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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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春を探して(ふきのとうみーつけた)2

「大丈夫なのです!」

 水辺のほとりには獣たちが屯していた。僕たちはその真ん中に降り立った。

「生態も分かっていないのに、危ないだろ!」

「危ないのはいないのです。こっちなら硫黄の匂いもしないのです」

 どうやら温泉源からは風上にいるようだった。

 周囲は草食の獣だけだったが、少し離れた丘の上には肉食の一団がこちらを見下ろしていた。

 人との接触が少ないせいか、僕たちを見ても獣たちが慌てる様子はない。少し距離を取って横目で警戒しているだけだ。

「セベクみたいなのが水中にいたらどうすんだ?」

「セベクがいたら水鳥は暢気に泳いでいないのです。たぶんもっと大きい主がいるのです」

「なおさら危ないだろ?」

「大きいから浅瀬には来ないのです」

 そんな勝手な解釈を。

「ほんとかよ」

「エルリンがいれば大丈夫なのです」

 結局、それが結論か。

 リオナは周囲を見渡した。

「お肉がいっぱいいるのです」

 食ってもうまそうじゃない奴ばかりだ。

「あうっ、あれはライノスなのです!」

 ん? サイのことか? 頑強な甲冑のような甲羅を着た獣だ。鼻先の鋭い角はプレートメイルすら陥没させる強固なものだ。オスの鎧の角は尖っていて見るからに痛そうだ。あれで草食だと言うんだから詐欺だ。

「あれのおかげで肉食が襲ってこないのです。殺しちゃ駄目なのです」

「帰りの獲物はどれにするんだ? 鹿肉か?」

「今日は肉を取りに来たのではないのです」

 そういうと畔に背を向けて森の方に歩き始めた。

 キョロキョロしながら何かを探す。

 しばらく雪が溶け始めた辺りを探していると急に立ち止まった。

「あったのです!」

 ずかずかと雪のなかに入っていった。

 肉食の獣がこちらの動きに呼応して、移動を開始した。群れから外れた奴が狙い目と相場が決まっている。

 リオナが雪を掻き分けて何かを掘り始めた。

 すると、若い緑の葉物が出てきた。リオナの手のひらにすっぽり入るサイズの丸っこい蕾だった。

「ふきのとうなのです。これを採りに来たのです。花が出たり、開きすぎたのは駄目なのです。大きすぎるのも苦いから駄目なのです。地下に潜ってる茎は毒なのです。食べちゃ駄目なのです」

 肉しか興味のないリオナが一体どうした風の吹き回しか? やけに詳しくうんちくを垂れる。

「これくらいがいいのです」

 それはまだ小さな蕾だった。

「いっぱいあるのです」

 リオナは一心不乱に雪を掻き分ける。

 掻き分けると僕に取れと言わんばかりに、次の獲物を掘りおこす。

 その顔はとても幸せそうであり、どこか寂しそうでもあった。

 白い息を弾ませ飛び回る。

「母様の好物だったです」

 ポツリと言った。

「この時期になるとよくふたりで採りに行ったのです。王都にいる間は食べられなかったのです」

 つまり王宮に引き取られてからずっと今日まで、思い出の味とはご無沙汰だったってことか。

 恐らく誰にも話していないのだろう。

「そうか……」

 ふたりでひたすら雪を掘り起こした。

 リオナの鼻は的確に蕾の位置を特定した。

 若い蕾があっという間に溜まった。僕たちは真っ赤になった手を休めた。

 息は白く、頬は赤く、手は悴んではいたが、僕たちは楽しい時間を過ごした。

 振り返ると結界をかじったり、引っ掻いたりしている獣たちの姿があった。

「お前らの肉は食っても美味しくないから、こうだ」

 僕はまとめて落とし穴に落とした。出口は遙か先に設定した。

「早く食べたい」と言うので、僕たちは帰還することにした。

 転移結晶取り出すと僕たちはスプレコーンに戻った。


「まずは灰汁抜きなのです。苦いからちゃんとするです」

 中央広場に差し掛かるとリオナが言った。

「それから?」

「ベーコンです」

「ベーコンだけ?」

「ペペロンチーノと……」

 なんだか自信がなくなってきたみたいだぞ。

「バターで炒めたです。塩も入れる?」

 こっちに聞いても分からないよ。料理は門外漢だ。

「あっ!」

 ロメオ君ちの前を通って思い出した。

「生態調査…… 忘れてた!」

「分かるのです」

 僕はリオナに引っ張られて冒険者ギルドを訪れた。

 大会優勝者が来たというのでロメオ君の家族が騒がしく出迎えてくれた。ロメオ君はお使いで留守だった。休日の日の方が忙しそうだ。

 リオナがカウンター横のテーブルで生態調査の書類に観測結果を書き込んでいる。相変わらず獣人の鼻は凄い。目の届かない場所までしっかり網羅していた。

 僕は残りの提出書類を記入した。

「そういやアイスゴーレムがいましたよ。なんでユニコーンは倒さなかったんでしょうね?」

「そりゃ、無害な敵までは倒さんだろ」

 ロメオ君の親父が言った。

「無害なんですか?」

「あんな足の遅い魔物に誰が捕まるんじゃ」

 ロメオ君の爺さんが言った。

 確かにそうだが。

 やることのなくなった僕は、久方振りに『認識計』のテーブルに向かった。

「さて、武闘大会に出て少しは成長したのかな?」

 僕は『認識計』に手を置いた。


 レベルは七十二、頭打ちになった。それでも二ほど上がっていた。魔力以外が上がったようだ。

 

