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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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春を探して(ヘルメスの刻印)4

 家に戻ると僕は壊れた石を調べた。

 台座に残された術式は発動に関する基本的なものだけだった。となれば秘密は石の方に。さすがにプロテクトが発動したようで、情報は読み取れなくなっていた。

 でも一つだけ気になったことが。それはヘルメスの刻印だ。どれ一つとして傷ついていなかったのだ。リオナの分も含めて四十個すべて。石の亀裂にどれ一つとして掛かっていないのだ。

 これは偶然ではない。付与効果を示す目印の文字列には幾つも亀裂が入っているのに。

 この刻印こそがオーバーブーストの核なのだと思う。僕が過去入れ子構造で培ってきた経験から、なんとなくこれが多層式の精密術式なのだと分かる。精度は僕の何十倍だ。だからただの刻印に見える。否、見えるようにしているんだ。

 これが一流のプロの仕事なのかと感心してしまう。

 でもそうなると気になってしまう。

 どうして隠滅用のプロテクトを最後の最後に作動させて、刻印ごと証拠を消し去らないのか? なぜこんな形で残しているのだろう?

 最後まで術式を機能させる、つまり自壊させるために、あえて残しているのだろうか?

 そんなことするくらいなら、最初から自滅プロテクトでも組んでおけばいいんだ。

 げせない。この刻印のプロテクトは破られないと思っているのか?



「よくお気付きになりましたね。それはこの部分だけ特殊な方法で硬化させているせいなのです。精密な術式を刻むには緻密で強固な土台が必要になります。ですから、壊れる場合もこの部分だけが残ることになるんです。自壊を組まない理由は装着時だった場合、装着者に傷を負わせる危険があるからです。強固な土台を壊すにはそれなりの力が必要になりますから。欠片で怪我でもされたら信用問題になります」

 ヘルメス店のいつもの女店主さんが簡単に暴露した。

「でもこのなかにお店の秘術が隠されているのでしょ?」

「この刻印部分は放っておけば二日ほどでゆっくりと溶けて消えていきます」

「はあ?」

 余りに手が込んでいて溜め息しか出ない。

「それにしても申し訳ございませんでした。まさか当店の売りを説明せずにお客様を呼び込んでいたなんて。雑貨屋の主には当店の趣旨を理解なされたお客様だけを通すようにと言付けておりましたのに。こちらも確認を取らなかったのはミスでした。心よりお詫び申し上げます。代金の方は――」

「返さなくても構いません。確認しに来ただけなので。それにとても役に立ちましたから」

「そう言ってもらえると助かります。ではお詫びと言ってはなんですが…… そうですね。秘密を一つお教えいたしましょう」

 秘密?

「刻印のことを見抜かれたお客様なら覚えることができるかも知れません。『紋章学』はお持ちですね?」

「はい」

「失礼ですがレベルは?」

「十五だったと思います」

「まあ! でしたら後五だけ上げれば、新しいスキルを覚えられますね」

「そうなんですか?」

「はい。まさかお若いのにこんなに高いスキルをお持ちだとは思いませんでした。お見それしました」

 深々と頭を下げられた。

「二十になりますと新しいスキルを覚えることができます。それこそが当店の秘密。『鉱石精製』スキルです。石自体をワンランクもツーランクも上の性能に改良する力です。ただ、いろいろな制約がありますから、その辺はご自身で修練なさってください。経験こそがすべてです。分からないことがあればいつでも遠慮なくいらしてくださいね」

「あの、僕たちはこちらのデザインがとても気に入ってるんです。壊れないレベルで付与していただくわけにはいかないでしょうか?」

「それは、嬉しい申し出なのですが、それですとどこにでもあるドロップ品と変わらなくなってしまいます。正直お勧めできません。よりよいアクセサリーでしたら当店が責任を持ってお薦めできるお店がございます。そちらをご覧になってみてはいかがでしょうか?」

 やんわりと断られてしまった。恐らく領分というものがあるのだろう。

 僕はそれでも大きな収穫があったと理解して、店を出ることにした。

『紋章学』を後五ぐらい上げるならすぐ上がる。こちとらハイエルフの術式を体得しているのである。『身代わりぬいぐるみ』を量産すればすぐだろう。帰ったら早速狙ってみよう。

 その前に紹介されたアクセサリー屋を覗くことにした。


 店は高層の中心地にあった。アクセサリー屋と言っていたが、付与装備全般を扱っているようだった。フル装備のマネキンが店の豪華な入り口を警護していた。

 店構えが立派すぎて入店するのが気が引ける。こんな気持ちはいつ以来だ?

