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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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春を探して(魔法使いの盾を試作してみた)8

「アガタいるか?」

 僕は店内に入った。

 ドワーフの従業員が陳列棚に商品を並べていた。

「店長なら裏にいますよ」

 陳列棚からひょこっと頭を出して言った。

「『盾ができた』と聞いて来たんだけど」

「ああ。坊ちゃんでしたか。今呼んで参ります」

 しばらくすると煤だらけのアガタが現れた。

「もうこんな時間か?」

 裏口の側の出窓にお洒落な日時計が置いてあった。

 僕の顔を見るなりにたりと笑った。

「酒樽に見える」

 そりゃ病気だ。

「ほどほどにな」

「はーはっはっはー、そりゃ無理だ。ドワーフと酒は磁石みたいなもんだからな。引き付けられるわ、ジョッキから手が離れないわで。飲み干す以外ないわけさ。まして今日は坊ちゃんの奢りだからな。うまい酒が飲めそうだ。この間はリオナに邪魔されたからな。今日こそは飲んで、飲んで、飲みまくるぞ。ああ、ほらこれ、頼まれたもの」

 おざなりだな。酒の前ではすべてが小事か。

 収納棚に無造作に載せてあった大きな物を軽々引っ張り出してきて、カウンターの上に置いた。

 それは巨大な槍の穂先に見えるほど幅薄で鋭いへさきを持った盾だった。中央部は黒打ち仕上げで渋い黒鉄色、周囲は磨き上げられた地金の色。縁は先端にかけて細く鋭利に、刃先のような仕上がりになっていた。全体に施された紋様が高級感を醸し出していた。

「こんな薄くて柔に見える盾はドワーフの趣味じゃないんだが、今度はアダマンタイトぐらい使わせろよな」

「無茶言うなよ。無理言って悪かったよ」

「別にいいよ。鍋の補修するより面白かったし」

 僕の盾は鍋と同列かよ。

「こいつは盾というより巨大な矛だな。攻防一体の武装だ」

 アガタの言う通り一見武器に見えなくもない。

 盾というには細く、先端が鋭角でまさに大きな矛先である。しかもロザリアでもリオナでも振り回せるだけの重量しかない。防御力は専ら、アイシャさんが船のために作った複合障壁の簡易版任せの一品だ。

 これは言うなれば魔法使いのための軽量盾だ。近接戦闘でがっぷり四つに組んでやり合うためのものではない。もちろんそこら辺の盾より役には立つが、魔法使いの本分は遠距離攻撃だ。そんなことをする暇があったら距離を取った方がいい。

 だったらなぜこうも鋭利な形をしているのか。それは地面に突き立てるためである。さすがに石畳には突き立てられないが、両手が空くのはいいことだ。完全に手を離すと作動しなくなるので魔力伝達用のワイヤーが仕込んである。これも船の技術の流用だ。

 この盾を複数配置するだけで、遠距離攻撃に対して、絶対的な防衛ラインを構築でき、安全地帯を形成できるというわけである。

 僕がいないと、うちの近接はリオナとアイシャさんのふたりきりになる。しかもアイシャさんという大砲が使えなくなるのだ。

 要するに僕のいないときに使ってほしいのだ。僕という壁とヘモジという前衛がいないときの保険として。アイシャさんもロザリアも優秀な結界持ちだ。杞憂だと思うかも知れないが、ほんとうに強い敵が現れたとき、手遅れにならないように。どんなことでもしておきたいのだ。

