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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第八章 春まで待てない
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武闘大会(打ち上げ)12

 別室に案内されるとそこには、お歴々がずらりと並んでいた。

 目を引いたのは爺ちゃんの存在だった。ここ数日、姿を隠していたから心配していたのだ。

「薬の件、済まなんだな」

 第一声がそれということは、『神薬』の存在がここにいる全員にばれたということだ。

「量産は可能か?」

 いつも噂に出てくる第一師団長殿だ。閉会式で総評を述べた老人だ。早速軍事転用の話か。

 爺ちゃんや王様の顔を伺うと素直に話して大丈夫だという顔をしていた。

「万能薬と同等の材料が要ります。つまりそういうことになります」

「材料さえ入手できれば、資金繰りさえ付けば作れるということだな」

「作る気はありません。ドラゴンでも現れない限り」

「よい答えだ」

 王様が応えた。

「薬は封印する。但し、製法の記録は残し、魔法の塔の封印書庫に収めよ。解錠の鍵は王家の血のみとせよ。万が一、許可なく閲覧、生産したものは極刑を持って対処する。よいな」

 次官のジーノさんが深々と頭を垂れた。それをかばうように爺ちゃんが前に出た。

「今回の一件は白亜城を守ろうとした魔法の塔の有志による犯行と判明した。わしを思うてのことであったようじゃ。機密を漏洩させた責任は取って貰わねばならぬが、今回に限り、咎めは軽くするように計らってもらったよ。エルネストもそれでよいかな?」

 爺ちゃんが言った。

 爺ちゃんがいいなら、別に構わない。収拾した案件を蒸し返す気はないよ。

 僕は黙って頷いた。

「姉さんが暴れませんでしたか?」

「お前を人質に取った。発明者はお前だからな。大人しく引いて貰えたよ。ジーノは死にかけたがな」

 ジーノさんが冷や汗をハンカチで拭った。

「すいません」

「いや、こちらの監督不行届だ。わたしが彼女の立場でも怒っただろう。大会にまで影響を出してしまって本当に済まないことをした」

 深々と頭を下げた。

 ジーノ氏、痛恨のミスと言ったところか。

「まったく、外部に情報が流失していたらどうなっていたことか。それこそただでは済まなかったぞ」

 宰相殿が珍しく真顔だった。

「当人の回復スキルということで口裏を合わせることにしたから、君もそのつもりでな」

「はい」

「では、この件は以上だ。何か言いたいこと、聞きたいことはあるかね?」

「言いたいことはないのですが、聞きたいことが」

「何かね?」

「今大会の警備主任ってどなたですか? 僕を知っていたようなのですが?」

「ああ、それならそこのデメトリオだ。彼の部隊に任せた」

 第二王子? なんで遊撃隊が?

「毒の件助かった」

 パスカル君の一件でお世話になった王子が言った。

「いえ、ですが殿下がなぜ?」

「父上と交換条件を出した」

「交換条件?」

「優勝者と手合わせさせて貰おうと思ってな」

「そう言うわけでわしとは一回休みだ、エルネスト。明日、デメトリオと闘技場で遊んでいけ」

 たはーっ。やっぱりただでは終らなかったか……

「エルネスト」

 爺ちゃんが声を挟んだ。

「わしの我が儘で済まんかったの」

「いえ、礼なら姉さんとヴァレンティーナ様に。僕は未だによく分かっていないので」

「分からんで戦っておったのか? なるほど、お前なら白亜城がガラクタだと判断してもおかしくはないの」

「でも何かあるのでしょ? 姉さんたちが飛びつくような何か?」

「それはあとのお楽しみじゃ」

「さあ、主賓がいつまでも、こんな場所でくすぶっていては、客に申し訳が立たぬ。ここは一旦お開きにするとしよう。解散だ」

 王様の掛け声で場は散開した。

「ああ、そうだ。今日の審判の方は?」

「あれは第一師団(うち)の副団長だ。審判はあやつの趣味でな。かれこれ十年努めておる。間近で値踏みができると言って毎度毎度精を出しておるわい。なんだ、気になったか?」

