春を探して(祭り前 )7
深夜、姉さんがようやく起きてきたときにも、同じ答えが返ってきた。
姉さんも製法は知っていたらしい。ただ作れないようだった。
そう、どちらかというとそちらの方が禁忌だった。
どうすればスキルを手に入れられるのか?
あれ? そう言えば姉さんも『紋章学』極めてなかったっけ?
ハイエルフ流の禁断の術式のおかげで、姉さん、抜いちゃった?
姉さんに聞いたらそんなことはなかった。
『紋章学』はとうの昔に極めていて、カンストした『細工』スキルと一緒に、現在『紋章記述式』という上位スキルを極めようとしている最中だと言った。
『細工』スキルを極めるとそんなスキルも手に入るのかと感心したが、姉さんは『認識計』に手を載せながら眉間に皺を寄せていた。
どこを探しても『鉱石精製』がないらしい。
「ユニークじゃないのか?」と繰り返し聞かれたが、僕は違うと答えた。
「もしかしてヘルメス装備が関係しているんじゃないの?」
姉さんにヘルメス装備を買ってこようかと尋ねたが、『紋章記述式』をマスターしてからでいいと言われた。もちろん条件が的外れな可能性もあるのだが。『スキル大全』で調べておこうかな。特に変わった取得条件なんて何も載っていなかった気がするのだけれど・・・・・・
でも姉さんが細かい紋章を記述できる秘密は分かった。
僕が精製して作る土台に姉さんが紋章を刻めば、どんなものができるだろう?
「試さずにはいられないな」
姉さんも同じことを考えていた。
僕は早速手頃な宝石を加工した。豪華なネックレスの中央にあるような大きな宝石がイヤリングほどの小さな石になった。
「ちっさッ!」
魔石に比べてなんだ、この圧縮比は?
僕は姉さんにできあがった石を渡した。術式を施しやすいように平らな面を多くしておいた。
姉さんが簡単に腕力付与を施した。
「げっ!」
予想外の結果が出たようだ。
「まだいけそうね?」
姉さんが恐る恐る更に紋章を書き加えた。
「・・・・・・」
長い沈黙があった。こんな夜中に寝間着姿でやることじゃないなと、我に返るほど長かった。
「見なかったことにしよう」
そういうと姉さんは石をポケットに仕舞い込んだ。
「ちょっと! 何してんだよ。見せてよ」
「うるさい。これは何かの間違いだ! ビギナーズラックが最初に来ただけだ!」
「だからビギナーズラックって言うんだろ! ちょっと見せてよ!」
「見ない方がお前のためだ。さあ、もう遅いベッドに戻るぞ。なんなら添い寝してやるぞ」
「いいから見せてよ! じゃないと金輪際口聞かないからな」
姉さんは渋々石を取り出すと僕に見せた。
『腕力増加プラス五十パーセント、体力強化プラス五十パーセント』……
これって…… ヘルメス装備?
僕は姉さんの顔をまじまじと見た。
「これって、壊れちゃわないかな?」
「無理はしてないぞ。石が受け入れ可能なレベルに押さえたからな。むしろ無理すればもう少し上を狙えたかもしれない」
まさか通常装備? オーバーブーストじゃなく?
「壊れないってこと?」
「理屈では壊れないはずだ。どこにも無理はしてないんだからな。壊れるなら既に壊れているはずだ」
姉さんの『紋章記述式』って、今いくつ?
リオナじゃないけど、マーベラスだな。
「リオナに二つほど欲しい。これと同じ構成の物を二つ。できればピンクの石がいい」
「石を揃えるのはお前の仕事だろ?」
「分かった、『銀団』に依頼出しておくよ」
「引き受けた。石の大きさは今の大きさでいいな?」
僕は頷いた。
「こちらからもヴァレンティーナ様用の石を頼みたい。例の装備、気に入っていたみたいだからな。二つ頼む」
必殺技を二発打ち込めるようになるあれか。
「ではそちらの石も」
僕はギルドの所長にお願いした。
「揃えよう」
実験だ。壊れるかどうか、実際試してみなければ分からない。最低半年は保って貰いたいものだ。
『銀花の紋章団』のネットワークは凄いもので発注を掛けて翌日には石が届いていた。
値段はわずか金貨四百枚。上等な石ではないからという理由だが、ちょうどいい。僕は壊れたヘルメスの指輪の台座に嵌まるように石を加工した。台座の術式は生きているので行けるはずだ。
それを姉さんに届けるとすぐに目的の物を作ってくれた。
依頼にかかった石の値段の半分を受け取った。
「この石だけでも買うと恐らく元の石の十倍にはなるな」
「そんなもん?」
「グレードがもう一つ上がれば、百倍かな?」
「もっと凄いことになるかと思ったんだけど」
「紋章を刻むのは大抵普通の職人だぞ」
「あ、そっか」
石がよくてもできあがった商品以上の値は付かない。あの鬼付与はこの国のトップクラスの姉さんだから刻めたんだ。
「僕が作ったんじゃ無理なんだろうな」
「早々うまくいかれて堪るか」
「『細工』ってどうすれば上がるんだろ? 面倒臭そうだけど」
「特殊弾頭でも量産したらどうだ? できあがったら鋳つぶすのが条件だけどな」
「そんな勿体ない」
「細かく緻密であること。それと材料は硬い物ほど上がり易いな。『鉱石精製』の練習で作った石をストックしておくといいだろう。後はデザイン性だな。こればかりは才能だ。よりよい先人の作を見て学ぶといい。模倣だけでも結構上がるものだ」
そういや鍛冶屋のアガタもやってたっけな。とんでもないアイテムの模倣。
そうだ! アガタに注文していた盾ができたとか言ってたな。
受け取りがてら何かないか覗いてこよう。
その前に。
僕はリオナを探した。
そうだった、今日は肉祭りだった。広場の会場敷設に既に出向いていた。
アガタも参加するだろうから、その前に店に出向いて盾を受け取った方がいいだろう。
指輪はどうしよう。今日は肉のことで頭がいっぱいだろうから、明日渡そうか。
ガラスの棟の正面広場が賑わっていた。既に会場が形になっていた。
段々手慣れてくるな。
肉を焼くための網の架かった竈が会場を囲うように、いつもの倍の数並んでいた。
「若様ーっ!」
チッタが手を振った。
げッ、こっちを見つけたのか! こっちは『隠遁』してたのに。
さすが我が飛空艇部隊の観測主任だ。
見つかった以上、素直に姿を現わさないわけにはいかない。
僕は手を振った。
「若様だー」
「若様見つけたー」
小っこい子供たちがワラワラと集まってきた。
「今日のお肉なーに?」
「ドラゴンの肉ある?」
「ドラゴンは今回はないな。代わりに火竜があるかな」
「火竜? 火竜って美味しー?」
「ドラゴンと火竜ってどこが違うの?」
「味かな?」
「ハンバーグってなんの肉?」
「ハンバーグっていう魔物に決まってんじゃん。そうだよね?」
「僕は見たことないな」
「今日食べれる?」
「勿論だ。ジューシーで安上がり―― いや、なんでもない」
「僕も食べる!」
「俺も、俺もー」
「あたしもー」
「用事があるからまた後でな」と浮かれる子供たちを振り切り、アガタの店に急いだ。
あの様子じゃ予定より早く始めそうだ。
食料品売り場の配達の馬車と何度もすれ違った。
どいつもこいつも僕の顔を見るなり「毎度あり」と声を掛けていく。
酒場からは酒樽とジュースの樽が山積みされた馬車が。
歓声が上がる。
「あれ全部飲むのか?」




