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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない

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春を探して(母の味より・・・・・・)3

 リオナの記憶にあるお母さんの料理はベーコンとのあっさりバター炒めだ。ペペロンチーノでピリ辛に仕上げたものらしい。それをどうこう言うつもりはない。お母さんの味なのだから、苦くて、子供の口に合わなくても関係ない。思い出こそが最高のスパイスだ。

 それに摘んできた物は苦みが少なそうだし、和える量を減らせば子供でもいけるのだろう。

 パスタを加えても美味しそうだ。

 お母さんと対抗する気はないが、思うところあって一品作ってみようと考えた。

 それはふきのとうの天ぷらだ。

『天ぷら』は異世界からこの世界にもたらされた代表的な調理法である、と言われている。我が家では。

 油で揚げる料理はこの世界にもないわけではない。だがこの辺では余り好まれない調理法だ。

 理由は廃油の臭いなのだが、鼻のいい獣人たちにはこの悪臭は相当きついらしい。

 捨てるにも処分に困るから結局、誰も油料理は作らないわけだ。美味しいんだけどね。

 貴族の晩餐に出されるのが関の山だ。

 実家では廃油は高温で母さんが一気に跡形もなく燃やし尽くしていた。ヴィオネッティーも獣人は多いから、消臭結界を張っていたっけ。

 要するに処分の仕方はお手のものというわけだ。

 僕は急ぎ、王都に出向き油問屋を訪ねた。そこでは豆から油をその場で抽出したものを販売していた。油はすぐ傷むから油豆という豆の状態で保管するのだという。

 僕は鍋一杯分の油を買ってとって返した。


 家に帰ると早速厨房にお邪魔した。下準備は既に済んでいるようだった。

 当のリオナは双六に参戦していた。

 奇声を上げる者がいなくなって、粛々と進展しているようだった。

 どうやらうまく調整できたようだ。

 僕は胸を撫で下ろした。

 が、その一方で計算が複雑化して唸る者が増えた。

「やった! 六と三だ。攻撃力が五だから……六と五で三十、三と五で…… 十五。あわせて四十五。敵の防御力が…… 二十だから……」

 ピノの頭から湯気が。

「勉強にもなるなんてね」

 アンジェラさんが僕の傍らに来て笑った。

 完成したら商品化してもいいだろう。売り文句は『子供の計算力向上に最適!』だ。

 僕はアンジェラさんに天ぷらを作りたい旨を説明した。それとお節介かとも思ったが、ふきのとうがリオナのお母さんとの思い出の味だということも伝えておいた。

 幸い天ぷらの作り方はアンジェラさんも知っていたので、すべてお願いすることができた。

 からりと揚がったふきのとうを塩で頂こうということになった。

 なので「美味しい塩を買ってきておくれ」ということになり、僕は中央広場に走らされた。

「どうせ暇なんだろう」というとどめの一撃を浴びて。

「塩にいいも悪いもあるのかよ……」


 食料雑貨の店に行ったら、何種類もの塩が置かれていた。場違いな石がゴロゴロ置かれていると思ったら全部入手先の違う岩塩だった。

「どれがいいんだろ?」

 いくら眺めていても分からない。

「何をお求めですか?」

 店員が塩売り場の前でウロウロしている不審人物に声を掛けてきた。

「天ぷらをしようと思うんだけど、どういった塩がいいだろう?」

「それでしたらミネラル豊富なこの辺りの岩塩などいかかでしょう? 粗めに削ってまろやかさのなかにしっかり塩味を効かせるのがよろしいかと」

 普通に大量売りされているお塩の三倍の値段だった。

「ではこれで」


 夕食はリオナの思い出料理と、それのパスタ和え。塩で食べるサイコロステーキと天ぷらだ。

 どうせだからとアンジェラさんはいろいろな物を天ぷらにしてくれた。

 海老にかき揚げ、白身魚に、パタータ、ペペローネにチーズ等々。

 チーズは意外だったが、酒飲みの爺さんとアイシャさんに馬鹿受けした。外側はカリッ、内側はとろーり、塩気も効いて酒の肴に最高だそうだ。

 海老や白身魚にはナガレが飛びついた。野菜にはヘモジが。オクタヴィアと子供たちはなんでも容赦なく食べた。

 ふきのとうの料理もみな完食した。子供たちにはどうかと思ったが、苦みがなくて甘くて、ピリ辛で美味しかった。

 リオナが満足した笑顔を僕に向けた。

 僕は胸をほっと撫で下ろした。

「美味しかったのです」

「僕もだ」

 リオナが笑った。

「チーズのあれはおやつに最高なのです」

 そっちかよ!


