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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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春を探して(禁忌 オア ノット? )6

 それは教会が隠し続ける光の魔石の製造方法だった。教会最大の資金源とも言われる光の魔石。大神殿の地下には隠された迷宮があって、そこの魔物だけが落とすとまことしやかに噂されるその石は、神の具現の象徴として秘匿されてきた教会最大の禁忌だった。

「リオナ、このことは内緒だからな。誰にも言うなよ。これは教会の禁忌だからな!」

「取り敢えずリオナの懐中電灯の明かりをこれに換えるです。こっちの方が明るいのです」

 聞いちゃいねー。

 懐中電灯を点けたり消したりしている。残った光の魔石をこの際分解してみる。すると案の定、四つの成分が抽出された。

「参ったな……」

 姉さんに要相談だ。

「四つになったです」

 風の属性の一片だけが他の三つより小さかった。僕は手頃な風属性の欠片と入れ替えて再構成した。光が増した。

「それは上げるのです」

「そっち返せ」

「こっちの方が大きいのです。魔力のないリオナにぴったりなのです」

「しょうがないな」

 僕は自分の懐中電灯の光の魔石を取りだした。そして同じように分解して、再構成したものを先ほど作った物と合成して、リオナの悔しがる顔を見ようとした。がそれはできなかった。

 そうか、四属性を合わせた段階で不純物扱いか。純粋な成分同士以外では合成できないんだな。

 僕は一個をポケットに入れた。

「我が家の光の魔石を総取っ替えする必要があるのです」


 とんだ不測の事態だった。

 エルーダの迷宮に辿り着くと早速、地下二十八階に潜った。

 もうすっかり慣れた順路である。『使役の角笛』も持参している。

 今の自分なら『隠遁』の修行がてら隠密行動を取りたいところだが、リオナがいるとそれは無理だ。と思ったらリオナがトコトコ前を行った。

「こら、ちょっと!」

「ふたりなら見つからないのです」

 なんですと?

 ワイバーンの横をすり抜けて、巣に向かう山道に入った。

「お前まさか隠遁系のスキル持ってるんじゃないだろうな?」

「リオナは狩人なのです。持ってないとなぜ思うですか?」

 ほんとに?

「なんで言わないんだよ」

「聞かれなかったです」

「あのなぁ……」

「戦闘中、リオナ消えたりしなかったですか?」

「そう言えば度々……」

「なんだと思ったですか? いくらリオナの足が速くても消えるほど速くはないのです」

 ごめん、そう思ってた。

 リオナは振り返って残念な何かを見るような視線を向けた。

「エルリン、ダメダメなのです」

 リオナの頭上にワイバーンの大きな顔が覗いた。目がギロリとこちらを見た。

 僕は『無刃剣』を叩き込んだ。のけ反ったワイバーンは崖を転がり落ちた。

「リオナ、一気に行くぞ」

 僕は視界が開けたところで転移ゲートを開いた。頂上の巣まで一気にショートジャンプだ。

 ゲートから出るとそこはもうゴールだった。

 相変わらず巣の主は外を徘徊している。

 周囲を警戒しつつ、宝箱の鍵を開ける。

「おっ、銀塊セットだ。銀塊と銀製品の山だ」

 銀塊は幸い『楽園』に放り込む程の大きさではなかった。リュックに放り込むには重かったので修道院に銀細工と一緒に転送した。

 よしよし、宝石が付いた細工が幾つもあった。

 それからいつものルートで二個目の宝箱に辿り着いた。

 こちらは今回残念賞、金塊ではなく、まんべんなくお宝セットだった。金貨がザクザク。王冠やら錫杖やら悪趣味なほど宝石をちりばめたネックレスやら細工がいっぱいだった。

 僕的には大当たりであった。

「三つ目行くですか?」

「いや、あれはいい」

 あれは万能薬の材料が沸く宝箱だ。我が家で在庫になってるものだ。使い道が見つかるまでは放置だ。

「コロコロ狩ってくか?」

 リオナの耳がピンと立った。尻尾も大きく揺れた。

「そろそろ食べたいと思っていたのです」

 僕はいつも群れのいる山の谷間を探した。

「いた! あそこだ」

「一撃なのです」

 銃弾が一頭のコロコロを仕留めた。

 スキルなしであっさり仕留めるか・・・・・・ 銃の腕は完全に抜かれたな。

 リオナはタグを付けてさっさと転送した。


 迷宮を脱出すると、僕は修道院、リオナは解体屋に向かった。

 僕は宝石が目的だったので、高値が付いた物以外、鋳つぶして宝石を抜き取った。そして鋳つぶした金や銀はその場で塊にした。

 試算では前回同様約金貨一千五百枚前後になりそうだった。後日改めてということで伝票だけ貰って坂を下りた。

 リオナが大きな肉のブロックをこれでもかと抱えて、周囲の注目を集めていた。

「待たせたな」

 リオナがほっとした顔をした。

「遅いのです」

「宝石を取り出す作業をしてたんだ。ごめんな」

 僕はリオナが持っているブロックを自分のリュックのなかに収めた。そして手荷物も受け取った。

 こんなにいらんだろ? お前、うちの保管庫が今どうなってるか知ってるか?

