表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
430/1072

閑話 パスカル君の災難11

 赤く燃える火球をふたりは同時に放った。

 命中した途端、爆発が起きた。

 ええええ?

 ファイアーマンの火の玉とは別物だった。

 これ、爆炎の間違いじゃないの?

 それが堰を切ったように容赦なく降り注いだ。

「ち、ちょっと……」

 ビアンカが声を漏らした。

 学校では普通の火の玉なら十発ぐらい、装備次第でどうとでもなると教わってきたけど、これは無理だよ。

「これのどこが火の玉なんだよ」

 ファイアーマンも絶望の声を上げた。

 でも今は彼よりふたりだ。彼の自信を喪失させるほどの攻撃を既に十発以上食らってるんだ。

「大丈夫なの?」

 ふたりの姿が炎のなかから現れた。

「おおッ、やっぱりいいよ、この盾。全然熱くない」

「だろ? なんたってアイシャさんの開発した複合術式だからな。ドラゴンのブレスにだって数発は耐えられる!」

 ふたり揃ってケロッとしていた。

「こら、アイシャ。なんて物を開発してくれた!」

「作ったのはお前の弟じゃろうが!」

 今度は女同士で言い合いを始めた。

 その隙に兄弟子たちがこっそり出口に向か……

「どこに行く気だ?」

 あっさり見つかった。

「あれだけの攻撃に耐えたんだから、もういいかなってね」

「初級魔法に耐えただけでいいはずないだろう?」

「そうじゃ。こういう物の開発は手を抜いてはいかん。事故の元じゃ。次は中級で行こうかの」

「爆炎、二十連発でどうじゃ?」

 冗談かと思ったら、容赦なくぶち込んだ。

「きゃっ」

 ビアンカも悲鳴を上げる。

 ファイアーマンは炎に見せられた放火魔のように、燃え盛る景色に見とれていた。というより放心していた。

「なんか、この盾凄くない?」

「涼しいくらいだね。ちょっとやり過ぎたかな?」

 ふたりは相変わらず健在だった。

「なんなんだよ! なんであれで平気でいられるんだッ!」

 ファイアーマンが我に返った。

 二枚の盾を平行して立て掛けて、当人たちは後ろでしゃべっている。

「ねえ、なんだかこの部屋暑くない?」

 ビアンカが言った。

 言われてみれば、暖房もないのに汗ばんできた。

「そりゃ、あれだけの熱量だぞ。熱くなるって」

 爆炎投下は容赦なく続いた。

「あれ? 風が」

 密室なのに風が吹き始めた。

「暑ッ」

 熱風が吹き寄せた。

「エルネスト、お前ッ!」

「こっちばかり暑いのは不公平だろ! 空気を循環させてもらうからな」

「馬鹿者、そんなことしたら、あいつらが焼け死ぬだろうが!」

「こっちが焼け死んでもいいのか!」

 子供の喧嘩だよ。

「悠々と氷舐めてる奴の言う台詞か!」

「もう実験終わりでいいと思うんですけど」

 ロメオさんが口を挟んだ。

「何を甘いことを。魔法使いが探求を止めてどうする」

「中級程度では売りにならんな。ここはやはり上級魔法を一発」

「売りってなんだよ!」

地獄の業火(インフェルノ)を!」

「止めろ、殺す気か!」

「感謝するんじゃな。一生に一度拝めるかどうか、分からん魔法じゃ。我らとて数発撃つのがやっとの上級魔法じゃぞ。それも二発も」

「上級魔法も防げるとなったら、一枚いくらになるだろうな」

「売る気だな! 馬鹿姉、ふざけんなよ」

 詠唱が始まった。

「こっちに来いッ! そこにいたら死ぬぞ!」

 エルネストさんが僕たちに向かって叫んだ。

「でも、そっちは爆心地……」

 立ち尽くしていたら、向こうからやって来た。

「後ろに隠れてろ!」

 急に涼しくなった。

 目映い光と共に灼熱の炎が飛んできた。

「大丈夫。問題ないよ」

 ロメオさんが僕たちに振り向いて優しく言った。

「魔力は?」

「まだ行けるよ」

「嘘でしょ。上級ですよ、上級ッ! 軍隊が一発で蒸発する魔法ですよ」

 ファイアーマンも必死だ。

「威力は押さえられてる」