 そう発注を掛けたときは思ったんだけれど・・・・・・

 実物を見て気が変わった。

 僕が使う! これって無茶苦茶格好いい! これなら『シールドアタック』で敵を切り刻める。個人的にはもう少し重くてもいい感じだ。

 これならきっとロメオ君も欲しがるに違いない。

「石はまだ入れてないんだっけ?」

「今はイミテーションが入ってる。結界の組み込み以外は姉御に頼むって言ってたろ?」

 アガタは鋭すぎる盾の先に皮革のカバーを取り付けた。

「今日は子供たちが溢れてるからな、ぶつかると危ない。サービスにしといてやるよ」

 随分、商売人らしくなったじゃないか。

「それより採掘はうまくいってんのか?」

 アガタがニヤリと笑った。

「これだよ、これ!」

 いきなり鉄鉱石の塊を見せられた。

「鉄が出たのか?」

「ふふーん、参ったか」

 なんでこっちが参らなきゃいけないんだよ。

「さすがドワーフの勘は侮れないな。これでやっていけそうか?」

「ああ、贅沢は言わないさ。鉄鉱石で充分だ。これで原材料費を浮かせられるからな」

 穴掘りたいだけだろうが。

「一個貰っていいか?」

 アガタが構わないというので一つ手に取った。そして分解。泥や不純物と鉄鉱石をきれいに分けた。

 土魔法の『精錬』だと不純物は残らない。鉱石だけが残って便利だが、レベルが低いと精製した鉱石の量に影響が出るのが欠点だ。

 分解は純粋に分けてくれる。が、不純物が残る。どっちがいいんだろうな? レベルが高ければ、塵の残らない『精錬』に分があるのかな。

『鉱石採取』がここに入ってくるともうわけが分からなくなる。

 ただ『鉱石精製』の再構成は他のスキルの及ばぬところであるから、一択である。名前からして鍛冶錬成の類いと思われそうだが、本来紋章を刻み込む土台を加工するためのスキルだ。求めるところが違うのである。

 効果が魔石にまで及んでいることはご愛嬌だ。では鉱石ではどうか?

 僕は鉄鉱石を手に取った。

 そして躊躇することなく分離した。

 やっぱりできた。多くの不純物がボロボロ出てきた。

 できあがった塊の出来栄えを確認した。

『認識』スキルを使っていろいろ調べたが、素人目にはよく分からなかった。

 いきなりアガタが僕の腕を取った。

「見せろ!」

 鉄鉱石の方ではなく不純物を調べ始めた。

 弟子たちも集まってきて、僕に次々鉄鉱石を分解させ始めた。

「こっちお願いします」

「こっちも」

 しばらくすると坑道の地図を持ち出して、唸り始めた。

「どうかしたのか?」

「お前そのスキルはなんだ?」

 坊ちゃんはどこ行った?

「『鉱石精製』というやつだ。『紋章学』の上位スキルで、つい最近手に入れたんだ。何か条件があるらしくて誰にでも現れるものではないみたいだけどな」

 聞かれることは分かっているので自ら暴露した。

「助かった」

「何が?」

「不純物から分かることもあるんだ。『坑道をどっちに掘り進めれば、幸せになれるか』とかな」

「僕には同じに見えるけど」

「目利きがそう簡単にできて堪るか、こればかりは経験だ!」

 今度は分離した鉄鉱石を見ている。

「使えそうか? 悪いところがあったら教えてくれ?」

「ああ、問題ない。土魔法の『精製』とも遜色ないだろう」

「『鉱石採取』って知ってるか?」

「いつも使ってる。ドワーフには朝飯前のスキルさ」

「何が違うんだ?」

「『鉱石採取』は文字通り大地から鉱石を採取するスキルだ。俺たちに取っちゃ、鉱石の位置を探り当てる嗅覚みたいなもんだ。意識を集中すれば穴の奥から取り出すことも可能なんだが、大概つるはしで掘った方が早い。どうせ次を掘るんだからな」

 お肉祭りが開催時間より早く始まるという触れ込みが、店の前を通過したので、僕たちの会話はここで途切れた。

 僕は代金を払うと盾を担いで店を出た。

 うん、やっぱり格好いい。でも重さがしっくりこないな。僕が成長したのか、標準の盾の重さに慣れてしまったのか、兎に角軽い。振り回すには重心はもう少し下がいい。

 ウェイト調整は後で欲しい連中だけやって、再発注掛ければいいか。

 ロメオ君は堅いとして、リオナとアイシャさんだよな。どっちも防御よりいけいけだからな。ロザリアはグングニルで既に重量オーバー気味だし。

 企画倒れかな・・・・・・


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