 店内も豪華絢爛。アクセサリーが詰まったショーケースがずらりと並んでいた。

 取り敢えずどんなものがあるのか見て回ることにした。

「あ、これいいかも」

 店に入って正面の一番目に付くショーケースにリオナに似合いそうなピンクの可愛い指輪が置いてあった。『腕力付与二十パーセント、体力付与十五パーセント』、ダブル付与だ。ドロップアイテムとしたらいい方だ。値段を見たら、ええと…… 三十五万ピエトラ? 金貨一枚、千ピエトラだから……金貨三百五十枚!

 ないないないない! この付与でこの値段、いやダブルだからありなのか? この淡いピンクの石は人気がありそうだからありなのかも……

 この程度の石でも二十点揃えると金貨七千枚か。相場と言えば相場なのだろうが。破産する。

 大会前にこっちの店に来ていたら、あんなに闇雲に装備を付けまくったりしなかっただろうな。たぶん怖くて装備をケチっていたに違いない。腕力極振りとか有り得ないから!

 ヘルメスの店に迷い込んだのは正解だった。

 だが今は逆の現象が僕の心のなかで起きている。

 ヘルメスの二十点を見てしまうと、この店の商品はどれも心許ない気がしてしまうのだ。

 レアドロップを期待しながら日々精進するしかないかな。やっぱりお揃いのデザインは魅力的だよなぁ。

 特大魔石で買えるものを物色したが、最高でも付与は三十パーセントが限界だった。デザインは考慮に入れないでその値段だ。

 リオナたちが以前アイシャさんから貰った宝石類。如何に破格だったか、今分かった気がするよ。

 結局、買わず仕舞いで店を出た。

 いつでもヘルメスを買えるように特大魔石をプールしておくべきだな。

 センティコアの狩り場を教えたのは早計だったな。せめて少し溜めてからにすべきだった。

 迷宮攻略を進めて、早々にもう一種ぐらい魔石を落とす魔物を探さないといけないな。

 取り敢えず今日は帰って、『紋章学』を極めてやろうじゃないか!


 すっかり有名人になってしまったので、昼は自宅で取ることにした。ひとりでいると絡まれるからな。

 双六は今日も盛況であった。

 コタツが満員だった。

「なあ、テト。今月空飛んだか?」

 子供たちの給金が気になって尋ねた。基本給はあるが、働かないでとなると子供たちのモチベーションに影響する。今月は自分のことばかりで、何もしてやれなかったから急に心配になった。

「三回飛んだ」

 見上げる笑顔が眩しい。

「空中庭園に荷物の配達したの」

 ゲームを見ているだけのチコが言った。

「仕事はリオナが受けたのか?」

「『紋章団』経由なのです。みんなで行ってきたです」

「どれくらいできあがってた?」

「でっかい三角のお城ができあがってた」

 三角?

「宮殿みたいにきれいだったのです」

「階段みたいなの。一番上の池から水がこぼれて、下の階に溜まって、また下の階に落ちて、滝を作って、もう一個下の階に落ちて、また滝になったの。滝がいっぱいだったの。水のカーテンだったの。凄いきれいだったの」

 チコが捲し立てた。余程感動したのだろう。

「飛行船の発着場が建物の屋根の上にあるんだぜ」

 ピノが言った。

「ヴィオネッティーの港にも負けてないよね」

 ピオトがサイコロを振った。一のゾロ目が出た。

 ピオトがうなだれて、こちらを見た。

 僕のせいじゃないだろ!

 駒を二つ進めた。

『腹を壊して一回休み』になった。ピオトはがっくりと肩を落とした。

「なんでスプレコーンには造らないのかな?」

 テトがサイコロを振った。

「飛行船の発着場ならあるだろ?」

 六のゾロ目が出た。進んだ先に魔物がいた。

「高い所にある方が格好いいよ。降りるの楽だし」

 サイコロを二個振って、撃退した。毛皮を手に入れた。

「確かに間に合わせの倉庫じゃなくて、ヴィオネッティーみたいに多層構造のでっかい格納庫があると格好いいよな」

 ピノが手を上げて毛皮を買い取った。二、三枚のアイテムカードと交換に防御力プラス三のマントを貰っていた。

「建物がね、湖のなかにあるんだよ」

「おっきくて長い橋が架かってるのよね」

 チッタがサイコロを振ったら『宝の地図を発見する』のマスに駒が止まった。

『探索をする』を選ぶと二回休みと交換に『優れた長剣』攻撃力プラス五の剣がもらえるようだ。

 チッタは迷わず二回休みを選んだ。

「……」

 これ…… 双六だよな?

 オクタヴィアがサイコロを振った。


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