攻撃力増加十五パーセントのちょっとお金があると買える代物だ。短銃は弾は込めていない。『魔弾』専用だ。装備もそれなりの革装備で、誰も欲しいとは思わないレベルだ。

 要するに冴えない新人冒険者の姉弟を装っているのである。見た目が親子には見えないのはひとえに彼女が普段以上の若作りの才能を発揮したせいである。もう母さん同様、妖怪のレベルである。

 彼女も見窄らしい剣士の格好をしていた。

「これ、お守り」

 僕は彼女に『身代わりぬいぐるみ』を一つ渡した。

 僕も身に着けていることを見せた。

 日の出と共に僕たちは要塞都市の城門を訪れた。


「歩いてきたのか?」

 濃い目のお茶をあおっていた門番が尋ねた。

「途中で壊れてしまって…… 修理しなきゃと思ってはいたんですけど」

 ドナテッラ様が適当な嘘を付いて門番の同情を引いた。

「どこから来た?」

「アールハイトのエルーダ迷宮」

「儲かったかい?」

「全然。装備が磨り減っただけだよ」

 僕も口裏を合わせる。

「目的地は?」

「アシャールのバシュタナ」

「おいおい、冗談はよしてくれ。あそこは今やばいんだ。独裁政権とそれを倒そうとする独立派がドンパチやってんだぞ。悪いことは言わねぇ、手前のパロタンまでにしておきな」

「ありがとう。でも家族がいるんだ」

「そうかい? さっさと引っ越した方が身のためだぞ。あそこはもう国なんて呼べるところじゃねーからな。おっと、すまねーな。故郷を悪く言われちゃ、いい気分はしないよな。通行税はミコーレからなら銀貨二枚だ。冒険者なら早くポータルを使えるようにならんとな」

 相槌を打ちながら僕たちは銀貨四枚を出して大門を潜った。


「このまま関所を目指しますか?」

「まずは食事にしましょう。アシャールに行ったら、まともな食事にありつけるか分からないから」

「食料なら山ほど持ってきましたけど」

 そう言って僕はポポラの実を取り出して投げた。

「あら、すてき。ありがと」

 受け取ると表面をこすってカプリとやった。

「駅馬車が出てるといいんですけど…… あるんですかね? ドンパチやってるって言ってましたけど」

「だからこそ、儲けるチャンスなんじゃないのかしら?」

「そう言うもんですかね」

 うーむ、母さんと、姉さんに通じるものを一瞬感じてしまった。

「どうせバシュタナまで行かないと何も始まらないんだから楽させて貰いましょう。駄目ならそのとき考えましょう」

 僕たちは反対側の門にある駅馬車の停車場に行ってみた。

 国境を越えるものはいくつかあるけれど、中央まで行く路線はなかった。

「バシュタナは遠いんですか?」

「あまり大きな国ではないから、何ごともなければ馬車で四、五日もあれば着けるわね。駅馬車なら三日」

「駅馬車に乗って正面から入国ですか?」

「どうしようかしらね」

 迷っている割に足取りは正確だった。

 ドナテッラ様は黙々と町を横断した。往復で一週間…… 祭りまでギリギリである。ここはポータルを使って時間短縮を狙った方がいいのではないか? 国境を越えて、ポータルがある町まで行き、一気に飛んだ方が時間短縮になるのでは? 

「あの最寄りの町まで行って、ポータルで飛ぶってのは?」

「ポータルに記録した情報は監視されてるのよ。戦時中ならセキュリティも強化してあるだろうし」

 この状況で元の国主の生き残りが侵入したとなったら確かに一大事だ。

「あれ、門を出ちゃいますけど?」

「いいから、付いてきなさい」

 黙って付いていくと門扉の外に出てしまって、郊外の羊の放牧地に出た。

「ここは……」

「見ての通り放牧エリアよ。最終城壁はあの森の向こう。あった、あの風車小屋の側」

「なんです?」

「駅馬車よ。闇のね」

 

「お客さん、ここの馬車は貸し切りだ。足を探してるなら町に停留所があるからそこを利用しな」

 厚手のシャツに噛み切れない肉のような分厚いブーツを履いた、農夫の格好をした男が言った。

「できればバシュタナまで行けると有り難いんだけど」

「お客さん、貸し切りだと言ったら――」

 男はドナテッラ様の顔を見て何かに気付いたようだった。

「分かった。誰に聞いたか知らないが、金はあるんだろうな?」

 ドナテッラ様は懐からすっとお金を出した。

「金貨十枚。連れの分とで二十枚よ」

「悪いな、お客さん。昨今物騒でな。今は倍に値上がりしてるんだ」

 やはりドナテッラ様はお嬢様だ。

 この手の輩にお金を簡単に見せてはいけない。出し渋るのが原則だ。路銀がこれしかないとか、財布をすられたとか、もうこれ以上はないぞと、あれこれ理由を付けて、低めに小出しにしていくものだ。いきなり十枚出せる奴は、二十枚も簡単に出せる。相手は命がけの仕事をしているのであって慈善事業をしているのではない。そもそも儲けるために手段を選んでいる連中ではないのだから、抗議も意味はない。

 そんな輩が見た目が貧相でも、しゃべりや物腰が柔らかい相手を見逃すはずがない。いいところのお嬢さんであると持ち前の嗅覚が探り当てたに違いない。訳ありのお忍びだと看破するのは容易いことだろう。金貨十枚ですら通常の客にははったりなのだろうからいいカモである。

 まずは値下げ交渉から始めるべきだったのだが、止める間もなく、ご丁寧にも用意していた金子を渡されてはこちらは手の出しようもない。

 お忍びを優先するなら、世間知らずのお嬢様の連れを演じた方がいいのだろうが、優秀な子飼いを演じる手もある。

 悩んでいる間に金貨二十枚が追加された。

 あーあ、勿体ない。

 仕方ないか、円滑に事を進めるためだと思って諦めよう。

 姉さんの姉貴分だと言うからもっと狡猾な人だと思ったが、どうやら母寄りの人だったらしい。

 どの辺りが天才なんだ? 魔法に関することだけか?

「越境許可証は貰えるのかしら?」

「勿論込みの値段だ。こっちも客商売だ。良心的に行かんとな」

 どこが良心的だ。あちら側の門番からわずかな裏金でサイン入りの許可証をくすねて来ているだけだろ。


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