閑話 パスカル君の災難8
第一の関所を抜けて、森に入ると空き地に駐屯部隊を見つけた。
二番目にじゃんけんに負けたロザリアさんが二匹の虎の聖獣を召喚した。
僕たちは止まることなく前進して、陣地をあっという間に席巻した。
「彼女、回復役じゃないの?」
森のなかから一匹の伏兵が現れた。
僕たちは驚いたが、エルネストさんたちはまるで動揺しなかった。
ロザリアさんが一瞬何かしたら、敵の頭が吹き飛んだ。
「今の何?」
「光の矢」
リュックのなかから、湯船に浸かっているかのように首だけ出している猫が言った。
「見えなかったわよ?」
「高速で撃ち出してる」
小さな口で大きな欠伸をした。そして目に涙を溜めた。狭いリュックの口からちょこっと足を出して頭の方を甲に擦り付けて涙を拭った。ピンク色のかわいい肉球がちらっと見えた。
やっぱり猫飼おうかな。かわいいよな。
「あっ、筋つった。いたたたた」
えーっ。全然猫らしくない。
二つ目の橋に差し掛かった。今度はロメオさんだ。
猫は未だに首を左右にコリコリ振っている。目の前にエルネストさんのリュックがあって、気になって仕方がない。
そんななかロメオさんも躊躇することなく吊り橋を行く。
巡回兵がロメオさんの姿を見つけると、叫びながら吊り橋を揺らして、迫ってくる。
だが一瞬で二匹が凍り付いた。
「すごい!」
無数の稲妻が城壁に降り注いだ。
呆然と見ている間もなく、城門が吹き飛んだ。敵が飛び出してくるが、悉く返り討ちにあっていた。
「圧倒的だ……」
ロメオさんは敵を殲滅すると奥へ奥へと進んだ。
「おっ」
「あ」
ナガレさんとピノが声を上げた。
「宝箱見つけたって」
敵を殲滅すると僕たちは戦利品の回収に飛び回った。
「これって一体いくらになるんだろうな?」
魔石を抱えながらファイアーマンが言った。
「銀貨八十枚ぐらいなのです」
「ええ? そんなに?」
もう五十個は回収してる。既に金貨四十枚? 装備品入れたら……
「なんなの? 冒険者ってこんなに儲かる商売なの?」
僕が言いたいことをビアンカが言った。
宝箱をエルネストさんが開けると、なかから一握りの宝飾品が出てきた。
「金だよ」
「うん、あれは金だ」
回収袋に入れるとさっさとリュックに放り込んだ。
回収が終ると休憩が入った。
見晴らしのいい丘の上でお茶会を始めた。
エルネストさんとアイシャさんが回収したアイテムの鑑定をしている。
欲しいものは売却しないから申告するように言われたが、特に欲しいものはなかった。現金の方が有り難い。
今のところ当たりはないようで転売用の回収袋に次々アイテムが放り込まれていった。
ファイアーマンは猫の笛を興味深そうに見詰めた。
「使役の笛?」
「正式名称は『使役の角笛』だよ。オクタヴィアじゃ角笛持てないからね。それでなぜかああなった」
ロメオさんが分かるような分からないような解説をした。
迷宮のクエストって儲かるって聞いたけど、ああいうレアアイテムが手に入るなら、遭遇してみたいと思った。
「先客はどうしてる?」
「あれからやっと四匹目なのです」
「あそこは敵が手薄らしいの。あそこからなら正規の脱出ルートからも近いから、いい場所なのかもしれんの」
殲滅して回ってる人たちには関係ないね。
ほんと信じられない。エルネストさんだけが変わってるのかと思ってたけど、あの大人しそうなロザリアさんやロメオさんまでも。
他の冒険者はあれからまだ四匹。僕たちが一匹を倒したペースとあまり変わらない。回復しながらの戦闘なのだろう。時給にして魔石五つぐらい。金貨四枚を何人かで割ると……
割がいいのか悪いのか。評価はこのレベル帯の修理費が幾らかにもよるな。薬代を考えると割がいいとは思えないが。
「どうやら、脱出するようじゃな」
「え? そうなんですか?」
「倒せそうな敵は粗方片付けたのだろう。他のフロアーに移るか、手仕舞いか」
「次誰の番?」
「わたしよ」
ナガレさんらしい。
「そろそろ行くか」
森のなかに駐屯している兵隊をあっという間に殲滅した。
「もう終わりなの?」
ざっと十匹はいたはずだが、僅か数秒だった。
僕たち三人が全力で仕留めた相手を彼女も一撃で葬った。
次はヘモジらしい。
「ナーナ」
橋の向こうの砦をやる前に橋の手前の巡回を仕留めなければならなかった。
「あれはわたしがやるわよ」
「ナ?」
ナガレさんがさっさと仕留めてしまった。
ヘモジが橋を渡る。トロトロトロトロと。
巡回兵はヘモジになかなか気付かない。
「でかくならなくて平気か?」
「大きくなったら橋渡れない」
猫がツッコんだ。
次の瞬間、城門はおろか、城壁までもが崩れ落ちた。
「ええええっ?」
関所が…… とんでもないことに!