 アクティブスキル…… 『兜割(五)』『鬼斬り(一)』『スラッシュ(三)』『連撃(五)』『雷神撃(二)』『装備破壊(四)』『ステップ(十二)』『シールドバッシュ(五)』『シールドアタック(二)』『認識(十)』『一撃必殺』『火魔法(七)』『水魔法(十)』『風魔法(十)』『土魔法(九)』『氷魔法(十三)』『雷魔法(六)』『光の魔法(一)』『無属性魔法(一)』『召喚魔法(十三)』『空間転移魔法(十)』『強化魔法(一)』『竜の目(六)』

 パッシブスキル…… 『腕力上昇(九)』『体力強化(七)』『片手剣(十四)』『両手剣(四)』『鎚(三)』『弓術(四)』『盾術(十)』『スタミナ回復(七)』『二刀流(一)』『隠遁(一)』『アイテム効果上昇(七)』『採集(五)』『調合(十)』『毒学(四)』『革細工(四)』『鍛冶(二)』『細工(五)』『紋章学(十五)』『覚醒(十二)』『料理(三)』

 ユニークスキル…… 『魔弾(七)』『楽園(七)』『完全なる断絶(十四)』『千変万化(八)』

 称号…… 『蟹を狩るもの』『探索者』『探求者の弟子』『壁を砕きし者』『ユニコーンの盟友』『覚醒者』


 相変わらずごちゃごちゃだ。

 新規が少し増えた。『雷神撃』『装備破壊』『鎚』『細工』だ。『細工』以外は以前確認済みだが、『細工』は今更な気もする。『身代わりぬいぐるみ』辺りが功を奏したか?

『無刃剣』は勝手に名前を付けた技なので当然ここにはない。厳密にはただの水や土や風魔法なので、スキルアップはそちらでということだ。

 そして『隠密』の上位スキル、『隠遁』だ。

 いやー、武闘大会に出た甲斐があったというものだねー。


 リオナの作業が終った。書類を提出するとすぐに報酬が支払われた。

 あれ? 検証作業は?

「お前らの作業の、正確さは既に実証済みだ」だそうだ。

 金貨一枚を懐に僕たちは帰宅した。


「うぎゃぁああ」

「また死んだーっ」

 しっかり睡眠を取って戻ってきた子供たちをも巻き込んで双六はまだ続いていた。

「バランスがうまくないのよね。ちょっと何また死んでんのよ!」

 制作者のナガレが死んだヘモジをぽかりとやった。

「どうしていつも接戦になるのかしらね?」

「敵も味方も同じルールで戦ってたんじゃ、五分の戦いになるに決まってるだろ? プレイヤーを勝たせたかったら下駄を履かせなきゃ。特に装備の揃わない序盤はな。いっそ味方の攻撃のときはサイコロ二個振らせたらどうだ?」

 僕は適当なことを言って、リオナと一緒に台所に。

「まずは灰汁抜きだな」

 ふきのとうをテーブルにぶちまけて、いざ手伝おうとしたら、エミリーが復活していて、台所を追い出された。

「後はエミリーとやるのです」と言われて、お役御免になってしまった。

「おおーっ!」

 居間で歓声が上がった。

 どうやら新ルールに基づいて、改めて戦いが始まったらしい。

 アクティブスキル…… 『ステップ(十)』→『ステップ(十二)』、『シールドバッシュ(三)』→『シールドバッシュ(五)』、『シールドアタック(一)』→『シールドアタック(二)』、『認識(七)』→『認識(十)』、『火魔法(四)』→『火魔法(七)』、『水魔法(四)』→『水魔法(十)』、『風魔法(五)』→『風魔法(十)』、『氷魔法(十)』→『氷魔法(十三)』、『雷魔法(三)』→『雷魔法(六)』、『召喚魔法(三)』→『召喚魔法(十三)』、『竜の目(三)』→『竜の目(六)』

 パッシブスキル…… 『腕力上昇(五)』→『腕力上昇(九)』、『体力強化(五)』→『体力強化(七)』、『片手剣(七)』→『片手剣(十四)』、『盾術(四)』→『盾術(十)』、『スタミナ回復(三)』→『スタミナ回復(七)』、『隠密(五)』→『隠遁(一)』、『アイテム効果上昇(五)』→『アイテム効果上昇(七)』『調合(七)』→『調合(十)』、『革細工(三)』→『革細工(四)』、『細工(五)』『覚醒(十)』→『覚醒(十二)』、『料理(一)』→『料理(三)』

 ユニークスキル…… 『楽園(五)』→『楽園(七)』、『完全なる断絶(十一)』→『完全なる断絶(十四)』、『千変万化(二)』→『千変万化(八)』


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