 食事が済むと子供たちは再び双六の修羅場に突入した。

 厨房の裏手では長老たちが尋ねてきて、こそこそやっていた。

 どうやら油を借りに来たようだった。

 いろいろな山菜やら食材を持ち込んだようだ。

 あっという間に籠一杯の天ぷらが揚がって、それを持って道場の方に消えた。

 離れでどんちゃん騒ぎを始める気のようだ。

 それから数時間後、ゲーム初のドラゴンスレイヤーが誕生した。なんと計算が一番苦手なオクタヴィアが一位抜けしたのである。


 ナガレ作『冒険双六シリーズ第一作』の誕生の瞬間であった。ナガレの双六盤は子供の教育にもいいとして、広く世間で遊ばれるようになる。

 販売所売り上げで年間二千台、委託販売を含めてシリーズ累計で十万台のベストセラーになった。

 特に『第三弾、世界を旅する冒険双六』は五百年前の世界を旅する作品で、現代に繋がる地理と歴史の勉強に最適と、魔法学校の教材にもなった名作である。

 製造が追い付かなくて、予約一年待ちの大ヒット商品になった。

 シナリオ製作でハサウェイ・シンクレアこと、アイシャさんが参画した珍しい作品である。

「召喚獣が儲けてどうするんだ?」と尋ねたら、各地の池や沼に祠を建てると息巻いていた。それにどんな効果があるのかは知らないが、祠の製作費代が入ってくるのはいいことだ。



 ふきのとうの件から四日後のことであった。

 事件が起きた。

 始まりはリオナの奇声だった。早朝、まだ誰もが寝ている時刻にその声は家中に轟き渡った。

 僕は飛び起きて、剣を携え、三階から二階に飛び降り、リオナの森の二階入り口から突入した。ツリーハウスに続く渡り廊下を行き、リオナの部屋に辿り着く。

「リオナ! どうした? 大丈夫か?」

 周囲を索敵したが、敵らしき反応はなかった。

 リオナが部屋から出てきた。

 続々と住人たちが森に集まってくる。アンジェラさんまで剣を携えていた。

「壊れたです! マンマ・ミーアなのです!」

 そう言ってリオナは両手を突き出した。

 両手には指輪が握られていた。それはいつもしているヘルメス製の腕力と体力を付与した四点の指輪だった。

「石が割れてる?」

 真っ赤な石に大きな亀裂が走っていた。

 リオナが涙目になって、頷いた。

「他のアクセサリーは?」

 僕たちはリオナの部屋に入り込んだ。

 リオナはヘルメス製二十点セットの収納箱を持ち出すと、蓋を開けた。

 言葉を失った。

「全滅?」

 すべての真っ赤な石がどれもこれも、一つ残らず割れていた。

「まさか!」

 僕は地下の宝物庫に急いだ。

 そして飾ってある棚から収納箱を回収して蓋を開けた。

「大丈夫かい?」

 付いてきたアンジェラさんの声に僕は首を振った。

「全損だ」

 青い石がすべて割れていた。

「こりゃ、ヴァレンティーナ様に進呈した物も壊滅だな」

 朝も早くから、僕は領主館に出向く羽目になった。リオナには散歩があった。

 領主様はまだ休んでいると言うことなので、待たせて貰った。

 すると、案の定、部屋のなかから悲鳴が上がった。

 僕は部屋に詰め掛けた一行を手で静止して、代わりに部屋のドアをノックした。

「エルネストです。お早うございます」

 扉が開いて、いきなり首根っこを掴まれ部屋に引きずり込まれた。

 寝間着かと思ったら着替えは済んでいた。

 そりゃそうだ。寝間着姿で指輪はすまい。

 僕は我が家の石もすべて壊れた旨を伝えた。

「どういうことだ?」

 悩んでいると姉さんがやって来て、欠片を見ながら言った。

「おかしいとは思ってたんだ。この程度の石に付与するには効果が大きすぎたからな」

「それって…… 限界を超えていたってこと?」

「そうだ。このヘルメスという店はオーバーブーストした品を売る店だったのかもしれないな」

「詐欺ではないの?」

 ヴァレンティーナ様が心配そうに尋ねた。

「無理矢理効果を底上するだけでも凄い技術なんだよ。普通は術式を施して最初に魔力を通した段階で、石の強度が足りなければ壊れるものだからな。画期的と言っていい」

「期間限定のオーバーブーストアイテム?」

「恐らく」

「とんだ散財をさせてしまったわね」

「武闘大会では役に立ちましたから、僕は構わないのですが。デザインは気に入ってたんですよね。僕もリオナも」

「取り敢えず、店に行って真相を確かめてくるんだな」

「そうするよ」

「わざわざ来てくれた助かったわ、エルネスト」

「いえ、こちらのミスなので」

 僕は姉さんの導き出した予測に感心しながら館を後にした。

 オーバーブーストか…… そんな技術が存在したんだ。


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