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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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閑話 パスカル君の災難6

 朝、起きたらビアンカがいなかった。

 リオナちゃんと一緒にユニコーンを見に行ったと言う。

 僕たちは彼女たちの帰りを待ちながら朝食を済ませた。

「なあ、兄ちゃん。いいだろ? 連れてってよ。三人も行くんだから、ひとりぐらい増えても一緒だろ?」

 きのうのピノ少年が一緒に狩りに連れて行って貰おうとエルネストさんに直談判していた。

「地下十四階ならいいんじゃないかい? 食人鬼の砦だろ? 攻略は面倒でも、事故が起きにくいフロアーを選んだって自分でも言ってたじゃないか?」

 アンジェラさんを始め、アイシャさんもロザリアさんも少年の肩を持った。

「きょう位いいじゃろ? どの道警戒を密にしなきゃいけないんじゃ」

「お友達はもうお父さんと狩りに出てるんだそうですよ」

「でも兎やイノシシを狩るのとはわけが……」

「あんただって最初はあっただろ? 連れて行ってお上げよ」

「兄ちゃん!」

 女性陣に押し込まれて、ピノ少年の真剣な眼差しにだめ押しされた。

「分かった! その代わり戦うのはなしだぞ」

 ピノ少年は大きく頷いた。

「やった! 兄ちゃん、ありがとう」

 自制しようしているが、尻尾が猛烈な勢いで振れていた。

 戦わせて貰えないのになぜあんなに喜ぶのか?

 聞けば、獣人の子供の狩りデビューとはそういうものらしい。まず、見ること、聞くことから始まるそうだ。

 父親のいないピノ少年には一緒に狩りに行ってくれる保護者がいない。友達同士でも出遅れた感があって、エルネストさんだけが頼りらしいのだが、現役の冒険者の狩り場は子供を同伴するには難易度が高く、なかなか首を縦には振ってくれなかったらしい。実際まだ幼いし。狩りのかの字も知らなくていい年頃なのだが。年上の同門の子供たちの話を聞くほどにあこがれは増して行くのだろう。

 リオナちゃんという前例があるので、なおさら自分もという思いが強くなるようだ。

「早く一人前になりたいんだろうな」

 ファイアーマンが呟いた。

 エルネストさんがピノに用意した装備は付与装備のこれまた常軌を逸したものだが、どうやらエルネストさんのパーティーではこれが当たり前らしい。

 リーダーからしてアダマンタイトの長剣を持っているのだから普通じゃない。だって魔法使いだよ!

「パスカル君、これ持って」

 変わった盾を持たされた。

「軽っ!」

 思わず声が出た。それほど見た目とギャップがあったのだ。

「魔法使い専用の盾だ。使わないと思うけど念のためな。それとファイアーマン君、君は火属性以外の魔法は使えるのかな?」

 スキルが読まれた。名前が名前だから、そりゃばれるか。

「ああ、ええと……」

「学年相応ですかね」

 本人が答えにくそうにしていたので僕が代わりに答えた。

「実践では火の攻撃魔法はなかなか使う機会がない。今回も舞台は森のなかだから使えないぞ。装備品の回収もあるから燃やすのはなしだ」

 ファイアーマンがガックリと項垂れる。

「風の魔法の杖、あったかな?」

「使うなら貸すけど」

 ロザリアさんが着替えを終えて姿を現わした。

 僕たちは唖然とする。

 僧服に巨大なランスを持っている。

 それがロザリアさんの戦闘スタイルなの? 

「ビアンカさんは?」

「ビアンカはオールマイティーかな。教科書準拠だから実践に使えるかは疑問だけど……」

「ピノにはこれだ」

 短銃を持たせた。

「保険だ。戦うためじゃないぞ」

「分かってる」

「練習する機会は作ってやるから、我慢な」

 ピノは大きく頷いた。

「そんな紙装備でいいのか?」

 エルフが階段を降りてきた。

 こちらは上品な男装の麗人だ。ウェストコートにズボン、ロングブーツ姿だ。

 目の毒だということで本日は控えめとか。猫が教えてくれた。

 普段どんな格好をしているのか、見てみたい気もするけど、本日は薄緑のすっきりした衣装だ。とても戦闘服とは思えない。でも何を着ても平気ということは、アクセサリーが充実しているということだろう。