 第一師団長が教えてくれた。

「副団長…… 道理でお強いわけですね」

「会場に来ておるぞ。挨拶していくといい。なんならそのまま第一師団に入ってもらっても構わんぞ」

「ギョイト殿!」

 ヴァレンティーナ様が口を挟んだ。

「冗談じゃ。冗談」

 なるほど第一師団長殿は抜け目のない御仁であった。デメトリオ様も僕の兄も従えている老人がどんな人かと思ったが。上には上がいるもんだ。

 僕はヴァレンティーナ様をエスコートする形で席を立った。


 それからは祝いの挨拶と美味しい食事を交互に頂いて過ごした。

 副団長殿は気さくな人だった。兄のことをよく知っていて、やんちゃ坊主と言っていた。

 姉さんと爺さん、ロザリアとヘモジは宴に既に参加していた。

 美味しそうな料理をヘモジが頬張っていた。

 リオナもお家の事情がなければ参加させてやりたかったな。

 僕としては早々に引き上げたかったが、主賓ともなればそうもいかなかった。

 大分ワインを飲まされたが、万能薬のおかげで酔うことはなかった。

 ロザリアは闘技場での活躍を目にしたにわかファンに囲まれていた。彼女のマントも僕と同様、『銀花の紋章団』の物だったので、しつこい勧誘を受けることはなかった。そばに姉さんもいたし、どちらかというと『紋章団』のお披露目のようになっていた。

 爺さんも僕の師匠として一躍有名人の仲間入りを果たしていた。

 道場開設のオファーがひっきりなしに来たが、自分には既に道場がある旨を伝えて断っていた。

 ヘモジは野菜ばかり食べていた。珍しいドレッシングに舌鼓を打っていた。ずっと閉じ込められていたせいで、少々羽目を外し気味であった。

 将来有望な騎士たちよりも、列席した若い婦人たちの興味を引いていた。

「やあ。なんとか首の皮が繋がったよ」

 振り返るとゾンビ戦士ことガスパール・カジーニが正装姿で立っていた。

「薬は切れたんですか?」

「ああ、すっかりひ弱になったぞ」

 そう言って笑った。

 聞けば、兄弟が魔法の塔の錬金部門に勤務していたせいで、頼まれたのがことの始まりのようであった。元々、出身地の地元警邏隊に勤務していたのだそうだ。あわよくば近衛師団にと狙っていたようだ。つい今し方、副団長に入団の勧誘を受けたらしい。手段は不味かったが、何度でも立ち上がったその不屈の精神が評価されたらしい。僕との試合での降参の潔さも買われたようだ。

 他の参加者も軒並みオファーを受けたようだった。

 あの副団長、誰でもいいのかよ。

 爺さんは呆れていた。

 ゼンキチ爺さんの時代には、優勝特典だけが近衛に入れる数少ない機会だった。近衛師団への入団は王家の下部組織からの這い上がりが常套であり、中途採用は著しく制限されていたのだ。常勝、最強の近衛師団。人生をやり直したい者にとって、それは数少ないチャンスだったのである。

「緩くなったものじゃな」

「第一師団の減員や、北の統治のための増員、西方遠征の影響で、大幅に人員が足りなくなったせいですよ」

「各領主たちも昔ほど貧しくはないからな。優秀な人材はどんどん採用されていく」

 姉さんが醸造酒を爺さんに持ってきた。

「今は多少実力があれば安全な領地でお抱え騎士として、一生安泰な暮らしができるんだ。誰が好きこのんで危険な近衛に入隊するものか」

「聖騎士団もそうですね。最近人材が集まらないと言いますし」

 ロザリアがヘモジを抱えて戻って来た。

 ヘモジはピーマン、ペペローネを丸かじりしていた。

「名声だけで人が集まる時代は終ったのかも知れんな」

「切っ掛けだと思います」

 ロザリアが僕を見た。

「『銀花の紋章団』の入団倍率は既に定員の三十倍を超えてますよ」

「半分は年端もいかない子供たちだがな」

 姉さんが笑った。

「そこに希望があれば、志のある者は必ず集まります」

「うちには目立つ広告塔がいるからな」

 姉さんの台詞に皆が笑った。

 ヘモジ、お前まで笑うのか。


 噂で西方遠征に派遣された第三師団の情勢が思わしくないと聞いた。

 ヴィオネッティーを始めとする南部諸国が順調に領地を拡大する一方で、北西部、豊穣な下流域を統治領域とする第三師団と、隣接する北部の領主たちの消耗が激しいと言う。かと言って、南部諸侯に更なる領土を与えるわけにも行かず、にっちもさっちもいかなくなっているらしい。

 魔物から得られる報酬目当てで、北部の強欲共が最高の場所を手に入れたのはいいが、その分、犠牲者が後を絶たなかった。今更、挙げた手を下ろすわけにもいかず、北部の貴族は困窮していた。

 晩餐会会場では事態打開のため、第一師団が投入されるのではと真しやかに囁かれた。

 パスカル君のお父上をヴィオネッティーに招いておいて本当によかったと思った。


 その夜、僕たちは用意された部屋に泊まることになった。

 僕とロザリアと爺さんはアシャン老の別宅に泊まることになった。もちろんヘモジも。姉さんだけは護衛も兼ねて王宮のヴァレンティーナ様の私室に泊まることになった。

 明日、闘技場の一件が済めば、王都ともおさらばできる。もうしばらくの辛抱だ。


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