「そんなの嘘よ!」

「強くもできるなら弱くもできるだろ?」

 僕ははっとした。威力のある初級魔法が撃てるのなら、逆もまた真なり。それが定型ではないイメージ構築型の優位性。

「でも普通死ぬよね」

 ロメオ君が笑った。

「やっぱり死ぬんじゃないですかぁ!」

 ビアンカももう恐怖で崩壊寸前だった。

「見せてるんだよ。わざわざファイアーマン君や僕たちにね」

「え?」

「炎使いになりたいんだろ?」

 呆然としていただけのファイアーマンの瞳の奥に生気が戻った。

「なりたい。なりたいッ!」

「術式は後で覚えればいい。君の家にはあるのだろ? 術式が」

「あります。だから僕は…… いつかあの魔法を使いこなせる魔法使いになりたいって」

「だったら目をそらしてないで観察しろ。何が今起きているのか、すべての感覚を動員して感じるんだ」

「ちょっとつらいね」

 ロメオさんが弱音を吐いた。

「あ、やっぱり?」

「もう一発来るよね?」

 ふたりは万能薬を飲み干した。

「この魔法持続時間長すぎるよ。魔力がゴリゴリ削られていくよ」

「対象が燃え尽きるまで永遠に消えないって言われてるからな」

「まさに地獄の業火!」

「何暢気なこと言ってるんですかッ!」

「上級魔法も防げるって触れ込みでこの盾売りに出しても駄目だね。使用者の魔力の方が持たないよ」

「万能薬とセット販売でどうかな?」

「『お主も悪よの』て、そんな法外な盾、誰も買いませんよ」

「なんでふたりは落ち着いていられるんですか? 怖くないんですか?」

 僕は尋ねた。

「あのふたりがそこまでするわけないだろ?」

「機嫌を損ねなければね」

 二発目が来た!



 ファイアーマンは一騒動のおかげか、「極意を掴んだ」とか言って、滞在中、アイシャさんに師事して、火の魔法の修行に励んだ。

「レジーナさんじゃないのか?」と聞いたら、「お前がレジーナさんの弟子だからだ」と言われた。どこまでも熱い奴だった。下心見え見えである。

 ビアンカはレジーナさんに師事して、基礎からイメージ構築法の勉強を始めた。僕の本を以前から読んでいたせいで、すんなりと学習は進んだらしい。レジーナさんが意外なほど優しかったと言って喜んでいた。

「普段は美人で優しい人なんだよね」と僕が相槌を打ったら、「美人は余計でしょ」と言われて蹴られた。

 僕は、エルネストさんとロメオさんに魔法の制御方法を教えて貰った。ロメオさんの制御はまさに完璧だった。エルネストさんはロメオさんに比べたら荒削りだが、それはエルネストさんの魔力が人外だからだと言われた。

 人外の人に人外と言われてもね。もう分かりません。

 滞在期間を三日延ばして、僕たちは大いに楽しみ、大いに学び、それなりの成果を上げることができた。

 そして最終日。

「父さん?」

 ヴィオネッティーの西方遠征に同行していた父が、休暇を取って帰ってきた。僕は父さんと故郷に帰ることになった。

「じゃあ、また新学期に」

「ああ、またな」

「うん、また新学期にね」

 僕たちは別れの握手を交わした。

 そして振り返ると、エルネストさんとその仲間に言った。

「次の休みにまた来ます」

「うん、待ってるよ」

 エルネストさんと握手を交わして、僕はポータルに飛び込んだ。



「なんでふたりともここにいるんだよ!」

「だってよ、家にいても退屈でさ」

「わたしも。家でのんびりしていても、なんだか気持ちが落ち着かなくて。それで残りの休みの間、ここで消化することに決めたの」

「お前は? 親父さんが戻って来てるのにいいのか?」

「いいんだよ。その父さんがヴィオネッティー家とは懇意にしておけって言うんだから」

「ご飯にするのです。今日はおっさんちの腸詰めなのです――」

「それに、ここにいると楽しいから」


 パスカル君の話はこれにて。

 次回、一話挟んで、この章は終わりです。m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