 腰の剣は細くて格好いい。芯に真っ赤なラインが入ってるけど、そこには術式が施されている。

 なまくらじゃない。真剣の冷たさがあった。

 アイシャさんは剣を確認すると鞘に戻した。

 ヘモジも装備している。鞄を背負って、片手には僕の持ってるのと同じ盾を圧縮したような盾を持っていた。

 アイシャさんが猫の首に笛を付けている。

「これオクタヴィアの武器」

 二本足で立って、両手ですくってわざわざ見せてくれた。

「お早うございます」

 誰か来た。

「お早う、ロメオ君」

「早いな」

「お早うございます」

「お早う、ロメオさん」

「お、ピノ君も行くの?」

「うん!」

「今日は大所帯だね。初めまして、ロメオ・ハルコットです。冒険ギルドの職員の息子をしています」

「初めまして――」

 見るからに魔法使いの格好をしている。でも外套やリュックはみんなと同じ物を装備していた。外套には『銀花の紋章団』のエンブレムが入っている。

「そうだ。できてきたよ。盾」

 エルネストさんが楽しそうに僕に渡した盾と同じ形の盾を彼に渡した。

「おおっ! 待ってたんだー、これ。やっぱ格好いいよね。ちょっと発動して見ていいかな?」

 盾の周りの空気が一瞬歪んだ。

「どれ、見てやろう」

 アイシャさんが突然、剣を抜いて一撃を入れた。

 ぶつかる衝撃音がすると思いきや、まるで寸止めのように無音だった。

「エルネスト……」

「何?」

「お前、何を想定してこの盾を作ったんじゃ?」

「想定も何も、これに使ってる術式はアイシャさんの作った飛空艇の結界術式の簡易版ですよ」

 ええ? 船の結界仕様なの? 

 僕は自分が持つ盾をまじまじと見つめた。

「ドラゴンのブレスも止められそうじゃな」

「ナナ」

「オクタヴィア、キーック!」

 ヘモジの構えた盾にオクタヴィアが蹴りを入れた。

 ガンッ。もろに鉄板を蹴っ飛ばした。

 ヘモジは結界を発動しなかった。

「ナーナ?」

「痛ッ、足折れた」

 猫がびっこを引いた。

「素で使っても大丈夫そうじゃな」

 その後ビアンカたちが帰ってきて、僕たちは迷宮に旅立った。

 あれ? 昨日八人って言ってたよな? エルネストさんにアイシャさん、ロメオさんに、ロザリアさん。ナガレさんにリオナちゃん。そして僕たち三人…… 九人?

 ひとり多い……

 エルネストさんの間違いだろう。そう思って、僕は素朴な疑問をやり過ごした。



 僕たちは振り子列車というものに乗った。

 もう何も驚くことはあるまいと高を括っていたのに、まだ隠し球が残っていたのである。

 それは流線形の乗り物で地中のレールの上を高速で移動する物らしい。たった一時間で山脈を越えエルーダに着くそうだ。

 それは揺れもなく快適な移動だった。

 ただ、これは領境を無許可で越える違法行為らしく、僕たちは堅く口止めされた。

 移動中のお茶会が終ると本日の予定が話し合われた。


「今回攻略のステージは地下十四階、食人鬼の砦フロアーになります」

「それって、ゼンキチさん助けた?」

 ゼンキチというのは昨日見た道場の主らしい。

「そう、あそこ。選考理由はふたつ。突発的な事故が起こりにくいことと、遠距離攻撃との相性がいいことだ。砦だけあって攻略は面倒だが、不測の事態は起こりにくいと判断した」

「ではまずこいつらの実力の確認からじゃな」

「敵のレベルは三十四程度ですからね。三人で一匹をまず相手にして貰う感じかな?」

「三十四ッ!」

「フェンリルや千年大蛇より強い……」

「いや、フェンリルや千年大蛇の方が厄介だよ。食人鬼は速いわけでも隠遁に特化してるわけでもないからね。ただ岩を投げるだけだから」

「ピノにも銃を撃たせてやる。空の上でやってることと同じだ」

「四人には一つだけ厳守して貰うことがある」

 僕たちは真剣にエルネストさんを見つめた。

「僕からあまり離れないように。例え味方や他の冒険者がやられていても、飛び出すな」

 僕たちは頷いた。

「では四人に薬を配布するから、遠慮せず使うように。通常の回復などはロザリアがやってくれるので頼るように。以上。質問は?」

「エルネストさんたちの武装を教えてください」

「リオナとヘモジ以外は全員魔法だよ」

「え?」

「ええ?」

 そんなことって…… 普通冒険者のパーティーというものは、魔法使いがひとりいれば御の字。ふたりいたら大分恵まれているパーティーと言われている。

 エルネストさんらしいと言うか、なんというか……

 でも大丈夫なのだろうか? リオナちゃんだって盾役が務まる体格ではないし、前衛のいないパーティーなんて、怖すぎる。

 でも同じくらい気に掛かる。同じ魔法使いとして、この人たちの実力はどうなんだろうかと。

 ガッコン。

 車両が止まった。エルーダに到着したようだ。

「じゃあ、みんな、怪我しないように頑張ろう」

 初めての迷宮探索、ファイアーマンもビアンカも緊張し始めた。

「大丈夫。みんな強いから」

 黒猫に慰められながら、僕たちは裏山を下りた。


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