 半分肉が占領してるんだぞ。肉屋が一月ぐらいできる量だぞ。人が休んでる間にどんだけ肉集めしてんだよ。

「肉祭りでもしないと、我が家の在庫は減らんな」

「新しい住人も増えたのです。万難を排するのです。お肉が足りないなんて主催者の恥なのです」

 確かに住人の数は倍になったが、消費がそれで十倍になったりはしないぞ? 人族の連中も最近増えてきたから精々三倍程度だ。


 家に帰るとちょうど食卓に料理を並べている最中だった。

 アンジェラさんに眉をひそめられつつ、コロコロのブロック肉を保管庫に収めた。

 そのまま地下を移動して僕は装備置き場に装備一式を、宝石袋を作業場に置いて、食堂に戻った。

 リオナは既に席に着いていて、両手をタオルで拭いていた。

 そして開口一番。

「エルリンが光の魔石を作ったです。凄いのです」

 嗚呼ァ! 今の一声で村中に知れ渡ってしまった。

「なんですってーっ!」

 ロザリアが椅子から飛び跳ねて、リオナの襟首を掴んだ。

「な、何言ってるんですか、リオナさん。冗談はよしてください!」

 ふたりがブツブツと小声で言争いを始めた。

「黙ってろと言われなかったですか?」

「言われた」

「だったらなんでしゃべっちゃうんですか! せめて消音結界を張ってからにしないと駄目じゃないですか! 禁忌ですよ。教会のトップシークレットですよ! エルリンが暗殺されちゃってもいいんですか!」

「お肉祭り明日やるから、たぶんみんな忘れちゃうのです」

 なわけあるかーッ!

「お肉祭り!」

 子供たちが一斉に飛び跳ねた。うるうるした視線と目があった。

「久しぶりだね。今回はどんな肉が出るかな?」

「最近ドラゴンの肉見ないね」

 早々見られて堪るか! そこら辺の蜥蜴じゃないんだぞ。

「新しい住人も一緒だよね」

「初めてだからきっと驚くぞ。思いっきり派手にやらなきゃ」

「ソースは? ソース?」

「デミグラスは前回作った分がそのまま残ってますよ」

「やった!」

「チコもいっぱい食べる。ハンバーグがいい」

「俺分厚いステーキ! 顎が外れるくらいの奴」

「野菜も食べないと駄目ですよ」

 なんだか、リオナの言ったことが正しい気がしてきた。

 そうだとしても、こりゃ、保険を掛けておかないと不味いことになるかも知れないな。

「って言うか、お前ら家に帰らなくていいのか?」

「母ちゃんには今度発売する双六のテストをするからって言ってある」

「今度発売する?」

 僕はナガレを見た。

「兄ちゃんの姉ちゃんがこれは商品化すべきだって言ってたぞ」

「いつ来たんだ?」

「今さっき。部屋で寝てるよ。溜まった書類が片づいたから休暇貰ったって」

 ああ、王都に行ってる間に溜まった書類整理か。

 よかった、今回誘われなくて。

 光の魔石については目が覚めてから後で相談しよう。

「光の魔石の製法は教会の秘密ではないぞ?」

 ええっ? 今度はアイシャさんがほじくり返すのか?

「エルフなら誰でも知っておる。作れる者は限られているがな。秘密でも何でもないぞ」

 目が点になった。

「そうなの? 禁忌だって話は?」

「誰かが付いた嘘が広まったんじゃろ。ドワーフだって知っておるぞ。あいつらの地下の洞窟で見なんだか? もちろんそのことは教会も知っておるはずじゃぞ」

「なんだ、そうだったんだ」

「作れるということが問題なんです! 教会に睨まれますよ!」

「今更そんなこと言ってどうする? 金枝も神樹もあろうが」

「でも……」

「お前がここにいる限り何も言っては来ぬよ」

 ロザリアは今一納得していない様子だった。

 教会にとって自分がどれだけ貴重な存在か、あまり分かっていないようだ。この家と教会を繋ぐこれ以上ないほど太いパイプだというのに。


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