「ヘモジ、すげーっ!」
ピノとファイアーマンが感動を共有していた。
「あーあ、やっちゃったよ」
エルネストさんが声を上げた。
「城門周りだけじゃ。許容範囲じゃろ」
アイシャさんは平気な顔をしている。
砦の敵は大慌てだった。城壁の上にいた敵はみな奈落に落ちた。
僕たちは目の前で起きている有り得ない事象を呆然と見つめていた。
巨人サイズならいざ知らず、『レベル一ヘモジ』の状態であの破壊力……
心配するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
橋の上の巡回兵もさすがにヘモジに気付いたようで、烈火の如く怒り狂っていた。
「ナーナ」
対峙するヘモジは至って暢気に構えている。
一撃で城門の瓦礫まで吹き飛ばした。
「あの伸縮自在のハンマーなんなの?」
「俺に聞くなよ」
崩れた城門跡からゾロゾロと敵の大群が姿を現わした。
「なんだか数増えてない?」
最初の砦の要員の倍はいる気がする。
ヘモジは迫り来る敵をハンマーで次々薙ぎ倒す。弾かれた敵は味方を巻き込み、奈落へと落ちて行く。
「あの数相手に押してるよ」
「橋から落としたらアイテムの回収、できないんだけどな」
「危ないッ!」
ビアンカが叫んだ。
敵の投石がヘモジの頭上に振り注いだ。
「敵味方関係なしかよッ!」
「え?」
ヘモジが玩具のような盾で全身より遙かに大きな石を弾き返した。
「ナーナ」
なんだか喜んで、こっちを見てる。
「ナァー」
ハンマーだけでなく盾も使って相手を殴り始めた。
「楽しんでるわね」
ナガレが感想を漏らした。
「玩具がよほど気に入ったみたいだな」
「ほっといて先にアイテム回収するわよ」
みんなでアイテム回収を始めた。
砦の別の方角が崩壊した。
「おい、ヘモジ。自重しろ。怖いのが出てくるぞ」
「闇の信徒。確かレベル五十五だったよね」
「何も落とさなかったのです。残念な奴なので、遭わない方がいいのです」
「ナーナ」
敵を倒しきったヘモジが瓦礫のなかから現れた。
回収できた魔石は四十四個だった。
「やっぱり倍はいたね」
「そうだな」
「猫ちゃんやヘモジちゃんですらあんなにやれるのに、わたしたちは一匹がやっとなのね」
「言うな、落ち込む」
次の駐屯地は大騒ぎに巻き込まれたようでもぬけの殻だった。
次の橋が見えてきた。
「いよいよ最後の難関だ。あの上に敵の本陣がある。そしてお宝が」
「リオナの番なのです」
「もう最後なんだからみんなでやった方がいいだろ?」
「えーっ、リオナもひとりで殲滅したいのです!」
「だって、お昼までもう一時間しかないんだぞ。店混んだら昼食遅れるぞ」
「それなら仕方ないのです」
「それじゃ。気を引き締めて。行くぞ!」




